【#1】運命の出会いと、価値観を変えた夫の言葉
2社連続、たった1年で退職を決めるなんて情けない。と自分にがっくりしながらも、引継ぎの資料を作ったりお取引先に連絡をしていた頃。リクルートの新卒採用の担当営業のMちゃんにも連絡を入れた。Mちゃんは年齢も近くて話しやすくてかわいいのに中身はおっさんみたいな人で、好きな営業の一人だった。
「会社辞めることにしました。次決まってませーん。人生路頭に迷ってます。」
「えっ、そうなの!もしよかったら【コーチング】っていうの受けてみませんか?私いまその練習をしてるの。きっと役に立つと思う!」
「(コーチング???何それ?おいしいの?)はーい、やりまーす。」
とお返事して、休日に会ってその「コーチング」とやらを受けることにした。
コーチングっていう仕事が世の中にあるんだ。
2015年9月 私は渋谷のカフェでMちゃんの「コーチング」とやらを受けた。「自分の強み、やりたいこと、嬉しいことが何かをしりたい。」というテーマでお願いした。私の頭は仕事でへとへとのガッチガチで、目に見える成果しか信用できない!という感じだったので、ただ話を聴いてもらうだけで変化が起きるコーチングなんて怪しすぎるし「エビデンスあるんですか?」と(心の中で)思っていた。
ひとしきりMちゃんのコーチングを受け、まとめとして渡してくれた紙はこれだった。
「私、未来について一つも話してないんだなぁ・・・。」
そう思ったけど、今のネガティブな自分を直視するのがつらくて悔しくて、口には出せなかった。「好きなことで小さなチャレンジ」といわれても、今の自分の好きなこともわからないし、チャレンジする気力もなくて、せっかくMちゃんコーチが貼ってくれた付箋の言葉を受け取ることすらできなかった。
帰りの電車の中で、こうやって人の話を聴く仕事があるのか。仕入れがないから経費も少なそうだしいいなー。Mちゃんも営業だし、営業と人事やっていたから私にもできるかな?・・・そう思ったのも一瞬。あまりにも身体がボロボロすぎて、それ以上考えることはなかった。
人生の価値観を変えてくれた夫からのメッセージ
ほどなくして私は会社員生活を終えた。泥沼の中でもがいた3年弱、手元に残ったのはボロボロの心と身体だった。
「終わったんだ・・・。」
最初の2週間は全く起き上がることができず、ハローワークへ失業保険の申請に行く以外は毎日布団の中でただただ寝て過ごした。
1か月が過ぎたころ、ようやく布団の中から抜け出すことができるようになって、私は愕然とした。
「・・・やることが、なにもない。」
上京して8年間、仕事以外の趣味なんてなかった。寝てもさめても仕事漬けだったので、時間にぽっかり穴があいてしまった。当然仕事以外の好きなこともわからない。失業してお金も使いたくなかったので「暇」という謎のプレッシャーで押しつぶされそうだった。転職しようにも同じような失敗を繰り返すのがこわくって、いろんな企業のページを見ては閉じての繰り返しだった。
「もう私はだめです。だめなひとなんです。仕事ができないです。価値もありません。会社にも家庭でも貢献できない人は、いる意味もないと思う。自分に自信がない。」吐き出すようにして、長期の出張で家を空けている夫にメッセージを送った。しばらくして、普段は寡黙で、おっとりした夫から信じられないほど長文のメッセージが返ってきた。
私は雷に打たれたように立ちすくんで画面を見つめ、そして大泣きした。
それまで「何かをして結果を出していること」が人としての生きる価値だと思っていたし、自分もそうあるべきだと思って必死に生きてきた。だからきっと退職したら「次どうするの?仕事探しなよ。」と言われるものだと思っていたし、周りにはそう聞いてくる人ばかりだった。
けれど、夫は違った。
人間だもの、ダメなところも弱いところもある。その上で努力して幸せに向かって生きるのが大切なこと。何かしないと価値がない!なんて思うひとではなかった。
仕事してスキルアップして、肩書や年収をあげて会社や社会への貢献度を増やすことが「素晴らしい人間」と思っていた私の視野と、器の小ささを思い知った。これまでとは違った意味で自分が情けなくなって、その後とても反省した。
夫に「ただただ、ありのままの自分を受け止めてもらうこと」をしてもらったおかげで、その日から私の体調はぐんとよくなった。今は仕事をしていないけれど、私は生きててもいいんだ。と思えるようになった。さんぽや手付かずだった家の掃除や片付けもすることが出来た。ずっと気になっていたけれど、できなかったこと。をひとつひとつ片付けていると気持ちがスッキリしていくのを感じた。と同時に心の中では「このままでいいわけないよな…。」というもやもやが広がっていた。