黄金の太陽 開かれし封印 感想、その他
概要
黄金の太陽 開かれし封印
販売元:任天堂 開発元:キャメロット
発売日:2001年8月1日
機種:ゲームボーイアドバンス ジャンル:RPG
2000年の任天堂スペースワールドにて、ゲームボーイアドバンスと共にお披露目された新規タイトルとなるRPG。21世紀最初の夏、大きくアドバンスした携帯機RPGの、新たなる始まり。
評価
システム:★★★★☆
遊びやすさ:★★★☆☆
グラフィック:★★★★★
サウンド:★★★★★
キャラクター:★★★☆☆
ストーリー:★★☆☆☆
良かった点
・圧倒的進化を遂げたグラフィックとサウンド
不肖MaZ、基本的にゲームはシステムとUIを優先するきらいがあるものの、本作においてはこのグラフィックとサウンドの進化は大きなアドバンテージでありアイデンティティであると思っている。
任天堂ブランドの前年、先代機種のRPGであるポケットモンスター クリスタルと比べて貰えば分かるが、ハードの進化に合わせて大きく向上している。もちろん、ゲームデザインによる違いがある事は十分把握しているし、ポケモンに過剰な演出が入れば処理の重さや通信の負担が増える事は承知している。グラフィック及びサウンドの単純比較という意味での向上である。
GBAは32ビット機であり、単純計算でスーパーファミコンの2倍、ゲームボーイの4倍のマシンパワーを有している。ソフト容量も段違いなので、SFCどころかライバル機であるプレイステーションの初期タイトルに勝るとも劣らないグラフィックを実現した。温かな草、切り立った崖、揺れる水面、鬱蒼とした森……世界が、豊かな色彩のドットで描かれている。
戦闘時は疑似3D演出が施されており、開発元であるキャメロットがセガ時代に開発したシャイニング・フォースの戦闘画面をベースに敵と味方の立ち位置がグルングルン回る。後述するエナジーの種類も豊富で、エフェクトはバンバン出るし、ジン解放や召喚のド派手な演出は、これ本当にGBA初年のゲームでやっていいのかと思う程。
BGMはキャメロット開発作品に縁が深く、スターオーシャンやテイルズシリーズで有名な桜庭統氏が担当。テンションぶち上げ系の戦闘BGM(特に通常戦闘とサテュロス戦は評価が高い)に、のどかな村や活気あふれる町、怪しいダンジョンや異郷の地と、プレイヤーの心を盛り上げてくれる。
・エナジーによる様々な謎解き
本作の大きなセールスポイントの一つに、エナジーによる謎解き要素が挙げられる。
エナジーは他のRPGでいう所の魔法に近い超能力で、行使者はエナジストと呼ばれる。精神的エネルギーで各属性のエレメントに干渉するためか、エナジストでない普通の人間にはエナジーを認識する事が出来ない。例えば、物体を水平移動させるムーブで岩などを動かす際、プレイヤーとキャラクターには巨大な手が見えているが、普通の人間には『いきなり岩が動いた』ようにしか見えない。
移動時に使うエナジーは概ね物体に干渉するもので、足場になる岩やブロックを動かしたり、道を塞いでいる巨岩を持ち上げたり、人などの心を読んだり、見えないものを見たりする等。これに加えて、本作では一部の戦闘用の攻撃エナジーが謎解きに用いられる。敵を凍てつかせるチルドは水たまりを凍らせて氷の柱にする、つむじ風で攻撃するスピン絡みついた蔦を払う等、色々な使い道がある。
また、謎解きそのものに大きく貢献する回数は少ないのだが、イワン固有のエナジー、リードは使ってて楽しい。人などの心を読むのだが、町や村の人の心を読んで、内心思っている事を知ってしまう楽しみと、喋らずにいたヒントを手に入れられる事もある実益を兼ねている。ムーブとリードは本作を代表するエナジーと言えよう。
・ジンシステムによるキャラクターのカスタマイズ
本作はオーソドックスなコマンド入力式RPGだが、ジンによる独自のカスタマイズ性が取り入れられている。
まず、本作のパーティメンバーは地属性のロビン、火属性のジェラルド、風属性のイワン、水属性のメアリィの四人であり、各々に剣士、戦士、風使い、水使いというクラス(職業)があてられている。基本的にそれぞれの属性に準じたエナジーしか使えないが、各属性の精霊であるジンをセットする事でキャラクターのクラスが変化する。属性を変える事で、元のクラスでは使えなかった系統のエナジーが使えるようになる。
キャラクター毎に特定のクラスに就くために必要なジンの数は決まっているのだが、ジンは調和と均整を重んずる性質があるためか、一人に集中してセットする事は出来ない。例えば、ロビンは地のジン×2で剣士系の一つ上のナイトになるのだが、そのためにはパーティ人数+1の総数のジンが必要になる。いきなり強いクラスにするといったズルは出来ないバランス感覚。
セットしたジンの戦闘時の解放効果、スタンバイによる能力値やクラスの変化、再セットか召喚のために取っておくか、リカバリーのタイミングを考慮した召喚の発動か、召喚を開幕で使うために事前に必要なジンをスタンバイにするなど、キャラクターのカスタマイズ性と戦闘時の駆け引きの材料を両立させた面白さがある。
気になった点
・ストーリーでテンポが悪い所がある
本作最大の問題点はストーリー、というかテキスト面にある。
古いファンの間で『高橋語』と呼ばれるほど独自の言い回しがあるのだが(高橋とはキャメロットの社長及び副社長兄弟のこと)、平たく言うと復唱を含めた喋り言葉を推敲せずに書き起こしたようなテキスト。また、会話シーンでは喋らないキャラを出さないように配慮しているためか、特に意味のない相槌を打ったり、言わなくても良い事を言って話を長引かせたりする下りがままある。そのため、会話シーンのテンポは恐ろしく悪い。会話はキャッチボールだ、ドッヂボールじゃない。
頷いたり、感情アイコンを浮かべたり、汗飛ばしたり等のリアクションはあるので、そちらに任せてテキスト量を減らす工夫はして良かったと思う。
だから会話のドッヂボールをするんじゃない。
・ファストトラベルが無い
フィールドがむちゃくちゃ広いゲームにとって、ファストトラベルが無いなどと言われたら、それは評価に致命傷を与えかねない。
本作のフィールドは決して狭くなく、エンカウント率も高くはないが低いとも言えない。にも関わらず、ファストトラベルが無いという欠点がある。
ドラクエで言うならルーラ、ポケモンで言うならそらをとぶが無い。
FFのようにファストトラベルが無いゲームもあるが、こちらはある程度シナリオが進むと自動で移動したり、船や飛空艇といった移動手段が手に入る事が多く、移動面で大きなストレスになる事は少ない。
本作でファストトラベルが無いために発生するテンポの悪さは、マーキュリー灯台の灯が点ってからコリマ森まで戻る時、アルタミラ洞窟からトレビに戻る時、ルンパ村でのイベントの後、取り逃したジンの収集時に痛感させられる。遊びやすさの減点はこれが主な原因。
ストーリー
世界の始まりの場所と呼ばれた霊峰アルファ山と、その山肌に作られたハイディア村はある晩、未曽有の嵐に襲われ、四人の村人が喪われた。
三年後、先の嵐で父を亡くした少年ロビンは村長一家の息子ジェラルド、嵐で両親と兄ガルシアを亡くした少女ジャスミンと共に、古代の失われた超技術である錬金術の研究のために村に住んでいた学者スクレータの元を訪ねた。その道中で出会った怪しい一組の男女。
ロビン達は怪しい男女に危険な気配を察し、立ち入りを禁じられていたソル神殿の奥まで入り込む。錬金術の封印に関与しているエレメンタルスターを先んじて安全な場所に移してしまおうと考えたのだが、後を付けられており、ジャスミンとスクレータが捕らわれてしまう。そして、抵抗するジャスミンの前に現れたのは、死んだはずのガルシアだった。
結果として錬金術の封印が解かれ、アルファ山の噴火と共に世界は大きく変わり始める。道中で出会った謎多き風のエナジスト、イワンと北方のマーキュリー灯台の防人の一族メアリィを仲間に加え、ロビンとジェラルドは怪しい男女のサテュロスとメナーディ、二人に従うガルシア、メアリィの同族でありながら裏切ったアレクス、そして捕らわれたジャスミンとスクレータを追って、アンガラ大陸とゴンドワナ大陸を股に掛ける事となる。
基本的に王道と言えば王道、自業自得と言えば自業自得な印象もあるシナリオだが、道中で謎が深まっていくのが風のエナジストである。イワンは世界の南西の土地から養父ハメットに拾われ、その際に予言とシャーマンの杖を授かっている。また、ラマ寺でイワンにイマジンを授けるハモ様は、彼にどこか家族のような温情さえ向けるほか、彼女にリードを掛けると『心が乱れて正しく未来を予知出来ない』と意味深な心境を語る。その意味が分かるのは次回作での話。
道中、トレビの支配者ザビバビがとある目的のために灯台を建設するため、現地ラリベロの民を徴用するための人質として宮殿に置いていた、風のエナジストの少女シバと出会う。シバは幼い頃、天空よりラリベロの町の近くにある遺跡に降り下りて、その時に遺跡が丸くくぼんだのだという。彼女もイワンと同様にリードのエナジーを会得しており、諸々あってシャーマンの杖はシバの手に渡る。
世界の命運さえもその背に負うがごとく、謎を深めていく存在なのである。イワンに関する謎は次回作で明らかになるが、シバはそれでも不明な点を数多く残している。
総評
今までの任天堂には無かったタイプのRPG……というわけでは決してなく、エナジーを駆使した謎解きはゼルダの伝説に近く、コマンド入力式のRPGという点ではMOTHER、携帯機のRPGという点ではポケモンという先輩が揃っている。
しかし、2000年前後のRPG黄金時代とも言うべきゲーム市場において、任天堂にとっても貴重なRPGである事、ゲームボーイアドバンスのハード性能をいかんなく発揮したデモンストレーション的な要素を含んでいる事から、大きなアドバンテージを得て送り出されたタイトルと言っていい。
背景事情を抜きにしても、RPGとして十分に楽しめる内容は備えており、シナリオに関してはいっそあまり深くは考えず、ダンジョンの謎解きや戦闘を楽しむ事に頭のリソースを振ってしまった方が楽しめる作品だと思う。
Switchオンラインの追加パックで配信されているので、気になる方は遊んでみる事をおすすめする。初期GBAのような画面の暗さも、DSのような音割れもなく、移植度は完璧。テレビ画面に映すよりも、携帯機モードで遊んだ方が画面が見やすいと思う。
余談
総評でも少し触れたが、本作は当時の任天堂にとってかなりの意味合いを含んだタイトルだったのでは、と考えている。2001年のGBA発売当時、任天堂のRPGはどれもすぐに動けない状態にあった。
アクションRPGのゼルダの伝説は前年にGBカラーでふしぎの木の実(開発:カプコン)を発売した直後で、本家は据え置き機向けに動いていた。
ポケモンはゼルダ同様、前年にGBCでクリスタル版を発売した直後で、次世代にあたるルビー・サファイアは開発中。
シミュレーションRPGのファイアーエムブレムは基本的にハードの先発には出てこず、封印の剣は開発中であり、開発元のインテリジェントシステムズ的には、ゲームボーイウォーズアドバンス(2001年9月10日北米発売)が先発を担当する予定だった。
MOTHERはN64での3が開発が中止となったばかりで、何の目途も立っていなかった。
そういった意味では、GBA初年にタクティクスオウガ外伝(開発:クエスト)、マジカルバケーション(開発:ブラウニーブラウン)と共に黄金の太陽が揃い踏み出来たのは大きかったのではと思っている。その割に、これらのタイトルのその後が明るくなかったように感じられるのは……あまり考えない方がいいのかもしれない。