辻村深月「噛み合わない会話と、ある過去について」読後感
過去、「根アカ」と呼ばれた分類で生きてきた人間は一読すべき内容。
友人関係も上手くいき、両親にもそこそこ恵まれ、教師や周りの大人にも気に入られてきた人生を歩んできた人間にはわからない感情があると、最近思う。
何故そんなに卑屈になるのか、何故そんなに保険をかけるのか、そういう人の気持ちは根本的に分からないなあと思うことがある。
本作は4つの短篇で構成されていて、そのどれもが、強者•弱者の関係性にあった者たちの過去と現在を描いていた。
自分には決してそんなつもりがなくても、受け取った本人にしか分からなかった気持ち。辛い思い。本作のように、弱者が当時の強者に対して、明示的に当時の感情を露わにするケースというのは現実にはほとんどないと思う。
でも多かれ少なかれ、こんな痛みを抱えて生きている人はいる。
そしてそれは、大人になって成功してもその傷が埋まることはない。「そんなこともあったね」と思いながらも、心に薄暗い過去として住み続けるわだかまりがきっとある。
人を傷付けている自覚のない人というのは、自分も含めて罪深い。
自分はどちらかと言えば傷付けてきた側だと思うので、とても他人事のようには読めない、肝の冷える一冊でした。