西浦予想を予想する
修正SIRモデルを2020年の2月頃から始まった第1波にあてはめてみましょう。この波の患者数は発生後55日ぐらいの春のゴールデンウィークの直前ぐらいでピークを迎え、夏休み前には終息して落ち着きました。
このとき西浦氏は「何も対策をしなければ42万人が死亡する」と発言して話題になりました$${^{1)}}$$。
2/10に1人感染者が日本に入り、「何の対策もしなければ」どうなるか?前回示したエクセルの枠の中に$${S_0}$$すなわち日本の人口1億2,588万人、感染者の初期値$${I_0=1}$$、を入れてみます。すると129日後つまり6/18に$${ΔS}$$のピークを迎え、その後徐々に戻っていき200日後つまり8月の終わりにはほぼ終息することになります。この記事のでた4/15の国内の感染者は、7,964人、死亡者は119人ですから致死率は0.015%です$${^{2)}}$$。200日目の感染者は0日目の感受性者$${S_0}$$と200日目の感受性者$${S_{200}}$$の差になり発生から200日目には1億1,301万人が感染し、170万人が死亡することになります (図1)。西浦氏の予想の4倍の死者数です。
しかし、ウィルスが体に入ったとしても症状も出ずに治ってしまう人がいます。日本人の場合、約8割の人がこのような抵抗性をもっていて大した症状もでずに治ってしまうと言われています。理化学研究所の論文でも約8割の人がもともとSARS-CoV-2に対する免疫を持っていることを示しています$${^{3)}}$$。
そこで実際には全人口の2割が感受性のあることを仮定します。この場合には$${S_0=P}$$x$${0.2}$$で2,518万人で、$${R}$$の初期値$${R_0}$$すなわち初めから「抵抗性」あるいは「免疫」を持つ人は$${P}$$x$${0.8}$$で1億人程度となります。
この条件で$${Q_0=2.5}$$となるように$${k}$$の値を決めます。すると$${k=Q_0/S_0T=9.93}$$x$${10^{-9}}$$です。この値を前述のエクセルの枠内に入れると200日目の感染者と死亡者も2割になり感染者2,262万人で死亡者34万人となり、多少少なめですが西浦仮説の「死亡者42万人」という数字と似た値になります(図2)。
西浦氏の計算でも$${Q_0=2.5}$$を想定していますが、「行動制限をまったくとらなければ、約85万人が重篤化して人工呼吸器が必要になると試算し、死者数は、中国で報告されている重篤患者の致死率49%をあてはめることで算出しています$${^{1)}}$$。このときの中国の感染者数は82,295人、死亡者は3,342人で致死率は4%にも達しています$${^{2)}}$$。ここでの計算は西浦氏のものとは異なる手法を使っているのですが、中国のデータを使えば死亡者が多少増えても不思議ではないのかもしれません。
$${^{1)}}$$ https://www.asahi.com/articles/ASN4H3J87N4HULBJ003.html
$${^{2)}}$$ https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10867.html
$${^{3)}}$$ Commun Biol 4,1365 (2021)