バランスは着地面の状態で変化する
1. バランス力と年齢、着地面との関係
若い頃と比べ、加齢とともに筋力が低下しますが、それ以上に加齢により低下してしまうのが、バランス力です。バランスを司るのは「視覚器」「体性感覚器」「筋紡錘感覚器」の3つの感覚器です。その感覚器が人間の重心のズレを感知し、補正しようと運動神経を介して筋肉に伝え、多くの筋肉でバランスを保っています。この能力は40歳を過ぎると急速に低下し、60歳になると20歳のときの30%くらいにまで低下してしまうと言われています。また、加齢とともに視覚でしかバランスをとらなくなるため、その他の感覚が衰え、バランス力が低下してしまう原因の一つです。(筋力やバランス力の低下グラフは以下のnoteをご覧ください)
バランス力の低下は登山において、とても危険なことです。登山は傾斜面や不整地を歩きます。荷物も背負っていて、時には稜線で強い風が吹いている場合もあります。登山では、日頃の運動よりも重心のズレが大きくなり、重心を修正する能力をより必要とされるのです。そのため、どんな場面においても、しっかりとバランスをとりながら歩くことが重要なのです。図1は登山を想定して、上り坂や下り坂でどのくらいバランスが崩れるか、を表した図です。これを見ると、基準となる平地よりも登山中ではバランスが崩れやすいことがわかるかと思います。
ここでは、バランス力を司る器官を鍛えるために必要な「重心」をしっかりとらえる方法、そしてバランス力を保ちながら「体重移動」を行う方法の2点に注目し、筋力低下を防ぎながらバランス力の低下を防ぐ、効果的なトレーニングを紹介します。加齢とともに急速に低下するバランス力ですが、トレーニングを行なうと大きく向上させることも可能です。
2. バランス力トレーニング
①片脚立ち
バランス力をトレーニングする際に、「重心」をしっかりとらえる方法で、最も身近なのが片脚立ち(図2)です。登山においては、登山靴で足首までしっかり守られていますが、トレーニングする際には裸足で行うと良いでしょう。
まず手を腰にあて、左右どちらかの脚を地面から離します。離した脚は高く挙げなくてもいいですが、軸脚に触れないように注意しましょう。はじめは、目を開けたまま120秒間を目標に行います。120秒もすると日頃意識していない脚の裏の筋肉や脛の筋肉を使っていることが確認出来るでしょう。そして左右両方の脚で数回行うと得意な方がわかってきます。得意な脚は重心の真上に乗り易く、補正するための筋力もしっかりしている脚です。不得意な脚は、重心に乗ることに慣れていないだけでなく、筋力も弱い脚ということになります。不得意な脚を多くトレーニングするといいでしょう。
目を開け状態で120秒間できるようになったら、次のステップとして、「重心」をわざとずらして行なってみましょう。登山をシミュレーションして、日帰り山行程度のザックを背負ったり、クッションを敷いて不整地のようにして、重心をずらされる状態で片脚立ちを行うといいです。
さらなるレベルアップには、目を閉じて行います。普段、人は「視覚器」に頼っている部分が多いので、目を閉じるととたんにバランスを崩してしまいます。ぐらついた際に怪我をしないように、周囲に危険なものがないかを確認してから行いましょう。
②ゆっくりウォーキング、ゆっくり登山
バランス力を保ちながら「体重移動」を行う方法として、踏み台昇降運動の次のステップがゆっくりウォーキング、ゆっくり登山です。ウォーキングや登山を行う際、多くの方はコースタイムを目標にするでしょう。しかし、バランス力をトレーニングするには普段歩いている速度よりもゆっくり歩くことがお勧めです。例えば自転車漕ぎを思い出してください。早く漕ぐよりも、ゆっくり漕いだ方がバランスをとりづらいと思います。歩くことも自転車漕ぎと同じことが言えます。速いペースで歩いて体力トレーニングを行うことも大事ですが、時にはゆっくり歩いてバランス力を鍛えることも必要です。
③トレッドミルゆっくりウォーキング
バランス力を総合的にトレーニングする方法としてトレッドミルゆっくりウォーキングを紹介します(図3)。トレッドミルとは、スポーツジムにあるベルトコンベアのようなウォーキング・ランニングマシンのこと。はじめは傾斜を3%くらいの緩めにして、最初はバーを握りながら、次第に手を離して時速1.2km以下で歩いてみよう。自分で意図しない重心移動の変化に即座に対応出来なければ手を離して歩くことはできません。時速4kmくらいにした方が歩き易いかもしれませんが、バランス力トレーニングなので敢えてゆっくり行いましょう。また、手を離すことができたとしても、よちよち歩きのような歩き方になってしまう人もいます。踏み出した脚に体重をしっかり乗せてマシンの動きに合わせて体重移動ができれば、普通と同じような山歩きのゆっくりとしたペースで歩くことができます。慣れて来たら時速は速くせず、傾斜をきつくしたり、ザックを背負ったりしてみよう。
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