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倉敷旅行

旅行の記事を書く。妻と一緒に岡山の倉敷美観地区に行ったのはお盆休みのことだが、書こう書こうと思ったまま、日々の仕事やら生活やらにかまけて、つい二週間近くほったらかしにしてしまっていた。

私は、旅行好きな両親や、親戚の叔父叔母やら誰それやらに連れられて、幼い時分からよく様々な観光地を訪れていたのだが、倉敷は今回が初めてだったらしい。これは先日帰省の際に両親にも確認したことだから、おそらく間違いがない。というのも、色々な場所を旅行したのはいいのだが、記憶力の悪い私は、それらをほとんどと言っていいほど忘れてしまっているのだ。幼い我が子の見聞を広めようとしてくれた両親には、まことに申し訳ない限りであるが。

さて、旅行の記事。何を書こう。最初から最後まで全部書いていたらキリがない。とりあえずは、(妻に)撮ってもらった写真を見返しながら、思いつくままに書き綴ってみようと思う。

一日目。彩り豊かな小丼ぶりが六つ並んだランチ。楽しくお腹いっぱいに。

美観地区を南北に貫く倉敷川。両側には涼しげな柳の木立と、白壁が印象的な家屋が並ぶ。

近現代美術中心のコレクションを多く所蔵する大原美術館。日本初の私立西洋美術館なのだとか。外観は古代ギリシャの神殿のよう。倉敷の著名な実業家である大原孫三郎氏なる人物が、自身がパトロンとして援助を惜しまなかった洋画家・児島虎次郎氏の死後に、その業績を記念して設立したという。

「晴れの国」の異名に違わぬ強烈な日ざしを避け、妻と一緒に入った珈琲館。手前のシャーベット状のは、妻が注文した「グラニータ・ディ・カフェ」。シャクシャクのコーヒーシャーベットの下には、練乳のように濃厚なクリームが敷かれており、スプーンでよくかき混ぜてから口にすると、やや強めの苦味とクリームの甘味がほどよく混ざり合い、シャーベットの冷たさも相まって、暑さと人混みに消耗した身体に沁み渡る。奥に座っている私が注文したのは「マンデリン・ノワール」というコーヒーで、こちらも濃厚だが強すぎない苦味が丁度よく、店内もレトロで落ち着いた雰囲気を堪能できた。

よくもまあこれだけ集めたなと感嘆する日本郷土玩具館。達磨、獅子、牛、こけし、福助、恵比寿、鬼面、凧、お雛様など、よく目にするお馴染みの面々は当然として、思わず「なんだこれは」と叫びたくなるような珍妙・不思議な郷土玩具の数々が所狭しと並ぶさまは、まさしくカニ人ワールドにおける「縁起の国」に迷い込んでしまったかのよう。

最初は表通りに面したショップが郷土玩具館かと勘違いしていたが、その奥にはこんな異空間があった。

恵比寿さま
おひなさま

(カニ人関連の画像はすべて下記のサイトから引用)

夕食は、鬱蒼と生い茂る植物に囲まれた隠れ家的なカフェバー、「アンティカ」にて。こちらもメイン通りからは奥まったところに店を構えており、パッと見ただけではどこにあるのか見当がつかない。事前に妻が調べてくれていなければ、おそらく永遠に辿り着けなかっただろう。ピザ、パスタ、ドリア等、食事はどれもおいしかったのだが、味にもましてよかったのは店の雰囲気だ。

私は、食事に対して結構環境を重要視するタイプで、「味さえよければ、店が汚かろうが、狭かろうが、客の行儀が悪かろうが、そんなことはどうでもよい」などという考え方には、まったく賛同できない。落ち着かない状況では、そもそもおいしく食べることができないのだ。心に余裕が必要なのである。

現に、最終日の昼に入ったラーメン屋(店名は忘れた)は、そもそもの店舗面積が狭いのは仕方ないとしても、我々夫婦が案内された席が、空調の都合か、およそ飯を食う場所ではないと思えるほどに暑苦しく、それがあまりにも不快すぎて肝心のラーメンの味がまったく思い出せない。一応、妻が撮ってくれた写真があるにはあるのだが、それを見返してもまったく舌に記憶が蘇ってこないのだ。倉敷自体は、今すぐにでも再訪したいくらいに楽しかったのだが、あのラーメン屋だけは二度と行くまいと断言できる。

日が沈んでから、倉敷川沿いを散歩した。昼間は日ざしがきついが、湿気が少ないので夜は涼しい。車は通行禁止なので歩きやすく、風にあたると気持ちがよい。

二日目。「Cafe Gewa」でモーニングセットを注文する。Gewaと書いてゲバと読む。ゲワではない。店名の意味はわからないが、食事はとてもおいしかった。気に入りすぎて、最終日の朝食もここに来たくらいである。コーヒーも抜群に旨い。最終日の朝に行った際は、店内で飲んだうえで、さらにテイクアウトまで注文した。

これは倉敷市水道局の公式キャラクター、「くらっぴぃ」だ。

画像は公式サイトより引用

意思疎通の可能性を微塵も感じさせないその胡乱な目つきは、見る者の心に言いようのない不安をかきたてる。なぜこのデザインで企画が通ったのだろうか。とはいえ、初見のインパクトは強烈であり、キャラクターとしては間違いなく成功していると思う。個人的には大好きだ。夜道に立っていたら叫んで逃げ出すと思うが。倉敷市内のマンホール等によく描かれており、通行人は折に触れて彼(または彼女)の姿を目撃することになる。倉敷にいる限り、くらっぴぃはいつでも我々を見守ってくれているのだ。あるいは、監視されているかのどちらかだ。

国芳館。江戸末期の浮世絵師・歌川国芳の作品を常設展示している美術館である。もともとは旅館だったのを改装したのだとか。生憎、当方に国芳に関する知識はほとんどない。かろうじて妖怪事典の「がしゃどくろ」の項で「相馬の古内裏」を知っていたくらいか。FGOでサーヴァント化されていたのは、あれは葛飾北斎か。黒星紅白氏の。

「相馬の古内裏」の一部

「相馬の古内裏」は勝手に巨大なものを想像していたが、実物は思ったよりも小さかった。作品はすべて撮影禁止だったので写真はないが、神仏妖霊に題材をとった作品など、興味深い点は多かった。

「がしゃどくろ」といえば、個人的にはゲーム「ジャックジャンヌ」の登場人物である田中右宙為(たなかみぎ・ちゅうい)──魔の域に達する懸絶した演劇の才の持ち主にして、夜の神社で奇声を発しながら誰よりも激しい稽古に励む、身の丈およそ六尺五寸の圧倒的近所迷惑──の演じる「がしゃどくろ」が思い浮かび、「おお、これが『我死也』で宙為さんが演じた『がしゃどくろ』か」と感慨にふけるなど、なかなか楽しめた。


内部にはカフェも併設されている。こちらにも作品の一部が展示されていて、やわらかい座布団に座って絵を鑑賞しつつ、涼しげな和菓子やドリンクを楽しめるのだ。

昼食。野菜たっぷりのフルーティなカレーライス。パリパリに揚げたゴボウが歯茎に突き刺さりかけて悶絶したが、味はとてもおいしかった。妻も気に入っていた。

アーティスト・川埜龍三氏のギャラリー、「ラガルトプラス」を訪れたのも同じ日だが、そちらはすでに別記事に書いたので割愛させていただく。

三日目は、主にクラボウ関係の施設を見学して回った。倉敷紡績(クラボウ)というように、倉敷市はクラボウの発祥の地なのだ。

倉敷川沿いにひときわ目立つ豪邸は、クラボウ創業者一族の旧邸宅・大原家住宅。なお、前述した大原美術館の大原孫三郎氏は、クラボウの二代目社長にあたる。母屋の立派さもさることながら、特筆したいのは離れだ。

廊下は驚くほど狭く、床を踏むたびにギシギシと音が鳴って、冬場などはさぞ底冷えするだろうなと思ったが、そこを抜ければ息をのむほど美しい庭が広がっていて、まるでNHKドラマ「岸部露伴は動かない」の舞台のよう。時間さえ許すならば、いつまでもそこに座って眺めていたいと思えるほどの景色に、恥知らずにも「ずるい」という言葉が口をついて出てしまった。この風景を独占し、いつでも好きな時に愛でることのできる境遇が、心底から羨ましくなってしまったのだ。もちろん、その境遇を得るためには、庶民には計り知れないほどの苦労と努力を重ねているだろうとは思いつつも、である。

アイビースクエアは、江戸時代の代官所跡にクラボウが建てた旧工場である。現在はホテルや文化施設などが一体となった複合文化施設となっている。

赤煉瓦に蔦の絡みついた様子がとても美しい。夜には中庭でビアガーデンをやっているようだ。

旅の終わり。とても充実した二泊三日の旅行であった。機会があれば、ぜひともまた訪れてみたい場所である。

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