あざのあと
ああ。そこ。そこがいい。
気持ちいい。
もっと奥。そう。そこ。
そこをもっと強く、激しく。
もっと。もっと。
壊してしまうぐらい。
強く。強く。強く。
殴って。
金守 景子。
それが私の名前。
中学生時代、みんなからはけいちゃんと呼ばれていた。
小、中と友達は多い方だった。
誰にも特定の1人とされないように、親友と思われないようにしてきた。
距離が近すぎたら線引きをして、遠くなったらまた笑顔を見せる。
その繰り返し。
そうやって、今まで生きてきた。
誰も信じないように。
誰も心に入れないように。
私は生まれてから愛情というものを知らない。
私が生まれて早くに、母が亡くなり、男で1人育ててくれた父は現在刑務所。
母が亡くなったことが相当ショックだったのだろう。
母が死んだのを私のせいにした。
そして、代わりに私を母にしようとした。
私が小学生5年生の時だった。
父は帰ってくると早々に、私をベッドへ投げ捨て、自らの体を重ねた。
私のまだ毛も生え揃えていないところに、大人の男のものが入れられると、そこからは赤くドロドロとした憎悪が流れ出した。
もうどこが痛いのかわからなかった。
あそこなのか、心なのか。
父は行為を終えると、私を抱きしめながら、何度も母の名前を呼んだ。
私が父の頭を撫でると、父は泣きじゃくりながらまた母の名前を呼んだ。
それから父は、仕事でストレスが溜まる事に私を抱いた。
父は私の名前をもう忘れていた。
私も自分の名前を忘れていた。
そして私は中学生になる時に父を通報した。
翌日、父親は2人の警官に連れられてもう2度と会わなかった。
中学に上がり、初めて『彼氏』というものを作った。
未だに好きという感情が何か分からなかったけれど、この人といると心が満たされるような感じがした。
クリスマス、彼と一緒に過ごした。
彼が家に来てというので、行った。
この匂いは前から知っていた。
男が私を抱く前の匂い。
だから、きっと私はこの男に抱かれるんだと思った。
けれど…
彼は、私の頬を男の力で殴りつけた。
最初は何が起こったのか理解出来なかった。
呆然としていた私に、畳み掛けるように2発目、3発目と拳が容赦なく私の体に当てられていく。
殴られる度、その部位がじーんと暖かくなっていくのが分かった。
そして、5発目の時に絶頂達してしまった。
初めてだった。
その痛みからは確かに愛情が受け取れた。
私が本当に望んだ痛みだった。
殴られたところが内出血して、青くあざになっていく。
『綺麗…』
彼がそう言うのと同時に、私の口からはっきりとした言葉がこぼれ出す。
『愛してる…』
それから彼は私に重なり、私の首を締めながら、私の中で達した。
身体に残されたのは、あざのあと。
このあざのあとこそが私と彼を繋ぐ、たった1本の頼りない糸。