見出し画像

文化財の保護に関わる市教育委員会、文化財保護審議会の役割について

初代門司駅遺構の扱いについての北九州市の動きが注目を集めている。文化財保護と開発の両立というのは、どこでも起こりうる困難な課題であるが、それ以前の問題として、文化財保護の手続きが文化財保護法の趣旨に沿ってなされていないことがある。

文化財保護審議会が教育委員会からの諮問に基づいて「審議」をし、その結果を教育委員会に答申し、それを、市長部局からは独立した合議制執行機関としての教育委員会が審議するということがなされていないことに違法性がある。 市の規則上も、文化財の保護の重要なものは、教育長や市長部局の専決事項には属さないのであるが、文化財保護審議会や教育委員会での審議なしに貴重な文化財の破壊が北九州市によって進められようとしている。

文化財保護法
第三条 政府及び地方公共団体は、文化財がわが国の歴史、文化等の正しい理解のため欠くことのできないものであり、且つ、将来の文化の向上発展の基礎をなすものであることを認識し、その保存が適切に行われるように、周到の注意をもつてこの法律の趣旨の徹底に努めなければならない。

北九州市教育委員会について - 北九州市https://city.kitakyushu.lg.jp/kyouiku/file_0014.html ←リンク切れ (注1)

[追記]
2024(令和6)年4月1日付けの組織改正により、「市民文化スポーツ局文化企画課」は、「都市ブランド創造局文化企画課」となっている。


北九州市教育委員会の権限事務の一部を教育長に委任し又は臨時に代理させる規則

教育委員会規則第7号のこの規則では、教育委員会の権限事務の一部を教育長に委任することを規定しているが、文化財保護に関する5項目は、除外されている。つまり、この5項目の権限事務は、教育長に委任されていない。

北九州市教育委員会事務専決規程

北九州市教育委員会事務専決規程によれば、文化財の保護及び活用に係る事業の実施、文化財の調査、指定及び管理に係る事業の実施、文化財保存事業の助成に係る事業の実施が列挙され、また、文化財保護審議会に関する事務を含めてそれらを市民文化スポーツ局長等の専決事項としている。ただし、専決事項の欄を見れば、「重要なものを除く」という限定が付けられている(注2)。最後の項目にはその限定が付けられていないが、この「文化財保護審議会に関する事務」は、次に取りあげるように、北九州市文化財保護審議会規則第9条を参照すれば、審議会の「庶務」にあたるものである。審議会の重要な事項について決定する権限が市民文化スポーツ局長等に与えられているわけではない。

北九州市文化財保護審議会規則

(所掌事務) 第2条 審議会は、北九州市の文化財について、教育委員会の諮問に応じ、調査審議し、答申する。
(庶務) 第9条 審議会の庶務は、市民文化スポーツ局文化部文化企画課において処理する。

以上のように、審議会に諮問をおこなうのは、教育委員会と規定されている。
また、「市民文化スポーツ局文化部文化企画課」が担当するのは、審議会の「庶務」となっている。

北九州市文化財保護審議会規則第7条まで
北九州市文化財保護審議会規則第8条以降

「建議」(諮問に答える答申ではなく)ができるかどうかに関連しているようだが、文化財保護のために、文化財保護法に基づかない文化財保護審議会を北九州市が設置しているという市当局の説明はありえない。
「地方文化財保護審議会」について 「置くことができる」と「置くものとする」の区別が文化財保護法第190条でなされている。 しかし、地方文化財保護審議会の役割は同じである。
「教育委員会の諮間に応じて、文化財の保存及び活用に関する重要事項について調査審議し、並びにこれらの事項に関して……教育委員会に建議する。」

文化財保護法
2024年2月頃にウェブページが更新される前の説明

文化財保護のためにとられなければならないプロセス

文化財保護法の趣旨や北九州市の規則に従えば、次のようなプロセスがとられなければならないことがわかる。
(1) 教育委員会が開催され、そこで文化財保護審議会に文化財保護についての諮問がなされる。
(2) 文化財保護審議会が審議をおこない、その結果に基づいて教育委員会に答申を出す。
(3) 合議機関としての教育委員会がそれを審議する。

文化財保護上の重要なことは、教育長や市長部局の専決事項ではない。 教育長の「専決事項」に、「文化財の保護及び活用に係る事業」、「調査、指定及び管理に係る事業」は含まれていない。つまり、教育長が勝手に決めることはできない。 また、それらのうち「重要なもの」は、「市民文化スポーツ局長」の専決事項でもない。
https://twitter.com/mbrmghm/status/1781296325252006219

武内市長のスポークスパーソンによる説明

市長のスポークスパーソンを演じている市議の説明を取りあげてみる。これが、市長等の考え方なのであろう。教育委員会が合議制の執行機関であること文化財保護の重要なものは、教育長や市長部局の専決事項ではないことなどを理解していないことがわかる。 「そもそも(専門家の意見を)聞く必要もなく、残さない」で法的に問題がないという主張なのだからあきれてしまう。文化財保護法や市の規則に目を通したこともないのであろうか(注3)

事務委任〔ママ〕の部分は、教育長に一部権限残しています。
(①文化財保護審議会の委員選任)(②文化財保護審議会への諮問)
そして補助執行させる市長部局と方針共有しながら、今回の方針で良い、と教育長が判断し〔太字は引用者〕文化財保護審議会にかけなかったのです

https://x.com/tokki_kitaq/status/1765894864389189889

専門家の意見を聞く気がないのに、軽んじた対応をしたから。そもそも聞く必要もなく、残さない、の一択で法的瑕疵は全くありませんでした。誤解を生みました。

https://x.com/tokki_kitaq/status/1765889183116370313

ここで出てくる「補助執行」という概念が、文化財の保護について教育委員会や文化財保護審議会が関与していないことを正当化するために、市当局による説明のなかでも使われている(注4)(注5)

「北九州市教育委員会の権限に属する事務を市長の補助機関たる職員等に補助執行させることに関する規則」(教育委員会規則第16号)を確認すると、「(教育委員会の権限に属する事務のうちで)市民文化スポーツ局長等に補助執行させる事務」として、「(4)文化財の保護及び活用に関すること。 (5)文化財の調査、指定及び管理に関すること。 (7)埋蔵文化財の保護に関すること。 (8)文化財保護審議会に関すること。」が列挙されている。しかし、「文化財保護の重要なもの」は、「補助執行」の意味からすれば、教育委員会での審議なしに決定されることはありえない——今回問題となっている初代門司駅遺構の「価値付け」調査をやらないという文化財保護上重大な決定を下す権限が、文化スポーツ局長等にあるとは考えられない。また、文化財保護審議会との関係でいえば、前述のごとく、「市民文化スポーツ局文化部文化企画課」が担当するのは、審議会の「庶務」である(北九州市文化財保護審議会規則第9条)。したがって、規則上、この文化企画課に、教育委員会や文化財保護審議会に代わって文化財保護の重要なものを決定する権限がないことは、誰が考えても明白なのではないか(注6)

前述の如く、文化財保護に関して、教育委員会の権限を2項目に限定して残しているという説明が市当局によってなされているが、そういうことは「規則」にはまったく書かれておらず、したがって、恣意的な「運用」がなされていることになる。

北九州市教育委員会の権限に属する事務を市長の補助機関たる職員等補助執行させることに関する規則


[注]

(1) 削除されたことを5月1日に確認した。内容は以下のWayback Machineサイトで確認できる。ただし、更新日が2023年8月24日のもの。
 https://web.archive.org/web/20240119103356/https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kyouiku/file_0014.html
URLの変更があったようである(6月6日確認)。
https://www.city.kitakyushu.lg.jp/kyouiku/file_0014.html

(2) 文化部長については「軽易なもの」、文化企画課長については「定例的なもの」という限定がそれぞれについて付いている。

(3) 初代門司港遺構について、文化財としての「価値付け」調査をおこなわないことを、開発を予定通りに進めることができなくなるおそれがあるという理由で正当化している。

(4) 「それ[重要なものとして教育委員会に諮るもの]以外の、文化財の価値に係ることも含めて、われわれ市民文化スポーツ局が補助執行を適正におこなっている。」
 — 令和6年2月定例会3月1日一般質疑での、市民文化スポーツ局長の、村上さとこ議員の質問に対する説明

(5) 「法的整理は別として、…… 将来的にはですね、たとえば教育委員会会議で重要な事項としてこういうものを審議しましょうということが、…… 補助執行機関となっている市民文化スポーツ局長の方から上がってきて、事務局の方で調整して、教育委員会会議で重要というものはこういうものにしようということを審議するということはあるかもしれません。…… 今の制度のもとで取れるやり方をやっているのであって、…… 行政的にいうならば、違法とか無効とかというものではないと考えています。」 教育長の令和6年2月定例会3月1日一般質疑での説明
(出所は、注4と同じ)

教育長の「今の制度のもとで取れるやり方をやっている」という説明は、文化財保護法だけでなく、北九州市の諸規則に照らしても、間違っている。教育委員会が補助的存在と化している。

(6) 北九州市議会の村上さとこ議員が2024年2月29日に文化庁に問い合わせ、文化資源活用課より3月5日に得られた回答によれば、「文化財保護に係る重要事項」とは、 純粋に文化的価値の観点からなされることが要請される地方文化財の指定に係る業務等であり、 「本来の職務権限者である教育委員会に残る一定の権限」とは、文化財の指定等の重要事項に係る権限であるということである。 「重要事項に係る業務については、地方自治法第180条の7に基づく事務委任・補助執行を行うことは想定しておりません」というのが 文化庁文化資源活用課の認識である。
https://x.com/mbrmghm/status/1798258291442901334


[補足]

次に示すように、文化企画課(市民文化スポーツ局)の「報告」として出てくる文書では、文化財の指定について北九州市文化財保護審議会に対して「諮問」をおこなった機関が明示されていない。前述の如く、北九州市文化財保護審議会規則第2条では、「審議会は、北九州市の文化財について、教育委員会の諮問に応じ、調査審議し、答申する。」と規定されている。また、文化企画課の同報告では、文化財の指定をおこなう権限を有するのがどの機関であるかが明確にされていない。
https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/12713433/www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000809812.pdf

平成30年7月26日 市民文化スポーツ局 文化企画課

文化企画課の同報告に載せられている「報道発表資料(案)」からも、「北九州市指定文化財の指定について」として、「市民文化スポート局文化企画課」の名前で報道機関に発表していることがうかがえる。指定の権限が教育委員会にあることが明確にされていない。

平成30年7月26日 市民文化スポーツ局 文化企画課



いいなと思ったら応援しよう!