涙鉛筆【2本目】
「鉛筆なら消しゴムで消せますね」
そう言われて、むしろ頑なになるばかりだった。
「綺麗になんて消えないの。だいたい跡が残るものなの」
何が出来るというのだろう。ひとの気も知らないで。
「そうですね。しわが寄ったり、黒ずんだり。力を入れ過ぎて、破いてしまう事も。でも」
消しゴムはわたしの細い腰を掴んで、乱暴に壁に押し付けた。
「でも、それは貴女の筆圧が、こんなに高いからだ。何があったんです?」
わたしは黙った。
消しゴムは、わたしの涙の跡に身体をこすりつける。
ゴーシゴシ。ゴーシゴシ。
ゆっくりとした腰使いに思わず目を逸らす。
ゴーシゴシ。
「さあ、貴女の番ですよ」
「え?」
「涙鉛筆の涙の訳を、話してごらん」
「でも……」
「でも?」
「これじゃ背が違いすぎるわ」
「横になってしまえば、関係ないですよ」
ふわりと抱いたまま、わたしを筆箱の中に横たわらせた。何を言っても、敵わないらしい。
「約束して欲しい。わたしより先にすり減らないで」
そんな事かと、消しゴムは笑顔を見せてわたしを抱き寄せた。
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