泣いてる時に優しくされると好きになってしまう
いっぱいいっぱいの中、表面張力でぎりぎり保っていた心のコップがついにあふれて、涙がこぼれた。
一度あふれると止まらない。
職場で泣くなんて…と思うのに止められない。
慌てて席を立ち、口元にぎゅっと力を入れて走るようにトイレに向かった。落ち着け落ち着け…!と心の中で唱えながら廊下を急いだ。
うつむいて歩いていたから、前をよく見ていなかった。角でぉわっと声がして驚いて前を見たら、ぶつかる寸前の距離に同期の雨宮くんがいた。
泣いてるのがばれないようにとっさに目をそらし、ごめん、と言う私を見てえ、どうした?と彼が驚いた顔で言う。何か言わなきゃ、と思うのにとっさに声が出ない。また涙があふれそうになった。
雨宮くんがこっち、といって服の腕の裾を掴んだ。掴まれるがままについて行くと、そこは非常階段だった。ガチャッと扉を開けてたんたん、と登っていく後ろ姿に妙色々な感情がうずまく頭は何も考えられず、素直について行く。少し錆びついた階段を登ると小さな踊り場に出た。風がひんやりと気持ちよかった。
何があったの?と聞かれると思った。何から話そう、あんまり長くならないように…と焦っていると、ちょっと休憩しよ、と言って横に並んでぼーっと、空を見上げる雨宮くん。
うん…と答えながら暖かい涙がまたこぼれた。
ひとしきり泣くとやっと心が落ち着いた。
誰にも見られたくない、と思いながら廊下を急いでいたのに、本当は彼に見つけてほしかったようなそんな気がした。
あの、もう大丈夫、ごめんね。とやっと顔を見て答えると、ふっと笑って、柔らかい笑顔と共に うん、大丈夫そうだねと返ってきた。
何があったのか何も聞かず、ただ横にいてくれる優しさに心がほぐれた。