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【母親の影響力】

とある80代女性のお見送り。
私はその司会を担当させてもらったのだけれど。
お打ち合わせで聞かせてもらった話は
あまりに衝撃的だったんだ。
子どもにとって
母親という存在が与える影響は
こんなにも計り知れないものなのか?と
改めて思い知らされた今回のお見送り。
この女性は「長女」だけを
愛せなかったんだ。。。

「私は母を心の底から憎んでいますから。」

通夜のあとのお打ち合わせの席で
開口一番こう口にしたのは
亡くなった女性の長女さん。

れっきとした
実の娘であり
二人娘で跡取りのいなかった
このお宅を
婿をとってまで守ってきた長子。

でも。
最期を看取るまで
共に暮らした実の母親を
この長女さんは
誰よりも憎んでいたんだ。

亡くなったこのお母さんも
苦労してきた人なんだそう。

舅姑、そして3人の小姑がまだ同居する家に
嫁いできてね。

…四人の女性陣にかなりイジメられたらしい。

だから
このお母さんは
姑と小姑が大嫌いだった訳だ。

まぁ
ここまではよく聞く話。

ただこのお母さん。
あまりにこの姑と小姑が嫌いすぎて
その矛先が
思わぬ方向に向いてしまったのよね。

長女が生まれると
このお母さんが死ぬほど嫌いなこの四人が
長女をめちゃくちゃ可愛がったんだそう。

お母さん自身は
長女が生まれて間もなく
生計を守るため
働きに出てしまったから
この四人が長女の面倒をみてきたがために
余計にそうなっちゃった訳だ。

当然。
長女はこの四人になついた。
考えてみれば
当たり前なのだけれど。。。

お母さんの心は
その事実を受け止めきれなかったんだろね。

自らが嫌いで仕方ない四人に
なつく娘が許せなくて…
嫌悪の矛先が長女さんに
向いてしまったの。

「おまえなんか産まなきゃ良かった」

「おまえなんか要らない子だ」

「おまえなんか嫌いだ」

実の母親に
そう言われ続けて
育ってしまった長女さん。
それだけでも
小さな心を痛めるには充分すぎたはずなのに。

そこに歳の離れた妹が誕生したの。
その頃には
姑は他界し
小姑たちも皆嫁に出ていたし
経済的にも大分安定していたから
この妹さんのことは
このお母さんが自分の手で育てたんだって。

だから。。。
二女であるこの妹のことは
めちゃくちゃ可愛がったお母さん。

すると明らかなまでの
えこひいきが始まってしまったのだそう。

なんでもかんでも
長女さんと二女さんには差がついて
母親の愛情は
全て妹に奪われ
ないがしろにされ続けた長女さん。

「同じ娘なのに…。」

その想いは
限界を超えて
長女さんはお母さんを憎んだ。

憎むことで
うらむことで
心のバランスを取ろうとしたのかもしれない。

でも。
誰かを憎み続けるって
すごくパワーがいることだよね。
他人さまならともかく。
血の繋がった存在だから
切っても切れない縁だから。
余計にキツイ。

それでも長女さんは
還暦を過ぎてもなお
母親が亡くなってしまった事実を
目の当たりにしてもなお。

母親を憎み続け
そして
どこかそんな自分に疲れてしまっているように
私には見えたんだ。

母親が亡くなってもなお
憎しみを抱えて生きては欲しくなくて。

必死に届けられる言葉がないか?
探した私。

当然。
私自身の言葉には
そんな力はない。

だから。
仏の教えにすがることにしたの。

15年間。
お寺さまが話されたご説法を
書き綴った「法話ノート」を
引っ張り出してきた私。

あった‼

「消せない憎しみ」と書かれていた
インデックスを見つけたんだ。

「人は仏にはなれません。
 たくさんの煩悩を抱え生きている。
 それが人。

 お日さまのように笑う日もあれば
 まるで夜の嵐のように
 心が荒れ狂う日だってある。

 でもそれでいいのです。

 不完全だから人間なのです。

 誰にでも分け隔てなく接し
 誰を嫌うでもなく
 誰からも嫌われることなく生きた。
 なんていう人を
 たまに見送ることがありますが…
 
 なんと素晴らしい方なのだろうと
 思うと同時に
 私は少し心配になるのです。

 「この方は本当に
 自分を生きられたのだろうか?」ってね。

 人は仏にはなれません。
 ならば。
 嫌うもよし。嫌われるもよし。
 怒るもよし。泣くもよし。

 ただ。
 一つでいい。

 あなたの愛情を込めたものを
 現世に遺してゆきなさい。

 それで人生はばんばん。

 無理しられんな。
 全てを善人にならんなんなんて
 思わんでいい。

 一つ見つけりゃばんばん。

 あなたの心をまるごと
 あなたが許してあげなさい」

そう書き残されていたんだ。

これだ‼️
憎しみを抱えた心を
自分自身が許してあげて欲しい。

楽になって欲しい。
夜通しかけてこの法話を引用させてもらい
ナレーションを作った。

もう今回は
長女さんにだけ届けばいい。

その心の闇に
針の穴一つでも開けたい。
その一心で綴り
語ったナレーション。

私の精一杯。
届いたか?どうか?はわからない。

けれど。

全てを終えたあと
ずっと刺々しかった長女さんの表情が
ほんの少しだけ
柔らかくなり
私にこう言ってくれたの。

「お世話になったわね。ありがとう。

 そうそう。
 母はね、料理だけは上手かったのよ。

 思い出したわ。」

小さな穴はあいたように感じた。
もしそうだとしても
私の力ではなくて
仏の慈悲とそれを伝えるお寺様の力だけど。

もうなんでもいい(笑)

心の暗闇に
光が差し込んでくれることを
切に願うのみだ。

思う以上に母親の影響力は
絶大なんだよね。

とは思うけど。
母親もまた
たかが人間だからさ😁

そうそう
正しくはいられない。

ならば。
やっぱり。

一つでいいから
見つけようか。

愛情を込めて遺す何かを。。。

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