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男性向け性的メディアの歴史|ネット時代の性教育と人権

男性向け性的メディアの歴史

 性欲は人間の本能、ということで、性的メディアは古くから存在した。江戸時代には、男女の性交場面を誇張して描く浮世絵の「春画」や、女性と次々に関係を持つ男性を綴る井原西鶴の小説「好色一代男」が流行。
 だが、こうした「好色本」は、1700年代(江戸時代中期)の享保の改革で禁止対象となる。以降の時代も性的な写真や雑誌は出回ったが、当局の検閲の下、おおっぴらに見られるものではなかった。公に「ポルノ」が広まり始めたのは、出版が自由化された戦後のことである。

【1940年代後半】 

 戦時の抑圧への反動から、一気にエロ本の創刊が乱発。「カストリ雑誌」と呼ばれる、紙質が粗悪で安価な品だった。夫婦の性生活告白記事や官能小説が、扇情的な写真や挿絵と共に盛り込まれた。その中の1冊、『猟奇』という雑誌が載せた軍人の妻の不倫小説「H大佐婦人」は、「わいせつ」であるとして戦後初の発禁本となる。また、SMや同性愛を扱う我が国初の雑誌『奇譚クラブ』が、この時代に登場。 

【1950年代~60年代】 

 1958年に売春防止法が施行され、公認型の売春がなくなり、その代行的な役割を性風俗やメディアが担うようになった。1962年、初のピンク映画『肉体の市場』が封切られ、大ヒット。東京五輪の開催で戦後復興ムードが盛り上がる64年には、日本初の若い男性向け週刊誌『平凡パンチ』が創刊された。『週刊プレイボーイ』もこれに続き、両誌はヌードグラビアやセックス特集、性の悩み相談記事で人気を競い合った。当時の読者層は、いわゆる「団塊世代」の人々である。 
 1968年、漫画『ハレンチ学園』の連載が「少年ジャンプ」でスタート。過激な性描写を含み、作品を真似たスカートめくりが学校中で流行ったことから、PTA等から激しく非難される騒動を巻き起こした。

【1970年代】 

 日本人の性意識はどんどん開放的になっていく。1971年、日活ロマンポルノが登場。第1作は『団地妻 昼下がりの情事』。人気はうなぎ登りで、次々と新作が発表された。72年には慶応、明治など102大学(女子大含む)の大学祭が日活ロマンポルノ30本を上映し、話題に。生身の人間の性行為を、若者も映像で堪能する時代の幕開けである。
 読み物では、1971年に男性同性愛者向けの専門誌『薔薇族』、スワッピングの情報を載せた『全国交際新聞』が、いずれも日本で初めて刊行。異端の性嗜好が認知され始めた。72年には、「週刊漫画アクション」にて『同棲時代』が連載スタート。由美かおる主演で映画化され、若者の間で同棲がブームとなった。「セックス=結婚」だったそれまでの価値観を、「結婚前のセックスもアリ」へと大きく転換させた記念碑的作品。
 また74年、初めての本格的なセックス技術教本『HOW TO SEX』がベストセラーに。性交を実践的かつ科学的に解明しており、現代の性的マニュアル本のはしりである。当時の童貞諸君のバイブルとされた。

【1980年代】                  

 この時代の目玉は、なんといっても1980年のAV(アダルトビデオ)登場であろう。人目を気にしながら映画館に足を運ばずとも、自宅で手軽に映像版のポルノを鑑賞可能になったのだ。家庭用ビデオデッキの普及にも大いに貢献した。初期の名作として人気を博したのが『洗濯屋ケンちゃん』(81年)。主人公の男性が、友達の彼女をラブホテルにおびき出して性的暴行を加える場面が含まれている。「性暴力」の描写は、性欲を興奮させる「ネタ」として、30年も昔からAVに利用されていたのだ。84年には、美少女の過激な性行為をアニメで描く『くりいむレモン』が大ヒットし、「ロリコンアニメ」に萌える「オタク族」が出現した。
 テレビでも、『オールナイトフジ』や『トゥナイト』といった深夜の「お色気番組」が誕生し、性風俗店のレポートやAVの紹介を始めた。性情報が「オープン」なものとして面白おかしく語られ、子どもの目にも簡単に触れるようになったのである。
 80年代後半は「バブル経済」の時代。恋愛も資本主義に組み込まれ、「いかにお金をかけるか」が女性を落とすための重要なポイントになった。『POPEYE』や『Hot-Dog Press』などの若者向け情報誌はたびたび「恋愛マニュアル」を特集。女性にモテるための服装、髪型、会話術などを指南した。クリスマスイブには男性がロマンチックなレストランを予約し女性に高価なアクセサリーをプレゼント、シメはシティホテルのスイートで、というスタイルが流行に。
 また、「ナンパ」に関するマニュアルも登場し、単にセックスを目的とした出会いを求める行為が、市民権を得始めた。この時期に思春期を送ったのが、現在40代後半の「団塊ジュニア」である。
 一方、新たなメディアの台頭を受け、1988年に『平凡パンチ』は休刊。同年、日活ロマンポルノも製作を終了した。

【1990年代~現在】

 95年にWindows95が発売され、99年にインターネット接続が可能な携帯電話が登場。この「IT革命」は、若者の性的メディア環境を劇的に変えた。AV鑑賞の際は家族の目を盗んでコソコソしていたが、ノートパソコンや携帯を使えば、自室で心ゆくまでエロ動画を見られる。しかもサンプルなら無料だ。18歳以下であっても関係ない。子どもがポルノに接する垣根は、一気に取り払われてしまったのだ。
 性の悩み相談やテクニックのマニュアル指南といった、これまで雑誌が担っていた役割も、ネットに取って代わった。子どもの性の電話相談を受け持つある相談員は、「ネットが普及してから、相談件数が劇的に減った」と語る。
 パソコン用のゲームも相次ぎ登場し、アニメで描かれた美少女と性行為をする「アダルトゲーム」が人気を集めるようになった。少女たちを痛めつけ、性的に暴行するような「凌辱系」と呼ばれるジャンルもある。
 AV産業は成長を続け、2009年の市場規模は1千億円を超えた。全ジャンルのビデオ売上高の約3割を占める巨大勢力である。AV制作会社は千社以上あり、2008年には約1万7千タイトルが生み出されている。
 2010年、立体的な画像が楽しめる「3D」に対応した映画や液晶テレビが新たに発表され、話題をさらった。早速、初の3D用AV『立体映像で魅せる極上BODYセックス』が発売に。臨場感溢れる性交を体感出来ると注目された。家庭用ビデオデッキと同様、アダルトコンテンツが、3D対応テレビ普及の起爆剤となる可能性を秘めるとも期待されたが、2017年で対応機種の生産は終わっている。3Dテレビを見るには専用眼鏡をかける必要があるので、鑑賞中に家族が近づいてくる気配を敏感に察知出来ない不便さが一因ではあるまいか。

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 以上、見てきたように、メディアは何十年も前から男性たちに大量の性情報を発信してきた。問題は、こうした情報のほとんどが、オトコ目線からの偏った内容であり続けた点である。本コラムで詳しく読み解いていこう。

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渡辺真由子 公式note【ネット時代の性教育と人権~メディアの性情報が与える影響と対策~】
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