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日記 パウ・パトロールとは何者か
穏やかな休日の午後。こどもたちと一緒に録画していたパウ・パトロールをテレビで見ていた。
知らない人に向けて説明すると、パウ・パトロールとはケントという身元不明のポジティブ少年が私営の犬レスキュー隊「パウ・パトロール」をとりまとめており、彼らの住む町アドベンチャー・ベイの住民がたびたび起こすトラブルをパウっと解決していくという話である。
アドベンチャー・ベイに住む大人たちはろくでもない。偏差値もモラルも低いし、私はこんな町に絶対住みたくない。絶景の写真を撮ろうとしたら遭難しちゃったとか、作った恐竜ロボが制御不能になって暴れ出しちゃったとか、ペットのニワトリがいなくなっちゃったとか、異臭騒ぎだとか、本当にどうしようもないトラブルばかり頻繁に起こしている。
そしてそういう時、アドベンチャー・ベイの住人たちは全部ケントの携帯に直接電話するのである。いやまず警察とか消防に連絡しなさいよ。この町の公安系公務員はよほど信用がないんかと思う。ケントはたまったもんじゃないだろう。
対してケント、たとえ休暇中であってもいつも嫌な顔一つせずに笑顔で対応している。まだ少年なのに人間が出来すぎている。パトカーのチェイス、消防車のマーシャル、ヘリのスカイ、ブルドーザーのラブル、ホバークラフトのズーマなどのメンバーから必要に応じて采配してすぐにレスキューに向かう。
そこで毎回、選ばれた犬メンバーはそれぞれ自分の決めゼリフを言うのだけど、私はちょっとそこで引っかかりを感じた。たまたま見ていた回でチェイスが選ばれ、彼がパトカーに乗りこむ時にこう言ったのである。
「俺の正義が騒ぐぜ!」
俺の正義。チェイスにはチェイスの正義があり、その信念に従って動いているということか。たとえば想いを寄せる子が泥棒を働いたとして、そこで『俺の正義』が騒いだ場合、チェイスは被害にあった方の人に「君は黙っとくんだぜ!」と俺の正義パンチ、なんてこともあり得るわけである。
怖すぎる。そもそも君、パトカーて。私営でやっていいんか。君が法律なんか。パウ・パトロールはこんな危険なやつをメンバーに入れてて大丈夫なんだろうか。
でもそこで思う。チェイスはそんな非常識なことをしたことがあったか。いやない。たしかに現実の社会ではやらなさそうな柔軟な方法だなと思うことはあるけど、それも最短でレスキューするためのことである。そういう意味でパウ・パトロールはルールに従わない非公認の正義の組織と言えるんじゃないか。
ん?ルールに従わない非公認の正義の組織……?
ハッ……!
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別……班……!あの公安すらもあざむく自衛隊の超エリートから構成される幻の極秘組織、別班か!
そうか、パウ・パトロールは別班だったのか。どうりでケントが優秀すぎると思っていた。トラブル発生から全員集合までの短時間で簡潔に状況を説明する資料を作成できる能力、さらにメンバーに出す指示の正確さと、状況が変わってもその場で迅速に次の手を打つ頭のキレ、どれをとっても超一流。
さらに彼らの拠点である豪華なパウ・ステーションやレスキューに使う特殊車両、その他運営費などの資金源が謎に包まれていたけど、別班ということであれば税金というでかいサイフがあるのであろう。私が不思議に思っていた部分の辻褄が全てあうのである。
私は自分がこの大発見をしたことに興奮を抑えきれず、思わず妻に話してみた。
「ねえ、ねえねえ妻。パウ・パトロールってさ、私営のレスキュー隊でやたら仕事もできるしさ。もしかして……『別班』じゃないのかな」
すると妻は鋭い目つきになって少し考え、「いや……国が軍事力を委託しているという見方をすれば、むしろ『テント』なんじゃない?」と言った。
痺れた。
(パウ・パトロールもVIVANTも知らない人にはなんのこっちゃな話でごめんなさい)