あざのあと
したい。したい。したい。
痛い。痛い。痛い。
気持ちいい。気持ちいい。気持ちいい。
痛い。痛い。痛い。
おかしい。おかしい。おかしい?
しばらくして、夏のうだるような暑さから開放され、木枯らしがふく季節になった。
少し薄着だと肌寒い。けど、それが妙に心地よくて、このまま風邪でもひいてしまおうかとそんなことを考えてたところに、笑顔がよく似合う1人の少女が。
『そんな格好で寒くないの?』
今日は第2日曜日。
けいちゃんと映画を見る約束をして、待ち合わせをしていた。
その待ち合わせ場所にいる。
時間に五月蝿い私は、いつも待ち合わせ時間より十分早く着くようにしている。
相手が来るまでの十分間で、いろいろな事を考えられる。
今日は空が青いなあとか。
今日は風が強いなあとか。
今日は人が多いなあとか。
いろいろな事を考える。
けいちゃんは時間にルーズな方ではないけれど、時間に間に合わないことがたまにある。
大体、化粧に時間がかかったとかそんな感じなんだけど…
目の前に笑顔で立ってるけいちゃんは、とても私と同じ中学生には見えない。
白のブラウスに赤っぽい茶色のカーディガンを羽織って、膝丈まであるスカートを穿いている。
実にかわいい。
私が男だったら必ず好きなるだろう。
ふと、私の服装に目を落とす。
シンプルなジーパンに首元がガラリと空いた長袖シャツ。
ホントはもっとお洒落な格好をしたいが、今の私の状況ではそんなことさらさら無理だとわかっているので、あえて目を背ける。
『さ、行こっ!』
不意にけいちゃんが私の手を引く。
けいちゃんの手は少し冷たかった。
『面白かったね!』
映画を見終わり、カフェで満足そうに笑顔でカフェオレを啜るけいちゃんは本当に幸せそうだった。
映画の内容はというと、今人気の俳優と女優がでて、今人気の漫画を実写化した恋愛映画だった。
私はこういう恋愛ものは少し苦手であったが、けいちゃんが前から見たいと言ってたので、渋々付き合う事になった。
だって、あんな美男美女、普通、学校にいるはずないもん。
いたとしても、私なんかじゃ…。と卑屈になってしまうから、苦手。
そんな私に比べてけいちゃんは本当に映画の中の2人に憧れているようだった。
『あのね。』
けいちゃんが長々と啜っていたカフェオレから口を離した。
『私、もう一緒に帰ったり出来なくなるの。』
"何?"
『彼氏が出来たの。だからこれから彼氏と一緒に帰ると思うから…』
そう言ってまたカフェオレを啜る。
頬は赤く染まっている。
突然の告白に思考が止まる。
"そ、そうなんだ。良かったね。おめでとう。"
心にもない言葉がズラズラと私の口から吐き出てくる。
『で、でも!朝は一緒に登校出来るから!』
そう言って笑顔で私を見る。
笑顔が可愛い。
それから彼氏と付き合った経緯とか、どういう人とかの話を嬉しそうに語る彼女を見て、羨ましいな。と思ってしまった。
そうして、また、寂しいとも思ってしまった。
本当は一番に喜んであげなければならないのに。
この季節になると日が落ちるのが早くなる。
暗くなる前にと、その日は早めに彼女と別れた。
本当はこの後母の病院に行こうと思っていたが、そのまま帰ることにした。
帰り道、これからどうすればいいのか考えた。
クラスでも彼女は彼氏と一緒にいるだろう。そうなると、私は一人になる。
背すじがひやりと冷たい。
この木枯らしのせいか。
そう思うのが精一杯だった。
明日、彼女に会うのが怖い。
私は笑っていられるだろうか。