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タイムスリップコップ

「縦の棒はどこへ行ったの?」

と、母が笑った。僕が学校の体験学習で、小石原焼のコップに絵付けしたんだ。いつも夢中になっていた将棋の駒と、「王将」って書いたんだけど、まだ将の字はむつかしくて、間違えた。

でも、なかなか渋くていい感じに焼き上がったでしょ?

やがて僕に弟が生まれて、やっぱり小学校で小石原焼に行ったんだ。同じ様に、絵付体験をした。そうしたら、弟も将棋の駒を書いたんだ。そしてやっぱり「王将」って書いた。

「兄弟ね」

将の字には縦の棒がなかった。

「まるでこのコップだけ、タイムマシンに乗って戻って来たみたい」

僕は、仏壇のこちらから、母と弟を見ている。弟とお揃いになった小石原焼のコップで、ファンタを飲んで、弟が、僕の歳に追いついた事を祝った。

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