愛の果て
愛されれば愛されるほど、
彼にはその価値観が薄れてゆくようだ。
愛されるのは当たり前のこと。
尽くせば尽くすほど、
彼にはその温かさがわからなくなるようだ。
温かいのは当たり前のこと。
与えれば与えるほど
彼はその愛に肥えてゆき
飽き足りることなく
貪り続けるばかりで
傍で痩せ細り
変わり果ててゆく彼女に
気づかない。
それどころか
歳を重ねシワの増えた手を
醜いと嘲笑い
今にも崩れ落ちそうな心を
抱きしめることもない。
彼はもう何日も
いつも傍にいる彼女の顔を
ちゃんと見つめて話していない。
彼の目はいつも
周りの誰かや自分が欲しいものばかり追っている。
彼女の名を呼ぶのは
欲しい物が見つからない時だけ。
お腹が空いて食事を求める時だけ。
自分の欲望を満たしたい時だけ。
そんな彼に
彼女は与え続ける。
それしか方法を知らないから。
彼女は尽くし続ける。
他に誰もいないから。
彼女は佇んで彼を見つめ続ける。
だって、
他にどうすればいいかわからないから。