キャピタリストってどんな仕事?

近頃、戦略コンサルや外銀を目指す就活生がベンチャーキャピタルに関心を寄せている。次世代の大企業の原石を発掘し、投資して莫大な利益を得るという非常に夢のある職業です。私は大学生でありながら、運良くある会社のキャピタリストとして、新規顧客の開拓業務に従事することができました。インターンシップ生を募集しているVCは多いものの、大半はアソシエイトの下でリサーチなどの業務を中心としていますが、その中でインターン生としてソーシングを経験できたのはかなりレアなのではないかと自負している次第です。

この希少な経験を通して、私が学んだことを言語化してみました。「VCに興味はあるけれど、まだよくわからない」大学生の方や、転職でVC就職を考えている人に少しでも参考材料になれば幸いです。


アジェンダ
VCの意義
想像と実際働いてみた時のギャップ
これからVC就職を考える人へ


VCの意義

私のVC志望動機
 私のVCに対する認識は、「挑戦的な銀行」でした。安定して実績のある会社に対してお金を貸し出す銀行では救えない「ポテンシャルを秘めた会社」に半ば出世払い的にお金を貸し出すことで、世界を変える夢を共に追いかける。
原体験は、私と親との関係でした。わたしは後先考えずにいろんなことに手を出してしまう性質の人間です。高校選びも大学受験も海外旅行も資格取得も、人生の転換点において、お金が足りないという壁に直面しておりましたが、
私の母はそんな時にいつもお金を工面してくれ、貴重な機会を諦めず、多くの経験を積むことができました。
この原体験により、私は自分が社会に出る上で、「挑戦者を支援する仕事をしたい」という思いを抱かせるきっかけになりました。そんな私にとってVCは本当にピッタリの仕事でした。本就職はVCとは違う領域ですが、好奇心に突き動かされ長期インターンでキャピタリストを経験することにしました。

VCはなぜ社会に求められているのか?
日本は、人口減少や少子高齢化、それに伴う経済の低迷、国際競争力の低下という複雑な課題に直面しています。
岸田政権が公表した「骨太方針2022」、「新しい資本主義」は、日本の経済停滞を打破する重要な施策の一つにスタートアップの活性化を挙げています。スタートアップの活性化を促すさまざまなレバーのうち、カネ(会社によってはヒトも)を操作するいちプレイヤーに、VCは位置付けられます。

スタートアップのエクイティファイナンスについて
 企業は外部からお金を集めるために、
「実績がないのでリスクは高いが、俺の掲げるプランは将来莫大なリターンを出せるぜ!今、想いに賛同して俺の船に相乗りしてくれるなら、この利益を一緒に分け合おうぜ!」と自らのプランの魅力を語り、お金を集めます。
 投資家は、「不動産や投資信託よりもハイリターンが狙えるベンチャー企業で、自分の資産を倍増させたい!」
と、投資案件を探しています。
 投資案件探しは本当に骨の折れる作業で、資金ニーズのある会社にコンタクトを取るのもひと苦労、取った後も、「投資に値するか」を見極めたり、逆に、「経営者から乗組員として選ばれるか」といった壁があり、非常に難易度の高いものです。

インベスターz 48話


 だからこそ、実績のあるベンチャー投資のプロにこの工程を外注したいと思っております。その代理人となるのがVCというわけです。

VCが間に入ることで、投資家のお金がスタートアップに行き届き、スタートアップが活性化され、投資家に還元し、循環ができます。

経営支援
VCは、金以外にも、投資先の成功事例に基づきアドバイスをすることも可能です。
1980年から2022年までにIPO exit(ホームラン)した企業のうち、40%にVCが入っています。彼らは自分達の投資マネーを爆増させるため、金だけでなく、経営アドバイスなどで支援してくれます。

なぜ人気?
キャピタリストに求められるスキルのレベルや高さは、向上心の高い人にとっては魅力的です。
 株式に関する専門知識や経営支援などのハードスキルに加え、ビジネスモデルに対する審美眼、経営者からの信頼を獲得する人間力といったソフトなスキル、両方を高いレベルで求められます。
 社会意義の高さもポイントでしょう。次世代のGoogle、Appleになるようなポテンシャルを秘めた会社の成功をエスコートするという、大役です。
 これらのポイントが、多くの志高い求職者の心を惹きつけてやまないのだと思います。

実際に働いてみたことで分かったこと。

はじめに感じていた印象は概ね合っておりました。毎日「社会をよくしたい」と考える様々な経営者たちの相談に乗るこの仕事を通して、意義を感じていました。

一方で現実的な面からいくつか、入社してみて気付いたことがありました。

投資先は残酷なまでに厳選される
「我々はお助けマンではありません」。先輩からピシャリと言われた言葉ですが、自分の甘さと業界の厳しさをはたと感じた瞬間でした。
キャピタリストは、投資家のお金を何十倍にもして返す代理人です。すべての企業の中からほんの数%に満たないイケてる企業を探し出して投資をし、それ以外の企業はお断りしないといけません。
資金繰りが数ヶ月後に滞る状態で藁をも掴む思いで相談しにきた企業でも、ビジネスモデルがイケてなければ、あるいは着金タイミングに折り合いがつかなければ、お断りします。働きはじめた当初は的外れに心を痛めてましたし、恨めしそうにこちらを見る経営者の顔を思い出して申し訳ない気持ちになりました。
価値提供できない相手には、そもそも会ってはいけない。それが本当の優しさだったと今になって思います。それだけでなく、既存投資家との関係など、こちら側の都合でお断りせねばならないことだってあります。本当に厳しく選別されています。

ビジネスモデルの知識は身につくが「経営」は分からない
キャピタリストが投資検討する際に見るのはその際の「点」のデータであり、それを分析することはできても、「良い数字をどのように作るか」「人をどうやってやる気にさせるか」など経営の真髄については学べない(所属する企業の中で経験を積むことは可能)点は、少し予想から離れていました。あくまで、投資家がどのような視点で会社を見ているかを知ることにとどまります。
ただ、VCの種類や職階によっては企業の社外取締役として経営に深く入り込み、アドバイスに従事している人もいるので、一概に「経営を学べない」訳ではありません。

キャピタリストと言っても業種はさまざま
 キャピタリストに対してキラキラしたイメージを持っている大学生は特に注意が必要ですが、キャピタリストの仕事、特にソーシングは泥臭い法人営業です。ソーシングしかできない会社を選ぶと、皆さんの予想しているキラキラキャリアからは程遠い形になってしまうかもしれません。(なお、実力あればこの限りでないですが)。ソーシング力はキャリア人生の中で強力なエンジンになってくれることは間違いありませんので、新卒キャピタリスト志望の方はいま一度自分の適性や意志を見直して、覚悟を持った上で選択することが重要だと思われます。
 中途の方は、銀行や証券会社で法人営業を経験された後にキャピタリストを志望される方が多いように思います。融資やエクイティ、両方理解して提案できるキャピタリストは、経営者の心を掴みやすいかと思います。

今後VC業界に来られる方へ
キャピタリストとして、あなたが何を重視するのかのウェイトを決め、それに合った会社の門戸を叩いてください。

学生の方へ
個人の経験ベースですが、新卒で入社するより、学生インターンシップとして、キャピタリスト職をお薦めします。特に、今後新卒でVC、M&A仲介、証券会社、銀行、投資銀行を目指す方はスキルが直結するソーシングをお勧めしますし、コンサルやベンチャーへの就職を考えている方ならアナリストとしてマクロに市況を読む経験を積んでも良いかもしれません。

中途の方へ
少なくとも、明確にしておくべき指向性は、
「提供サービス(経営者派遣してハンズオンまでするかなど)」「業界特化かそうでないか」、「携われる仕事(ソーシングか経営か)」、「投資家ならびにファンドの期待値(投機なのか、リターンを求めない社会的投資なのか)」
この辺りについて明確にしたうえで、そこにマッチするVCを探すと、納得感を持って仕事をできるかと思います。

まとめ
キャピタリストとして、求められる仕事レベルの高さはなおのこと、副次的に得られる人脈は必ず人生を豊かにしてくれます。
覚悟を決めたならぜひ、一歩踏み出してくださいね。

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