私はなぜ、旅をするのか
目次
イントロ
人はなぜ旅をするのか
私は旅の何に価値を感じるか
まとめ
大学を卒業し、新卒で入社するまでの1ヶ月間、ぼくはひとりで旅することにした。
時間のたっぷりある大学生しか経験できない、東南アジア周遊をすることに決定。
旅という行為は、僕のアイデンティティを語る上で必要不可欠なピースなのだが、これまであまり深く「自分がなぜ旅をするのか」考えてこなかった。
人間はなぜ、旅をするのか。
旅をする動機についてはこれまでたくさんの研究者が分類してくれている。
田中(1950)は観光動機を心理的なもの(思郷心、交遊心、信仰心)、精神的なもの(知的欲求、見聞欲求、歓楽欲求)、身体的なもの(治療、保養、運動)、経済的なもの(買い物、商用)なものに分類できると主張。
Hudman&Hawkins(1989)は、健康、好奇心、スポーツ、精神的・宗教的、専門的・職業的、友達・親戚、ルーツ探し、自尊心、いずれかを目的とした観光に分類できるとした。
小口・花井(2013)は、こうした動機を発動要因や誘引要因に分類することで説明できるということを示したが、この理論が現在の観光動機分析のスタンダードになっている。
大学の偉い人たちはさすがで、上記のように観光動機を分析するだけではなく、観光したい欲求に、実際の行動が付いてくる条件要素が「動機」以外にあるとして、人間が観光アクションを起こすまでのパラメーターを体系化することに注力している。
立教大の李(2014)は、この観光動機の考え方に、行動成立のフレームワークを組み合わせ、旅という「行動」を起こす上で、「動機」、「金銭的、時間的制約」に加え、その人が持っている「信念」も関係してくるよねと、実に示唆に富んだ主張をしている。
つまり上であげた観光動機に、観光についての信念(予備知識や、解釈、思い込み)といったものが掛け算され、さらに外的制約(時間的、金銭的)がクリアできて初めて人間は観光というアクションを起こすのだと主張している。
このフレームワークに照らすと、僕もまさに「動機」一辺倒で自分の放浪癖を分析していたが、信念という観点も交えると、実は幼少時代に没頭したドラクエやポケモン、ワンピースといったコンテンツを通して冒険への憧れを募らせ、「旅はロマンだ」という信念が構築されてきたのだと気付くことができる。
堅苦しい議論は一旦ここでやめて、実際僕はこの旅の中で何を楽しいと感じたのか、つらつら列挙してみる。
私は、ひとり旅の何に価値を感じるか
○多様な価値観があることを知れる
旅をする中で、世界と美術館はとても似ていると思うようになった。
「法律」「政治」「自然」「宗教」「ビジネス」「人生」いろんなジャンルで、コミュニティごとの表現がなされる。
日本じゃコーヒーカップを置くだけのソーサーにコーヒーをドバッと入れて飲むというインドネシアのお作法。
シーシャは吸えてもマリファナは吸えない日本のルールと、マリファナはokでもシーシャが吸えないタイのルール。どちらもロジックはあるのに、導き出された答えが違う。
日本では「忠実」の代名詞たる犬が、東南アジアでは「凶暴」という性質を剥き出しにして、僕のことを追っかけ回してきたということ。
矛盾した相反する価値観が同時に存在できるほどに世界は広いということを教えてくれる。
○当事者として出来事に触れる
インドネシアの火山の火口に立った時の感動は、自分がフェアで客観的なネットの世界から飛び出して、実際にその土地に足を踏み入れてその土地の構成要素の一つとなって大地のうなり声に共鳴したからこそ湧き上がってくる。教科書を見て知っただけでは、その場所の匂いも音も、鼓動も感じなければ、ましてそんな場所が「ある」だなんてことすら、断言できない。
○1人では生きられないことを知る
この旅で、何度人に頼ったことだろう。道に迷い、看板を読んでも見たことのない言語ばかり。自分ではどうにもならないことに直面し、自分が赤ん坊のように無力だと知った。恥ずかしいなんて言ってられない。人の無償の恩恵に預かることは、恩返しするという使命を背負うということ。
社会の圧倒的な力への敬意と、助けてくれる人間の偉大さと尊さを骨の芯で感じることができる。
○自分を発見できる
ワットウモン周辺の美しいハイキングコースや、タイの夜行列車の車窓から眺めた景色自然、セブの映画館で、みんなで大騒ぎしながら見た映画。
一人でした経験を通して、僕は自然に浸ること、また、人と心を通わせることが好きだということを知った。
○身の回りの物事に興味を持つきっかけをくれる
「仲良くしてくれたあの人の国ってどんなところなんだろう。」
「同じ仏教なのに日本と全く異なる出で立ちをしたアユタヤの寺院はどんな変遷を辿ってきたのだろう」
「暑すぎるインドネシアで死ぬほど辛い食べ物を食べるのは、どうして何だろう」
日常生活に、「何でそうなってるの?」と驚くことがたくさん。麻痺したハテナ探しのセンサーが目覚める。ひとり旅の後、日本の何気ない街の雰囲気がおもしろく見えたり、今までより桜が綺麗に見えたりなど、ちょっとしたカルチャーショックも経験した。
○一期一会の出会い
1日でも渡航日がずれていたら、決して会うことはなかったであろう人たち。何か、自分の意思を超えた、運命の計らいを感じて仕方ない、
○奈落の底に落ちる恐怖と会える
キャッシュカードを無くし、携帯も繋がらないない状況に陥って、本当の孤独を思い知った。下手すると日本に帰れなくなるという最悪の状況が、いつでも身を潜めている。その状況が、自分の「生きる」を鮮やかなものにしてくれる。
まとめ
「知らないことを知りたい」
自分が魅力を感じでいることを棚卸したことで、僕は、自分の世界観の境界を押し広げてくれる人や場所との出会いを強く求めているんだってことがよく伝わった。
僕はふと、小学生の頃の国語の時間に読んだ、「アイスプラネット」の一節を思い出した。僕の信念が形成される上ですごく重要だったからこそ、僕はあの本のことを忘れずに思い出すのだろう。
僕はこの話の中に出てくるぐうちゃんみたいな人になりたいなって、子供の頃強く思ったことを覚えている。
ぐうちゃんはいつも、ぐうちゃんしか知らない話をして中学生の甥をワクワクさせる。
僕の見聞きしたことが、僕の大切な人に気付きを与え、少しでもその人が幸せに近づけたなら、僕は自分の人生を大好きになれるんじゃないかな。
選び抜いた就職先も、今こうしてnoteを執筆しているのも、旅をするのも、全て、
「僕にしか語れない話をするため」
アカデミックな理論を使ったり、ごちゃごちゃと自分の心を吐き出してみてみたけれど、
僕を旅に駆り立てる動機と信念は、実は小っちゃい頃から変わらず、とってもシンプルで青臭いという話でした。
参考文献
姜彰美(2014)「韓国のヘルスツーリズムにおける健康・美容認識に関する研究」立教大学博士学位論文,pp1-265
田中喜一(1950)『観光事業論』観光事業研究会
Lloyd E. Hudman Donald E. Hawkins(1989)
"Tourism in contemporary society", prentice hall, 29(3), p285
小口孝司, 花井友美(2013)「観光者の欲求・動機とパーソナリティ」橋本俊哉(編) 観光行動論 観光学全集第4巻 原書房 pp. 25–41.
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