市議会議事録で「文化財保護法」、「文化財保護法第190条」の語を検索してみると、2議員の質問が見つかった。論点が明確になっていない面があるように思うのでコメントを書いてみる。
資料1(永井佑 市議)
(地方)文化財保護審議会が必置なのは、文化財保護の事務管理と執行を教育委員会から市長部局に完全移管した場合であって、「補助執行」させている場合には、当てはまらない。北九州市の規則では、明確に、教育委員会が文化財の保護に関して文化財保護審議会に諮問するという規定になっている。市長部局である都市ブランド創造局がその諮問に関して決定することにはなっていない。
「補助執行をさせる最大の問題は、開発優先の市長部局に取り込まれてしまうということ」ではなく、また、「その中で、専門的・技術的判断ができません」という理由でもない。「補助」執行の規定にも反して、合議制の執行機関である教育委員会が、文化財保護審議会への諮問や文化財の価値付けなどの文化財保護の重要なものについて、事実上、権限を放棄していることである。
資料2(高橋郁 市議)
論点
北九州市文化財保護審議会は文化財保護法第190条第2項によって設置されたものではない。(文化財保護の事務管理と執行を教育委員会から市長部局に完全移管した場合は「必置」)
上記を前提として文化財保護法第190条の規定に従えば、文化財保護審議会(文化財保護法では「地方文化財保護審議会」)が設置されるとすれば、同条第1項の「設置することができる」に該当する。つまり、この場合は必置ではない。
文化財保護法第190条に依拠しない文化財保護審議会が設置されことは、文化財保護法は想定していないはず。文化財保護法違反の可能性。地方自治法第2条第16項及び第17項に該当する。
文化財保護法第190条によって設置された文化財保護審議会には、「建議」をおこなうことが含まれているが、それよりも、今回の問題においては、教育委員会の諮問により調査・審議し答申を行うという部分が重要だ。文化財保護審議会とともに教育委員会(合議制の執行機関)が「文化財の価値付け」をするかどうかという重要な決定に関与していないことが問題とされるべき。「補助」執行の規定にも反して、「実質的」に文化財保護の権限が市長部局に移管されているとしたら、第190条第2項による文化財保護審議会が設置されなければならない状態となっていることになる。(付言すれば、その委員会は、教育委員会の諮問に基づいて、調査・審議し答申するだけでなく、「建議」をおこなうことができることも規定されている。)
[補足]「建議」についての議論
北九州市文化財保護審議会の設置根拠の見直しを求める請願について(北九州市教育委員会、令和6年10月24日)
令和6年度教育委員会会議録
請願書3ページの表「文化財保護審議会での『建議』の状況」を見ると、審議会の設置根拠が文化財保護法である18市において、市長に移管しているのが、堺市と神戸市の2市、教育委員会がおこなう事務及び執行としているのが9市、「補助執行」の形を採用しているのが7市。その18市において「建議」の規定があるのは7市(札幌市、新潟市、浜松市、さいたま市、横浜市、相模原市、岡山市)で、他の11市では、その規定がない——設置根拠が文化財保護法であるのに文化財保護法第190条に違反している。
地方自治法を設置根拠としているのは、20市の中で北九州市と広島市の2市のみであり、また、両市とも、(教育委員会に文化財保護の権限を残しつつ)補助執行の形を採用している。(ただし、北九州市は、実質的に市長部局に文化財保護の重要な権限を移管しているので、文化財保護法に基づく文化財保護審議会が必置のケース。)