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あざのあと

2度目の生理の時の生理痛はとてつもなく辛いものだった。
痛みで授業には集中できず、額に脂汗がにじみ、背中は冷や汗で制服のシャツがぐっしょりと濡れて重かった。

机に突っ伏してじっと痛みに耐えていると、親友が声をかけてくれた。

金守 景子(かなもり けいこ)
通称:けいちゃん

光が指すとキラキラと光る肩までのボブに、細身の体型。
笑うと目が細くなってそれがまた可愛らしい。
部活には入っていなかったけれど、私と違って友達は多かった。

"けいちゃん"
と私が顔をあげると、よほど酷い顔をしていたのだろう。けいちゃんは丸い目をさらに丸くして、私の隣に座り込んだ。

『めっちゃ顔白いよ。大丈夫?』

心配してくれているけいちゃんの言葉に暖かいものを感じた。

"生理痛がひどくて…"
と呟いて、しまった。と思った。

けいちゃんはその言葉を聞くと、持っていたポーチを開け、可愛らしい袋に入っていた鎮痛剤を差し出した。

『これ!効くから!』
と、けいちゃんが差し出した手の平の2粒の錠剤が、私の思いと反して、自分の役割を果たそうと輝いていた。

どうしようかと困っている私を見て、けいちゃんが"遠慮しないで。困った時はお互い様だよ。"と微笑んでいる。

細くなった目が可愛らしい。
まごまごと口を開き、呟いた。

"あ…えっと、あ、ありがとう。でもね、けいちゃん…"

伏し目がちに私は続ける。

"その…私、大丈夫だから。生理痛が好きっていうか…"

『は?』

けいちゃんの顔から笑顔が徐々に消えていく。

"痛みが…"

と呟いたとき、不意に父が生前、私と別れる前に私に言った言葉が聞こえた。

『お前は俺の子。お前は俺と同じように孤独に生き、孤独に死んでいくんだよ。』

我に返ったとき、けいちゃんは私を親友としてではなく、ただのクラスメイト、自分とは違うものとして、私を見ていた。
冷ややかな目が私を舐めるように見つめている。

背筋がぞくりとする。

生理痛なんてもう感じなくなっていた。
その時私を支配していたのは«恐怖»

この感じ。
心に冷たい鉛を落とされたような、全身が一気に収縮した感じ。

覚えている。

親戚が私を軽蔑したあの感じ。

父が私を見捨てたあの感じ。

人が私から離れていくあの感じ。


私は孤独?


気づけば勝手に言葉が口から出ていた。

ごめん、嘘だよ。冗談だよ。本当は痛くて死にそうなんだ。ありがとう。

すがるような言葉が次から次へと。

そんな言葉を聞いてけいちゃんは微笑み、

『なんだぁ。びっくりしちゃった。』

といつもの微笑みを浮かべ、私に親友としての目を向けていた。
細くなった目が可愛らしい。

『生理痛が好きだなんてさ。おかしいじゃん?誰でもびっくりするよ。』

"おかしいじゃん?"

私の頭の中で反響する。
初めてこれがおかしいことに気づいた。
おかしいことをすると、人は私から離れていく。
だからこのことは私だけの秘密にしなければならない。

次の授業のチャイムが鳴る。

『ちゃんと飲むんだよ』
と言って私の手に錠剤を握らせ、けいちゃんは自分の席へと帰っていく。

けいちゃんの細い背中。
私が頼るにはあまりにも細く、頼りない。
去っていったけいちゃんのそんな背中を見つめる。

私は前を向き、プチ、プチと、錠剤を1つずつ手に出して口に放り込む。
水なしに飲むには大きすぎる2粒の錠剤を無理やり飲む込んだ。
喉を引っかきながら錠剤は胃へと流れていく。

そのもどかしい痛みを最後に味わっていた。






それから私は痛いことが大嫌いになった。

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