文系大学教授になる6:業績
博士学位を取得するだけでは、大学の常勤ポストを得ることは相当に困難です。18歳人口は激減して、地方の私立大学のなかには収容定員を大幅に割り込む大学も少なくありません。大学経営の状況が悪化すれば、常勤教員の採用が減ることは当然のことと言えます。しかし、このような状況でも、一定の条件を満たせば、大学教員として採用される可能性は残されています。たとえば、専任講師としての任用をイメージして、その条件を簡単に列挙すれば、①博士学位または博士課程後期課程満期退学、②研究論文(単著もしくは第一著者)5本程度、③学会報告3回程度。これらは何れも最低限のレベルと言えます。これに採用時の提出書類として講義のシラバスやレジュメ、模擬授業の評価、面接の印象などが加わることになります。
採用は競争であり、①②③がそろっているのは当たり前と言えます。①②③にどれだけ様々な積み上げができているかどうかで、採否に大きな影響が生じることでしょう。人気校の公募では、②で英語の査読論文の採択件数などが求められることもあります。また、英語で授業ができること、なども条件に付されることがあります。私の研究室では模擬授業の進め方を指導したり、一年間の指定科目のレジュメや講義計画の策定方法なども指導しています。院生や研究員が大学非常勤講師の職を得ることは、相当に困難となってきており、専任講師レベルでの募集では、教育経験がゼロのケースの応募者も少なくありません。そうした応募者は、レジュメやシラバスと模擬授業でアピールすることが大切です。
社会人大学院生の場合は、社会人としての実績が評価されることがあります。弁護士や公認会計士が、実務家教員として大学に任用されるケースなどもこれに該当します。ただし、この場合注意すべきは、普通の弁護士や会計士は数多おいでで、求められるのは、そうした普通の水準を超える実務実績を有されているかということになります。
たとえば、地方自治体での実務で言うと、知事や市長ならばまだしも、それ以外の副知事や副市長、局長、部長のレベルでは、それらのポストでどの程度の実務実績を残したのかということが問われます。私の勤務先には、バランスシート係長を経験された総務部長経験者が、教授(任期制実務家教員)として任用されていますが、その背景には日本初の自治体バランスシート係長という実務実績が自治体会計論の担当者として評価されています。
つまり実務実績とはまさに実績のことであり、肩書やポストではないという点に留意する必要があります。元〇長といった肩書で大学にアピールされる方に、人事関係の委員をしていると時々お目にかかりますが、実務家教員については、大学は肩書ではなく講義を担うための実務実績を求めていて、究極のアンマッチが生じることが多いと感じています。
とまれ、大学への就職には、大学院の指導教授や研究室からのサポートの有無が大きく影響します。これは相当に偶然の賜物であり、残酷な偶然と言える世界でもあります。このせいで泣きを見ている方も多いのではないかと考えられます。
(2022.05.25)
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