長崎での野試合
10年と2か月ほど前、佐賀出張に絡めて佐世保にいる魂の双子(略してたまふた)に会うために足を延ばしたときのことなど。
「たまふた」は私よりも1歳年長。好みや思考、価値観のスタイルが非常に似通っているが、私よりも「1歳分大人」である。
何回か書いているように「異なる価値観の友人」は見聞を広げる時に貴重だ。一緒にいてくたびれないというか価値観が近い友人は「ラク」である。いわゆる自然体でいられるんだろう。「親しいから気を使わない」というのはよろしくない。「親しき仲にも礼儀あり」の方が強いと思う。たまふたは「気を使うのが苦にならない相手」である。無理せず自然に気遣うことができる距離感なのだろう。
昼食に新鮮なイカ料理をもらい、野郎2人でやることもないので佐世保の町をぶらつく。当日の佐世保は午前中はゲリラ豪雨などで目まぐるしかったが昼過ぎからは真夏の太陽がSUNSUNと照りつける状況になった。
たまふた「知り合って15年か。なげぇーよな」
ハナー「九州と関東で離れたが、それでも毎年2回近いペースで会ってるなら御の字じゃね?」
名古屋の連れになると中学校以来だから20年来になる友人も多数いる。過去にヤバイことをしていた人間は大体にして古い友人がいなくなる(そういう場所から逃げ出すからね。ある人物を見る時、「その古い友人を見る」というのはよい方法ではないかしらん。ハナーはとりあえず中学からの友人とも疎遠になることなく人間関係を構築する程度には常識があると思っていただきたい(自己PRかい!)。
佐世保にある日本一長い商店街のアーケードを抜ける。米軍基地が近いからか、いかにも海兵隊っぽい屈強な外国人やその家族っぽい方が多い。
ハナー「ガイルはどこにいるんだろう?」
たまふた「どこかでしゃがんで待ってるんじゃないか?」
ハナー「これが本当のマチ軍人ということか」
30代の男2名はアホなことを言いながらアーケード中途の松浦公園に差し掛かった。
縁台将棋が多数行われていた。年のころは60から80くらいの男性ばかり20数人がいたるところにある木陰のベンチで縁台将棋をしている。2か所に分かれているのは・・・なるほど禁煙組と喫煙組か。
ハナー「ほう、こいつは。」
たまふた「ちょっとのぞいてくか?」
大学生のころ、ハナーやたまふたは同じ大学の軍隊風の寮に入っていた時期があった。そのころはほぼ互角の腕前だったが2回くらい指しただけだったかな。あれから15年、たまふたはNHKの将棋講座を見るくらいでほとんど勉強していないらしい。その割に、電話通話しつつNHK講座を見ていると私などよりも鋭い手をバシバシ言ってる印象があるんだが。一方の私も最近にわかに活気づくまでは似たりよったりだった。私の場合、「将棋の奥深さと面白さ」に気付くには一定の社会経験が必要だったのだろう。
複数の盤面をのぞかせてもらう。お手並み拝見というところ。相手の強さを数値化できる「戦闘力スカウター」「超人強度」などと言う便利なものはない。力量分析からしてスキルやアーツの一環になる。数手の指し手を見ればなんとなく見当はつく。
ハナー「どう思う?」
たまふた「やっぱりみんな攻撃的で直接手が多いね。俺よりは強そうかな。」
ハナー「うん、攻め合いの力自慢が多そうだ。」
たまふた「使ってる盤駒が全部同じ規格だね。
ハナー「ああ、それはおそらく商店街か何かが貸し出してるんだろう。」
新橋がまさにそのパターンだ。
ハナー「あのおっちゃんが一番強そうだよな(ウズウズ)。」
たまふた「仕方ないな。指したいんだろう?行ってきたら?」
さすが付き合いが長い。よくわかってらっしゃる(笑)。私が指した方は徹底的な攻め将棋の袖飛車使い。守備は必要最小限であとはひたすら攻め倒していた。おそらく私よりは強いと期待できる強さである。
対局が終わるのを待って、「一局指してもらえませんか?」と話しかけたところ、意外な答えが返ってきた。
おっちゃん「ん?次の相手が決まってるからなぁ」
ハナー「あ、そうなんですか。いや、それならいいです。」
まさかの「ゴメンナサイ」である。完全に意表をつかれ挙動不審な態度の私。まさに袖にされた。横で爆笑するたまふた。うるさいやい。
しかし、「捨てる神あれば拾う私たち(違)」別のオッチャンが興味を持ったのか声をかけてきてくれた。「お若いの、わしが相手をしよう」
長い人生で「お若いの」と言われたのはこれが初めてである。見事なゴマ塩頭のおっちゃんである。
先ほどまで観戦していた方なので事前情報は一切ない。一部の読者にはご存じのとおり、私は事前情報をもとにいろいろ考えるタイプなので、初見相手の他流試合はどうも苦手だ(というより何度も指す相手に対策を徐々に立てていくのが得意と言うべきか。なにせ自分の型が定まっていないから)。
ハナー『事前情報いっさいなし。まあ、いいか。どの人を見ても攻め将棋だったから、この人もそうだと仮定しよう。』
よそから来た(相対的に)若い人間2人組ということで周囲にギャラリーが多く集まる。ある種のアウェー状態か?
ハナー「仮面ライダー1号と2号みたいだな。」
どこかの漫画であったセリフをマネしてふりむくとたまふたがいない。一人ぼっちかい!
ハナー『あれ?どこいったんだ?』
振り駒で先手をもらった。チェスクロックは無いので持ち時間制限はない。(時間制限のあるなしでも将棋はかなり感覚が変わる)
私『初見の攻め将棋相手。無効もこちらの手の内を知らない。ならあれでいくか。』
●7六歩 ○8四歩 ●7五歩 ○8五歩 ●7七角 ○3四歩 ●7八飛
某マンガでラスボスが使っていた「変則鬼殺し戦法」。なんとなく理論は知ってるつもり。攻め将棋で一定以上に強ければこそ引っかかる。実際、実家でも母を一度ひっかけている。防御的な父は全く応じてくれなかったが(笑)。
変則鬼殺しは「知らない人間」というか将棋をある程度「知っている人間」であればこそ、挑発されているように感じる部分がある手筋である。
○7七角成 ●同桂馬
ハナー『よし、かかった。』
ここからいくつかの「一見おいしい攻撃的な手」があるが、そのどれもが罠にはまるようにできている。私は定跡を覚えるのが苦手であり、我流へのこだわりがあるほうだが、この戦法は私レベルでもけっこう指しやすい。この局面からの展開は自分なりに色々考えてある。一部の防御的な手すら対象にできるようにしてある。たとえば普通の鬼殺しと同じ受けをされても対応できる。
ハナー『さて、このおっちゃんはどの手を選ぶかな?』
○5四角打 ●5五角打 ○2二銀 ●8五桂
おいしい候補の1つ馬成が確定する角打。対してはこちらもより速い角打ちで追い越す。一手の遅れながら、歩を取る手と香車を取る手で逆転し、その後の馬効率も違いすぎる。それをきらっての2二銀に8五桂が狙いの一手。この桂馬を同飛車と取ると銀をかすめ取る。また7三を受けようと金銀が上がるとやはり2二の銀への補給線(飛車の横効きのこと)が断たれるので銀がタダになる。
おっちゃん「おう、こいつは受け切れんなぁ。じゃあ攻め合うとしようか。」
私「もともと攻め合ってるじゃないですか。」
攻め合いは望むところ。一気呵成に攻め合う。
○2七角成 ●7三桂成 ○7三同桂 ● 7三角成 ○4二玉 ●8二馬○8二同銀
研究範囲はここまでしかないので、ここからは自力である。消えていたたまふたは棋譜を記録するメモと筆記具の入手とともに冷たい飲み物とミントタブレットを調達してきてくれていた。一息入れつつ考える。
私『えーっと、飛車角交換と一歩得だから駒得はこちらだが、相手に馬を作られているので駒効率は向こうが良い。ということは駒を投入して相手の駒効率を落とす方針が理にかなうはず。局面を安定させよう。』
●2八歩 ○5四馬 ●4八玉 ○4四馬 ●7四桂打 ○7一銀 ●8二飛打 ○7三角打 ●8八銀
馬が2六にひけば8四飛車打ちで勝負を決まると思ったが、やはりそうはいかない。桂打ちで体を崩し、飛車を無理やり打ち込んだが、相手が角を使ってまで防戦してくるとは予想外だった。ここでこちらも8八銀と受ける。
私『む?間違ったかな? 作戦は決まったはずなのにたいして有利じゃないぞ?』
セリフだけ見ると「アミバ様」になってるが(笑)。ちょっと調べればわかるんだろうが、それをしないところに変な意地がある。「自分で問題を解き明かしたいという願望」だ。私にとって将棋が強くなるのは「結果」であって「目的」ではない。数学の定理を「暗記する作業」よりも、時間がかかっても自分で「定理を証明したい」クチだ。ゆえになかなか強くなれないし、長兄には「酔狂な寄り道」とばっさり切り捨てられつつ励まされているわけだ。将棋に「ほかの思考を転用」するところはジャギ様だが、「思考を鍛えたいところ」については雲のジュウザでありたい。自称凡才なので自称天才のアミバ様ではない(笑)。
○3三銀 ●7七銀 ○7六歩 ●6六銀
自陣をかため合った後に銀を中央に繰り出す。ここの7六歩は相手の「お手伝い」だったのではないか?元々中央に出るつもりだった銀を繰り出し、7筋の角を中央に使われるプランを未然に防ぐ。自分が良い手を指すというより、相手の駒効率をつぶす「嫌がらせ」が自分の真骨頂ではあるまいか。
○6四歩 ●7四飛 ○7二銀 ●8五飛成 ○5四馬 ●8六飛 ○6五歩 ●7七銀 ○5五角
と思いきや、相手のここからの手がうまく、中央に角を出られてしまった。手が悪かったのか、方針が間違えていたのかはいまだにわからないが。
●6六歩 ○6六同歩 ●6六同銀 ○7三角
歩の手筋でなんとか角を追い返す。「困った時は相手の大事なコマの頭を歩でドつけ(by母)」 ハナー一族に伝わる格言の一つだ。…まあ、私が勝手に言ってるだけだが(笑)。
●5六歩 ○4五馬 ●6四歩 ○6四同角 ●7六龍
徹底してこの角を使わせない方針を貫く。こちらにも素早い攻めがないので抑え込みながら進まないと即座にひっくり返されそうだ。
○3一玉 ●8二桂成 ○2二玉 ●6五歩打 ○7三角 ●7四歩打 ○8四桂打
取れる銀をすぐに取らない。普通なら銀を取って同金に8一飛車成でよいのだが、馬の尻尾が良く効いているのでウカツに飛び込めないと判断した。丁寧に角の頭をいじめ続けると龍取りの反撃が来た。
●7三歩成 ○7六桂 ●7二と金
この手の大駒の取り合いは「自分が先手かどうか?」「相手を取りに行く駒と相手のこちらに取り込んでくる駒が最後にどうなるか?」「玉にどれだけ響くか?」で考える。龍を見切って角銀を入手しと金を作る。この将棋は終始「私の駒得VS相手の駒効率」と言う構図だ。
○6三飛打 ●7六飛車 ○6九飛成 ●5八銀打 ○6八龍 ●5七角打
オッチャンは取れる香車を取らずに油断ならない一間龍にしてきた。強いなぁ。作戦勝ちのわずかなリードを保ちつつねばっているが、駒効率は相手が断然いい。私が受け切れるか、オッチャンが攻め切れるかの勝負となってきた。野試合で実践豊富な方と攻め合えるだけの自信がなかったのでどこかで攻め合いを断ち切りたかったのだが、そこは相手が一枚上だった。自玉のそばに空間が開いていると相手の持ち駒が撃ち込まれる可能性を常に考えなければならない。角を放出して受け切りを目指す。駒得をしているのはこちらなのだから、方針は間違っていないと思うが。結局、徐々に受け身にさせられてしまった。
○8八龍 ●6一と金 ○6七歩 ●7七銀
龍が引いてくれたので、やっとこさ待望のと金の攻めを一手実行したものの直後に受けづらい垂れ歩。一瞬パニックになる。7七銀というぴったりの受けを見つけて安心した。というかそのために5七に角を打ったのに一瞬忘れていて焦った(笑)。持ち時間のある将棋だと思いだせずに逆転されているところだった。
○9九龍 ●9一成桂 ○3二金 ●7一飛成 ○5六馬
耐えに耐えてやっとこちらの攻め!と思いきや、飛車が走ると馬に入られる手が見えていなかった。内心焦るが外見だけは冷静っぽく装う。ポーカーフェイスも勝負技量の一つである。私はかなり苦手なんだが(笑)。
●9三角成 ○4四香打 ●5九桂打 ○9七龍
空間を埋めるために打った馬が、受けづらくなり、却って負担になりはじめたので思い切って角をそっぽに成れこんだ。歩の補充と言う意味合いと5七を開けて、別の駒を打って受けやすくする意味合い。また馬は自陣に利いているので防御は残せると判断した。むこうも戦力不足なので龍で歩を拾いつつ、こちらの馬にあててきた。
●9八馬 ○8七龍 ●5七金打 ○4五馬 ●6七金 ○7八龍 ●6八金 ○9八龍 ●6四歩
手順に自陣をかためて龍が再び逃げたのを見てやっと優位を確信した。まさかこの後にあそこまで勝負が長引くとは・・・
○7八金打 ●8九龍 ○7六歩 ●6五馬
この2回のおっちゃんの持ち駒の使い方がうまい。龍を封鎖しておいてのたたきの歩。たったの2発で一挙に楽観を改めねばならなくなった。仕方なく馬を攻防に使える位置に引く。
私『直接の受けが成立しないならそこは受けない。攻めの根元を刈り取ってやる。』
○7七歩成 ●9八馬 ○6八と金 ●4六香打 ○4六同馬 ●7八龍
4六の香を同馬も完全に予想外だった。むこうの「勝負手」だろう。とてつもない違和感。
私『なんだと!? えっと馬を取ると・・・5六銀と押さえてから5七に何か打ち込まれるのか。まずい展開だな。』
頭さえ押さえてしまえば私の守備は金銀が下段に並んでいるだけなので即座に棺桶になってしまう。それをさけて受けずにとっさに龍で金を取りに行った。
○5五馬 ●6三歩成 ○5八と金 ●5八同銀 ○4二銀打 ●5二飛打○9一馬 ●5三と金 ○3一金打 ●7一飛成
こちらは攻めに、相手は受けに持ち駒をバシバシと投入していく。駒不足が気になったのだろうが、相手の9一馬はどうだったか?
○8二銀打 ●7二龍 ○6五桂打 ●5三金 ○5八歩打 ●6七桂 ○4五香打 ●3八銀
この銀打ちが悪手だと思う。完全に馬の効率を封鎖。相手の馬の脅威がなくなった。攻め駒が足りなくなった相手は桂馬と香車で暴れてきたが、丁寧に応じる。
○5九歩成 ●6六金 ○4九と金 ●5七玉 ○3九と金 ●5五桂打 ○3八と金 ●4三桂成 ○4七香成 ●5六玉 ○4六成香
囲いが破壊されたので入玉を目指し進み始める。逃げ切れば私の勝利だろう。終盤の寄せ合いに弱い私の数少ない勝ちパターン「逃げ切り勝ち」だ。
●6五玉 ○6四歩打 ●7五玉 ○7四歩打 ●8六玉 ○4一銀打 ●4二と金 まで135手にて後手投了 いつもの「逃げ切り」である。
おっちゃん「ふぅー、やられたな。」
私「ありがとうございました。」
気が付くと周囲の人だかりが増えている。しきりにうなづいている方や隣の方とあの盤面ではこの手が良かったんじゃないかとヒソヒソ話をする方などなど。ギャラリーの中には最初私の申し出を「袖にした方」もいた。一度振られたヒロインにこれで振り向いてもらえるだろうか?(違)。
最初の対局申し込みをあっさりと断られてから(笑)1時間も経ってない。とりあえず最初のオッチャンを倒したことで興味を持ってもらえたっぽいところ。
だがここでまたも横やり(?)が入る。松浦公園の大将と闘う前に指したいと言う少年がきた。さきほど倒したおっちゃんのたぶんお孫さん、たぶん小学校低学年だろう。お孫さん(仮にゴー君としておく)は自称「おっちゃんより強い」とのことで「じいちゃんのかたき討ちしたる!」と勝手に盛り上がっている。周囲も完全に盛り上がっていて、私は完全に悪役の立ち位置だ。実においしい(笑)。
私「いまどき、感心な『熱い少年』だな。結構好きだよ、彼みたいなの」
たまふた「同感だな。特に眉毛がつながってるのが実にいい。」
私「とはいえ油断禁物だ。将棋の世界では見た目や普段の言動なんてあまりあてにならんからな。」
ゴー君「じいちゃんにやったのと同じので指してください!」
まさかの注文付き対局。もう仕掛けを見破られたか? いやいや、なかなか奥が深いと思うんだが。要求されたら仕方がない。
私「ゴー君。みごとやぶってみせたまえ(なんとなく悪役のノリで)」
少年との将棋を盛り上げる「ロールプレイ将棋」には多少の心得がある。関東圏の上手なロールプレイヤーの影響から学んだものは多い。
●7六歩 ○8四歩 ●7五歩 ○3四歩 ●7八飛 ○8五歩 ●7七角 ○7七同角 ●7七同桂
私『ここまでは先ほどと全く同じ進行。さてここからだがどうくる?』
○8六歩 ●8六同歩 ○8六同飛
センス良く飛車先を伸ばしてきた。こちらの角打ちには角を残して対抗できるので先ほどのような5五角は無論通じない。だが、これも鬼殺し改良版の研究範囲である。
●7四歩 ○4二玉 ●6五桂 ○8九飛成
この7筋の歩が取れない。取ると9五角の王手飛車取りで将棋が終わる。わかっていたのか直前で察知したのか4二玉とかわし、目標となる飛車を成りこんできたが。
●7三歩成 ○8七角打
勝利を確信した7三歩成に8七角と打ち返される手。だがこれも読み筋。
●1五角打 ○3二玉 ●5七桂不成
角打ちの王手で玉の位置をズラシ、狙われていた桂馬を両取りで成り込む。ここまでが私の研究範囲。
私『これで勝ちでしょ?』
○9九飛成 ●6一桂成 ○5六歩打 ●5六同歩 ○7三桂 ●5一成桂 ○4二金 ●7三飛成
香を取られたが金を取り、成桂の活用を図る。7筋に飛車を成り込み「これはさっきよりも一方的か?」とこの時点では思っていた。
私『やはり少年。まっすぐすぎるかな?』
○7二香打
私「げ」
この香を完全にうっかりしていた。思わず間抜けな声を出してしまった。龍を見捨てるか、下段の金銀の防御を崩壊させるかの2択である。飛車成はあわて過ぎだったかもしれない。あっさりと香を取り、と金を桂馬で取ってきた時点で違和感は感じていたんだが、警戒が甘かった。悪い流れを断ち切るために「儀式」を行う。ミントタブレットを放り込み、軽く瞑想して切り替える。理論的に考えて答えが出ない時や悪い結果しか見えないときは感覚に頼るのが良い。普段は理論で見落としがないように指し、こういう状況では感覚に切り替える。これが逆になるとボロボロになるから要注意だ(笑)。
●8四龍 ○6九角成 ●6九同玉 ○7九飛成 ●5八玉 ○5七歩打 ●同玉
一挙に左翼防御陣が崩壊した(笑)。馬を取りに行くのは王手が怖かったがこれを取れないと勝てないと判断。またしても玉を使った防御と逃げの技で対応せざるを得なくなった。攻めはさっきのおっちゃんよりも激しいかも。10手前に5筋をこじあけていた手筋がここで響いてくるのが将棋の恐ろしいところ。おそらく少年はこの局面を完全に読んではいなかったと思うが。10手前の時点で「なんとなく良い手になる」と言う判断ができていたのだろう。
私『だが、これは勝ちが見えるぞ』と内心悪役のようにほくそえんでいた。
○4四銀打
私『む、強い。ここでちゃんと受けるか。』
4九龍の金取りが見えるがそれをやるとなんとこちらからの即詰みがあったのである(たとえば3四龍に対して3三銀なら2四桂打、同歩、2三金。かといって金が上がれば4一からの角打ちが受からない。上下の攻撃で上を受ければ下から、下を受ければ上からである)
それを防ぐのがこの銀打ちだ。これでこちらの素早い攻めがちょっと見えなくなった。
●5九金打 ○7七香成 ●5四桂打 ○3三金 ●8九龍 ○1四歩 ●3三角成 ○3三同玉 ●6九金打
決め手を見いだせず、仕方なく受けに回る。ちょっと大人げないが受け切る感じになるか?
○6七成香 ●4八玉 ○7二銀 ●8七龍
この成香をぶつけてからの銀上がりの攻撃と防御の手筋は先ほどのオッチャンにも似たようなのをくらった。血のつながりなのだろうか?
○5七金打 ●3八玉 ○7四龍 ●4一成桂 ○6五角打
互いに龍を防御に引く感じになった。取れる桂馬を取らないこの角打ちはちょっと疑問だった。即座に龍で桂馬を取り、7筋の銀を見捨てて3筋の銀をあがって逃げられる方が駒効率からすれば嫌だった。
●8八龍 ○5四角 ●3一成桂 ○3五桂打
もともと成香を払うために引いた龍だが金を横に打たれた時点で再び攻めに繰り出すつもりだった。角打ちは「お手伝い」だったと思う。また角で桂馬を取ったため玉への睨みがなくなったのもありがたかった。
●3六銀打
2七を狙ったとん死筋だったが「桂先の銀」の手筋で受ける。やはり格言や手筋と言うのは役に立つ。
○4七桂成 ●4七同銀 ○4七金 ●2八玉 ○8一歩打 ●7一龍 ○3五歩 ●2一成桂 まで69手で後手投了
最後は例によってひたすら逃げてたような気がする(笑)。下段に並んだ金3枚がなんかムダに「ゴールドフィーバー」している。少年は悔し泣きしていた。負けて悔しがれるなら必ず強くなるさ。香打ちを受けたあたりでは生きた心地がせず、こっちもかなりひやひやしたんだが(笑)。ミントタブレットは偉大だ。
*前回までのあらすじ
ついに最後の魔王軍四天王を各個撃破の法則で倒し、8つ目の葉っぱを手に入れた主人公たち! だが突然現れた仮面の男(本名:ポンチョフ)に親の形見のポケットティッシュを奪われてしまう! しかも、四天王っていう名前の癖に5人目がいるってのは反則じゃないのか?
魔王「いやあ数数えるの苦手で。ま、4人も5人もあまり変わらないじゃん? 5人だけにゴニンナサイってのはダメか?」
主人公「その誤認は許せんな!(ドヤ顔)」
魔王と主人公の渾身の応酬に敵味方が静まり返る(呆れかえる)。
微妙に気まずい空気のなか、主人公はついに伝説のレシートを取り出した!
魔王「そのレシートは、あの伝説の!」
・・・ごめん、そろそろやめていいですか? ネタ切れじゃなくてその反対。
未来永劫続いちゃいそうだから。単純に佐世保での将棋記事最終回です。
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最初に対極を申し込む、むげにことわられたおじいさんとの対局。おそらくほかにもある20近い対局の中、ひときわ注目度が高かったと思われる。
振り駒の結果、本日3回目の先手番。
私『ここまできたら最後までやれってことかな?』
ただ、改良鬼殺しは相手が飛車先を伸ばしてこないとあまりうまみがない。そしてこのおじいさんは袖飛車使いだったはず。展開次第だが。
●7六歩 ○8四歩 ●7五歩 ○8五歩 ●7七角 ○3四歩
周囲が若干どよめいたように思ったのは私の気のせいか? おそらく得意の袖飛車ではなく、あえてこちらの戦法に乗ってきて潰すつもりらしい。
おじいさんは無言のままだが「2人ともその戦法に負けてるみたいだからね。真っ向勝負でつぶすよ」と言われたような気がした。
●7八飛 ○7七角成 ●7七同桂 ○4二玉
角交換の後、おじいさんが選んだのは攻め合いではなく守りの4二玉だった。つまり、こちらの攻めで軸となる天王山(5五)の角打ちや5三への桂馬の成れ込みを先に受けておこうと言う発想なのだろう。
●6五桂 ○4四角 ●8八銀 ○6四歩 ●7三桂成
こちらは構わず桂を跳ねる。角打ちの反撃を丁寧に受けるが、これで飛車が走りにくくされる。桂馬は元々の予定通り成り捨てる。
○7三同桂 ●7四歩 ○6五桂 ●7三歩成 ○8四飛 ●7五角打 ○9四飛 ●4八玉
ここくらいまでで自分が良いと思っている。さてここからは考えなければ。
○7六桂打 ●7六同飛 ○8八角成 ●6六角
馬を作られてもすぐに消せればいいやくらいに思っていたが・・・。
○8七馬 ●7九飛 ○3三桂 ●6三と金 ○7六歩打 ●7八金
馬を引かれて先手を取り返された。挙句に角成も3三で受けられてしまった。垂れ歩はまずいので馬を殺しに行くが・・・
○8六馬 ●3八玉
またも馬の華麗なバックステップ(2回目)。これでかなりまいった。
私「げ、と金が寄ったせいで・・・7四飛車とか回られたらまずい」
と思い玉を少しでも戦場から遠ざける。こちらの頼みはと金が5三によって玉を誘導して3三角成の手筋だが・・・。
○6二銀 ●6二同と金 ○6二同金 ●8三銀打 ○7五銀打
頼りのと金も銀と刺し違える。やけくそで8三銀と打ち、飛角交換に持ち込むも、駒効率が断然悪い。
●9四銀 ○6六銀 ●6六同歩 ○5三成桂 ●8二飛打
こちらは飛車打ちにかけるしかない状況。
○7三角打 ●8一飛成 ○9四歩 ●7四歩打 ○9五角 ●9六歩
以外にも角を受けに使ってきた。先手を取るのを重視したのか? だがこの角を攻撃目標にさせてもらい追い掛け回す。
○7七歩成 ●9五歩 ○7八と金 ●7八同飛 ○7七歩打
角を捕獲し、飛車も日の目を見そうになったがすぐに頭から抑え込まれる。
●7九飛 ○6八銀打 ●8九飛 ○7六馬 ●9一龍 ○4三成桂
この形は成桂にずっとおいかけられる。9一龍のあたりは半ばやけくそ(笑)。
●4三同玉 ○7八と金 ●8七角打
ずっと苦しかったがこの8七角打の一発でひっくり返した。直前に相手が指した「7八と金」のマイナスを突く手ばかり考えていたので気づくことができた。4三の決勝地点さえこじ開ければ勝てる形だと見えた。
○8七同馬 ●8七同飛 ○7六角打 ●4四桂打 ○4四同歩 ●4三歩打
先ほどの角打ちで4三さえ開ければ勝てると気づいたので飛車取りも無視して強引に駒を集中投入する。戦記物の勝利と同じく「適切な場所に適切なタイミングで兵力を集中投入する」ということだ。
○5二玉 ●5五桂打 ○6三銀打 ●6一銀打
戦機をつかみ、決勝点が見えたら一気呵成である。上を受けたら下から攻める。「その備えざるところをたたく」
○6一同金 ●6三桂成 ○4三玉 ●2一角打 ○3二銀 ●6一龍
相手の脱出をどうふさぐか?
○5一金打 ●5五桂打 ○4二玉 ●4三金打 ○4三同角 ●5三成桂
4三の脱出路を封鎖してからの成桂寄り。
○3一玉 ●4三桂不成 ○2一玉 ●5一桂成 ○3一金 ●4二金打
まで93手で後手投了
序盤やや有利だったのが、どこをどう間違えたのか中盤ではずっと不利になっていく流れ。65手目の8七角打でどうにか逆転という感じでした。というか4三が決勝地点になるともっと早くに気付いていれば、もうちょっとなんとかできたのかも。
話しぶりからすると、このおじいさんは松浦公園の中でも年季の長い方だったそうで。次の機会があるなら袖飛車の方が見たかったかもしれません(私の指す袖飛車よりも明らかに老練だったので参考にしたかった)。