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【漫画感想】K2 489話

 最前線(後編)、前回の終わり際に白石室長が寄越したアドバイス「本物は最後に来る」の意味が明らかになる話。
 運び込まれた患者は十二指腸穿孔による腹膜炎、手術が必要な為、消化器科の先生にコンサルする事でなんとか対処。無菌状態の腹腔内に消化器官の中身が漏れるってめっちゃ怖い。斎藤さんも大関さんもこれを『本物』と思っていたが、それは5分後に来てしまう。大腸憩室穿孔という、同じ腹膜炎でも先程よりも重大な患者が運び込まれてしまう。大腸なので、恐らく出来かけのう〇こが漏れてる、死ぬほど怖い。消化器科は既に先の患者の手術に取り掛かってしまいコンサル不可。十二指腸の患者は若く、大腸憩室の方は老人。引継ぎまで2時間、他所の病院に回す時間もない。
 斎藤さんの判断ミスではない。後から同じ症状を引き起こすもっと重篤な患者が運び込まれるなど、誰も予想出来ない。
 そんな極限状態の中――

ギュッ

 斎藤さん、王道一直線の少年漫画みたいな覚醒。
 救急室開腹を宣言し、この場で手術するという道を選ぶ。大関さんを助手にして、患者の下腹部を切開。破れた大腸から漏れ出した内容物を洗い流す際、生理食塩水の勢いが足りないと指摘して戻ってきたのは白石室長。自分がフラグを立ててしまったのでしっかり片付けに来る男。助手を務め、「正しい判断だった」「これはお前の手術だ」と、斎藤さんを叱咤激励。
 本番に強い度胸と勝負強さが本領発揮、壊死した腸管の吻合までやり遂げて手術終了。先の十二指腸穿孔の手術を終えた消化器科の小笠原先生も、斎藤さん達の活躍に思わず困惑。まぁ、救急外来の応援初日の研修医が執刀したなんて聞いたら、そうもなる……

 夜が明ける頃、ICUに運ばれた患者は小笠原先生のハンドサインで無事だったと分かり、白石室長と斎藤さんはその場を離れる。白石室長は斎藤さんを「なんでも出来る」と評するも、彼女はそんな自分を「一点突破するものがない何も出来ない人間」と言ってしまう。
 大学の頃から一度とて見せた事のない表情と、本気の悩み。第477話で帝都セブン女子会した時も、チラッと触れていた。宮坂さんにも青山さんにも「全部平均以上」「オールラウンダーの証拠」と言われていたが、逆にそれは励ましと受け取れなかった感がある。その時でも斎藤さんはテンションを高めにした言い方で、二人に気を遣っていたような部分がある。詰まる所、斎藤さんには感情や悩みをしっかりぶつけられる相手がいなかった。宮坂さんには一也がいて、青山さんには小児科部長コンビがいる。常に強くあれという精神性が、彼女を縛り付けていたのかもしれない。研修初期、淳子夫人に言われた事も、恐らく引っ掛かっていたと思われる。

 そんな斎藤さんを見て、白石室長は高品総合病院に来た経緯の続きを話し始める。やはり高品院長からのツテだったのだが、当時は『あの先輩』の光に狂わされ、自分の専攻にすら身が入らない有様だった。それを見て、高品院長は救急外来を総合医として捉え「ジェネラリストというスペシャリスト」になって欲しいと告げる。そして、自分も多くの患者を救う事で『あの先輩』に近付けるのではと考えている。
 高品院長はKAZUYA、富永は一人先生、どちらもドクターKと接触した事で、人として医者として大きく変わった人物である。二人のスーパードクターから天啓とも取れる光を受けた白石室長は、まさしくかつての自分と同様に迷っている斎藤さんを導いてみせた。光を差し伸べる側になった時点で『あの先輩』の領域に、確実に近付いている。行き先を救急外来に決めた斎藤さんは白石室長の事を「白石院長」と呼んでいるが、これがミスなのか誤植なのか、本当に斎藤さんにはそう思えてしまったのか

 迷いの消えた背中を見て、ようやく一安心と言った感じの谷岡部長。斎藤さんの迷いはずっと気になっていたようで。本当に面倒見がいいなこの人。そして、一也に「そろそろお前の答えも聞かせてもらおうか」と振った所で次回に続く。果たして、そのまま一也の選択に話が進むのか、それとも一旦さておいて別の話を進めるのか、それは分からない。
 しかし、一也が答えを出すというシーンは過去にはそう多くない。相馬先生の死に際の言葉により医者となる事を志したが、それ以降は医者、ひいては未来のドクターKになるための道程をずっと歩んできた。命の番人編の後、母が遺したマントを羽織って一年近く放浪したが、一郎先生や海ちゃんとの出会い、富永との再会や富永総合病院スタッフとの関わりが一也を大学へと戻らせた。
 今回の谷岡部長に求められた『答え』は今までと異なり、医者になった一也がどう生きるかを問われている。次なるドクターKになる道を選ぶのか、高品総合病院で勤務する医者を続けるのか、宮坂さんとの関係はどうなるのか。
 それもあるが、一也がドクターKという役割をどう捉えているかも気になる。一人先生は本家筋のKの系譜が途絶えた時のバックアップとなる一族の生まれでありながら、アラフィフに達するのに独身で子供はいない。代わりに富永、一也、宮坂さん、譲介、龍太郎、海ちゃんと後継者を育て、さらに富永はスーパードクターの光でさらに後進の育成に励んでいる。なんというか、受け継がれるべきは血統ではなく志という考えを実践しているようにも見える。それは奇しくも『人類全体の能力を底上げする』というTETSUの理想にも通ずるものがある。

 ドクターKに直接的にも間接的にも触れた光の医者は、スーパードクターそのものを増やす事で、K一族の伝統と因習に終止符を打つ流れに向かうのかな、とも思ってしまう。もう、一握りの人間だけが高度な情報や技術を掌握し続ける時代でもないわけだし、終わらずとも大きな変革をもたらすのではと……

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