見出し画像

今日の本棚 : プリャーニクが食べたい。

この本を書店で見かけるようになったのは、今年の春先だったと思います。

折りしもロシアがあの意味不明な戦争を始めた時期で、タイミングが悪いなあ… と著者の沼野先生に同情しました。戦争が始まって以来、ロシアやロシアに関することは一種、タブーとなったような空気を感じていたからです。
せっかく面白い構成の本なのに、そのせいで手に取ることをためらってしまう人がいたらもったいない。

この本のなにが面白いといって、ロシアの文学作品に登場する様々なロシア料理を、ロシア風のフルコース仕立てで、前菜、スープ、メイン料理、サイドディッシュ、デザート、飲み物… と紹介している点。口絵の写真のおかげで、なじみのない外国料理がどんな見た目をしているのかもよくわかります。
また、引用されている小説も「エヴゲーニイ・オネーギン」「現代の英雄」といった古典の名著から、「ソーネチカ」のような現代の作品まで様々で、さすがロシア文学者にして翻訳者の沼野先生ならではの多彩ぶり。本職の先生に小説の意図を読み解いてもらいながら、料理の歴史を知ることもできるなんて、なかなか面白い試みではないでしょうか。

読んでいて驚いたのは、「アンナ・カレーニナ」に出てくるフレンスブルク産の牡蠣。
モスクワのレストランで、ドイツから運ばれてきた牡蠣を食べるというのです。
フレンスブルクはデンマークのあるユトランド半島のほぼ付け根あたり。そこからあの内陸のモスクワまでどうやって運ぶのでしょう… 今みたいに空輸できるわけでなし、バルト海をペテルブルクまで運んで川伝いにモスクワまで輸送するのでしょうか。それはそれは贅沢なことでしょう。

そしてもうひとつ、懐かしかったのがプリャーニクというお菓子のこと。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/プリャーニク

プリャーニクといえばモスクワの南にあるトゥーラの街が有名ですが、かれこれ30年前くらいに団体旅行で初めてロシアを訪れたとき、そのトゥーラで現地のツアーガイドさんが参加者ひとりひとりにプレゼントしてくれました。
B5サイズのノートくらいの大きさで、こんがり焦茶色をしていて、わりと重みがありました。
他の人たちはすぐに食べてしまったようでしたが、私は珍しい外国のお菓子を母にも食べさせてあげたいと思って、20日ちかい旅の間も手をつけることなく日本に持ち帰ったのでした。ちょっと固くてパサパサした食感だったように記憶していますが、それはすぐに食べなかったからかもしれませんね。(よくよく思い返すと、賞味期限…というか、消費期限は大丈夫だったのでしょうかね??)

それはともかく、この本を読み終わったときにはロシア料理を食べたくなること、そして本棚で積ん読になったままのロシアの小説を読みたくなること請け合いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?