短編小説 「ベター・コール・ソウル」へ愛を込めて #2/2
「……」
「彼はもっと君に感謝しなきゃね、君は家の中で女王のようにいればいいんだ。ただそこにいればいいだけなんだ。」
「その女王からこんなに気にかけてもらうだけでも有難いと分からせないと。」
「そう、君は指示だけして、あとは働き蜂にやらせておけばいいんだよ」
「さあ、女王様、今日はこれから何をする?」
「…ハハ、まずは働き蜂をしつけないとね。そしたら、出かけて、ハニーパイでも召し上がってくださいませ、女王様。」
「働き蜂に電話を代わって」
「ハイ、ヨシ!…ああ、最近は観に行けていないんだよ、都合が合えば来シーズンの試合は一緒に行こう。」
「女王様はお休みが必要みたいなので、今日は何も言わず、お出かけさせてあげてくれ。」
「今日一日でいいから、君は働き蜂のふりをしておくんだ、そしたら明日の朝には元どおりさ。また君のことを王様の様に大切にしてくれるさ。」
「ああ、じゃあ頑張って!」
ヨゼアンは、この適当な仕事ぶりを批判したかったけど、
そしたら自分がまるで、真面目な働き蜂の様だと思い、心の中の批判の火を勢いよく消した。
ヨゼアンはソウルに明るく話しかけた
「やあ、君は随分と面白い仕事をしているね。」
ソウルはヨゼアンの顔をちらりと見ると、すぐに携帯に目を戻し、
「ああ、人気者なんだよ、意地を張り合う人たちからね。」
そう一言言うと、さっと立って行ってしまった。
あの話を全部聞かれていたと思えば、気まずいのはわかる。
でも、ベンチで大声で話していたのはそっちじゃないか。
ヨゼアンは、そっけない態度を取られたことが腹立たしく、いきなり静けさを破っておきながら、気まずくなったらすぐに立ち去るソウルに不公平だと思った。
。。自分もやはり、あの時すぐに立ち去って、良い気分のまま家へ戻ればよかったんだ。。
今聞いた話は、いつか誰かとの話のタネにして、笑い話にしよう。
自分が寝たフリをして盗み聞きしたことは伏せたままで。
川へ目を戻すと、影の位置が少し変わっていた。
予定外に長居してしまった。
今日の仕事を思い出し、早歩きで家へ戻り、仕事に取りかかると、いつの間にかヨゼアンの靄がかった心も晴れていた。
その後ヨゼアンは、無意識に、真面目さのボリュームのツマミを若干、不真面目の方へ回す様になった。
おわり
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ソウルは、自分の得になる人や、親しい人には積極的に関わるけれど、それ以外の人にはそっけないので、いきなり話しかけられた時に、やはり立ち去るだろうななどと、色々ソウルの事を想像しながら書くのは楽しかったです。
そんな薄情でペラペラ、倫理観が無く、八方美人な中年男性が主人公なのですが、この上なく極上のドラマです。本当すごいです。
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