Chapter 3 日本のファッションと繊維の循環の先端事例 〜テクノロジー編〜

この記事は日欧産業協力センターに提出した英語版レポートを筆者の独断で日本語訳したものをご紹介しています。メインはこちら

3.5 エコシステムに必要な新規テクノロジー

3.5.1 スタートアップ、ベンチャー企業の動きとテクノロジー

サーキュラーリティな社会にむけて大きなビジネス転換を作り出すためには変化をもたらす可能性のあるスタートアップ企業と提携することが重要です。ここではサーキュラーファッションにむけた先進技術を開発するスタートアップ、ベンチャー企業の紹介をします。リストには開発の初期段階にある企業や、すでに多額の資金を調達している大手企業も含まれています。

政府や自治体はこういった技術をもつ企業への投資が必要であり、既存ビジネスを営む企業たちを含めて大きなエコシステムを日本に形成していく必要があります。なお、本リストは筆者の独断と偏見で選定しています。なお、アパレルの在庫廃棄をリサイクル、リユースに回すシステムはサーキュラーリティの本質とは逸れるため除外しています。

 

<フレーム>

.    Design&Procurement:より持続可能な方法での調達、責任ある透明性の高いサプライチェーン設計
.    Materials:耐久性があり、資源消費量の少ない素材の開発
.    Manufacturing:循環型素材や廃棄物を原材料として使用、廃棄物の発生を抑えるためのスマートな運用、製品の排出量の追跡
.    Retail:店舗や運送時の循環型資材の使用、店舗在庫やロットサイズの最適化、RFID等識別テクノロジーを使った衣料品の追跡
.    Transparency:製品の排出量、環境負荷の追跡
.    Cloth Rental:衣服のレンタルの新ビジネスモデル、
.    Second-Hand Platform:リ・コマース・レンタル、リペアなどの新ビジネスモデル、廃棄物有効利用・セカンドライフビジネスモデル:リサイクル技術の向上:効率的な需給マッチング
.    Recycling::効率的なリサイクルのための需要と供給のマッチング、リサイクル技術の向上

PICTURE 37:Circular Fashion Ventures in Japan


【企業事例】

a. シタテル株式会社 受注生産販売型の調達支援プラットフォーマー

デザイナーやブランド、企業、EC事業者などの登録者と工場・サプライヤーとをクラウド上で結び、受注・生産・販売をワンストップで行うことで「在庫ゼロ」の衣服販売の仕組みを提供するソーシングサービスを運営する会社です。特定の企業やデザイナーだけでなくあらゆる人がものづくりを行うことを可能にしています。受注・生産・配送が一体となったECパッケージサービス、アパレル事業者の生産・販売・配送までの情報管理、各サプライヤーとのコミュニケーションを、デジタル化支援サービスを主な事業としています。現在国内を中心とした約1,600社の縫製工場・生地メーカー等と連携、約22,700社のブランドや企業が登録しています。(2022年3月時点)2021年2月にJAXAプロジェクトで無縫製の宇宙服を企画・開発し、国際宇宙ステーション(ISS)で着用する生活用品として採用されました。[1]

b. Spiber:人工合成されたバイオ素材の開発

構造タンパク質を人工合成してできるタンパク質素材「Brewed Protein」の量産化技術を確立した大学発ベンチャーです。植物資源を微生物発酵して作られた構造タンパク質を主原料とするため、石油由来の枯渇資源を用いることがなく、生産プロセスの過程でかかるエネルギーもすくない素材として注目されています。
近年はサトウキビを絞って作った砂糖やトウモロコシのでんぷんなどの「食料」の代替品ではなく、サトウキビの搾りかす(バガス)やトウモロコシの茎や葉といった農業残渣や廃棄衣類のセルロースを資源として活用する研究も量産化に向けて進捗しています。また。古着を糖に分解して資源にする研究もされています。これは、混合素材からの糖化技術が確立されておらず、かつ、染料等の化学物質の影響があるため、更なる開発が必要です。
様々な微生物の発酵・培養でタンパク質の遺伝子配列を“デザイン”した製品を提供できるため、副資材を含めたアパレル製品すべてをブリュードプロテインにかえリサイクルのしやくすることにも繋がります。2023年1月にタイの量産拠点の工場が稼働開始し、従来の国内のみに比べて数百倍まで増え量産体制が確保されました。拠点の電力供給は、現在は石炭火力ですが再生可能エネルギーでのグリーンインフラを進めています。加えて米国の穀物プロセッサー大手Archer Daniels Midland Company(ADM)と提携して米国量産拠点を構築中で2023年中の稼働予定です。

 

d.  synflux株式会社:裁断時の廃棄を極小化するためのデザインシステムの開発[2]

ファッションデザインのためのソフトウェア開発、循環型衣服設計・製造支援、バーチャルファッションのプラットフォーム事業を行う大学発ベンチャー。機械学習や3Dシミュレーション、アルゴリズミックデザインを活用し、着物の直線裁ちに着想を得て衣服生産時に排出される素材の廃棄を極小化するためのデザインシステム「Algorithmic Couture]の開発・事業化を行っています。ブランドや研究機関とプロジェクトや実証実験を展開しており、2022年11月には、株式会社ゴールドウインとの共同プロジェクト「SYN-GRID(シン・グリッド)[3]」をスタートしました。H&Mファウンデーション主催のグローバル・チェンジ・アワードの特別賞受賞。


e.  CFCL 3Dコンピューター・ニッティング×ホールガーメントで廃棄を抑えるデザイン

アパレルメーカーの高級ファッションブランドです。一枚の布から服を作り出す世界的に有名なISSEI MIYAKEのデザイナーから独立し、2021年に創業。3Dコンピューター・ニッティングの技術を使い、コレクションの6割を島精機製作所のホールガーメント機械で制作することで縫製工程がなく廃棄が出ない製品です。全製品にHP上でCO2排出量を明示し、消費者にむけて情報発信を行なっています。
最新のコレクションでは、Global Recycled Standard認証(GRS)のペットボトル由来の再生糸(Recycled Polyester)を約73%使用するなど素材にも意識的に取り組んでいます。そして、2030年までに再生素材、認証取得素材の使用率を100パーセントにする目標を掲げています。2022年7月、日本のアパレルブランドで初めて環境に配慮した公益性の高い企業に対する国際的な認証制度BCorporationを取得。

 

f.  SUSTENA TECH株式会社:水を使わない染色技術の開発[4]

水を使わず、二酸化炭素(CO2)を利用して染色を行う超臨界染色加工技術の開発、実用化を目指す福井大学発のベンチャー。『超臨界染色』は圧力容器のなかで、二酸化炭素を高温、高圧にして、繊維を染色する技術です。最大の特徴は大量の水を使用しないため、廃液が出ず環境負荷を低減させることができることです。また水を使う工程が削減された分、工程が減りエネルギー使用量を大幅に削減できます。また、使用するCO2は回収・再利用を行うことで、排出量を実質ゼロ近くまで削減させます。2022年6月にはNEDOの採択をうけ京都工芸繊維大学と福井工業技術センター、および繊維業界企業10社が参加し、実用化にむけたプロジェクトが推進しています。国内外の染色産業の環境負荷低減にむけて大きな貢献となります。そのほか『電子線照射技術』は薬剤使用量の低減しながらも耐久性の高い製品の製造が可能となります。


g.  hap株式会社:光触媒技術を応用した多機能性付加素材の開発

環境配慮多機能性素材・洋服「COVEROSS®(カバロス)」シリーズの開発、およびブランド事業やアパレルOEM/ODM等の展開を行う。「COVEROSS®(カバロス)」は特殊な光触媒技術を応用し、快適性やデザイン性を損ねずに「抗菌防臭」「抗ウイルス」「撥水」などの機能を合成繊維/天然繊維に付与できる世界初の技術です。信州大学繊維学部と複数の産学共同研究を進めています。
大手ファッションブランドと、回収・再資源化事業を行うJEPANの3社で、ケミカルリサイクルされた素材(30%)をつかい、カバロスを付与したサーキュラーファッション製品ブランドを立ち上げています。
日本市場のみならず、フィンランドのtelaketjuというサーキュラーエコノミーを推進する環境団体に加盟し、2019年にヘルシンキに開発・販売拠点をオープンしました。そのほかフィンランドの研究機関でセルロース関連の研究開発を行う「FinCERRES」、合成生物学を研究する「Synbio Power HOUSE」とも共同連携しています。

h.     FULL KAITEN株式会社:小売企業向けの在庫管理システム開発[5]

小売企業の在庫問題を解決するクラウドサービスの開発を行う。クラウドに蓄積されるデータに基づき、AIで自動的に売れ筋や在庫状況を分析し、ECやリアル店舗の過剰在庫削減、仕入れ最適化、粗利増加のための施策を提案します。現在は中小小売企業向けの在庫分析を行っていますが、中長期的には商社や卸へ展開し、企業や国を横断したサプライチェーン全体の流通量の適正化プラットフォーム構築を目指しています。

 

i.   Updater株式会社:再生可能エネルギー電力事業者による環境負荷の見える化

国内最大規模の再生可能エネルギーの電力事業者「みんな電力」の運営企業です。ブロックチェーンを活用した「電気の生産者の見える化」に取り組み始めています。2021年電力領域で培ったブロックチェーン技術を応用し、製品の生産過程における生産者とのお金の取引を見える化する事業を開始しました。2022年、カシミア山羊の原毛採取からオンライン販売に至るまでのすべての工程における原価を開示し、購入者に商品の原価構成がみえる製品を開発・販売しました。原料の証明や工場の生産証明、また不具合の分析、なによりも、1003社への適切な利益分配できる仕組みづくりを目指しています。

j.   株式会社ECOMMIT データの見える化で回収システムをインフラ化[6]

全国対応型の回収物流ネットワークと、選別仕分けノウハウおよび販売ネットワークをもち、回収・選別・再流通の工程を一括で担う効率的なインフラ構築を行う企業です。全国7箇所に循環センターを持ち30以上の自治体と連携し、全国約3,000箇所にのぼる回収拠点を管理しています。

デジタル技術を使い、自社の回収、分別工程を可視化したトレーサビリティーシステムをもち、回収した衣類のリユース割合、リサイクル割合、店舗単位、重量ベースで把握し、最終的な行き場までの追跡状況を管理画面で閲覧できる仕組みを提供しています。最終的な二酸化炭素排出量の削減効果も目にみえるようになります。

2022年3月に伊藤忠商事株式会社と業務提携し、繊維製品の回収サービス「Wear to Fashion[7]」を開始しました。繊維製品を企業や自治体から回収・選別した製品を、再利用・再資源化するサービスです。リサイクル可能なポリエステル製品は、伊藤忠商事が提供する、使用済みの衣類や生産工程で発生する生地片などを原材料とするリサイクルポリエステル素材レニュー(RENU)の原材料として活用します。あらゆる場所に回収ボックスを置き、買い物や通勤・通学のついでなどに気軽に衣類を持ち込めるインフラ構築を目指しています。薩摩川内市、佐賀市、さいたま市、亀岡市など自治体との連携も積極的に行い2022年12月時点で約3千店近くの回収ボックスが配置されており、1万店への拡大を目指します。今後は自社回収、仕分けのノウハウを活用して東南アジアへの進出を検討しており、製造工場の近くで回収・再資源化するインフラモデルの構築を目指しています。

k.   株式会社JEMS ブロックチェーンを活用してサプライチェーンのCO2排出量可視化

廃棄物管理に関わるITソリューションを提供する会社。トレーサビリティー・システムCircular Navi の開発を行う。2022年9月1日から回収・再生をおこなう循環プラットフォーム株式会社BPLabと提携して、繊維製品対応のトレーサビリティサービス提供を開始しました。Circular Naviは、ブロックチェーンを活用してサプライチェーンにおけるCO2排出量を可視化、製品情報に関わる情報開示や企業間のコミュニケーションを円滑にします。

 

l.  株式会社エアークローゼット:ファッションレンタルサービスの提供とプラットフォーム化[8]

日本最大級の女性向けの洋服レンタルサービスを提供。2015年2月にサービスを開始。売上高33.9億円(17.4%増)。2022年7月上場 会員数:20万人(2022年2月) 月額料金:税込7480円〜。20代〜40代の働く女性をターゲットに、月額料金でプランに応じ毎月3~5着の服が届き、洗濯をせずに返送するサービスです。2020年にユーザーが不要になった服をうけとり、修繕やクリーニングをして、レンタルに回すShareClosetも開始しました。廃棄はJEPLANとの協業でリサイクルにまわします。2022年に蓄積したデータを活用した自社開発の「AIパーソナライズショップ機能」を追加するなど事業拡大させています。

 

RFIDタグによる自社物流システムの最適化とその先のプラットフォーム化

同社は、既存の物流システムではシェアリングサービスの実現が難しいと考え、クリーニング以外の倉庫管理を自社で行っています。しかし、2019年にはRFIDの技術が進み、企業の取り扱い点数が増えたことから、投資を決めRFIDタグの導入に踏み切りました。それにより作業負荷や物流オペレーションコストを12%削減に成功。服の新規入荷時にタグを取り付けて初期データ登録を行うだけで、その後の目視確認や袋やタグの付け外しなどの人的作業負荷が不要になっています。今後は、これをプラットフォーム化して横展開を目指しています。

n.     株式会社ステイト・オブ・マインド:リメイク、リペアの職人とのオンラインマッチングサービス

プロの職人に縫製を依頼することできるクラウドソーシングサービス「nutte(ヌッテ)」を運営する企業。商品として販売したい洋服の縫製はもちろん、雑貨類、リメイクなど、発注者が約1000人の登録縫製職人に縫製を依頼することができます。【and colors】は、お洋服の「染め直し」オンライン、もしくは店舗で依頼できるサービスです。思い出のある洋服を「また着たい」という想いに「染め直し」することができます。

o.     JEPLAN 高度なケミカルリサイクル技術でサプライチェーンを包括して循環を実現[9]

JEPLAN(旧:日本環境設計) 高度な独自のPETケミカルリサイクル技術で資源循環を実現。2007 年創業。あらゆるものを循環させる」をビジョンに、PETケミカルリサイクル技術関連事業(対象:PET ボトル・ポリエステル)、衣類回収から服にまで何度も循環させる BRING の運営、その他企業と連携したあらゆるものを循環させるプロジェクトの企画・運営を行っています。PETを 分子レベルまで分解して不純物を除去して再生樹脂にする技術「BRING Technology™」をもち、服から服、ペットボトルからペットボトルへの「水平リサイク ル」に取り組んでいます 。「服から服をつくる」BRINGは、様々な企業と提携して消費者から不要な服を回収し、参加ブランド数は197(2023年4月17日時点)にのぼり、回収量は年間 約1,000 トンに上ります(2022年)。回収した服は自社工場で素材ごとに仕分けられ、状態の良い商 品はリユースへ、またポリエステル単一素材 は自社工場で再生樹脂「BRING Material™」にリサイクルし、その他の素材は自動車内装材など、素材に応じて再生利用しています。また「BRING Material™」を使用した自社製品も製造し、販売しています。今後の課題はケミカルリサイクル技術の発展と世界展開です。 2020 年 9 月にはフランスの研究機関 IFP Energies nouvelles (IFPEN - www.ifpen.fr)、フランスのプロセスライセンスや触媒に強みを持つ Axens (www.axens.net/) と事業提携を結び、PET素材のリ サイクル技術の開発と世界展開を進めています。

p.    株式会社リファインバースグループ[10] 

2003年設立のケミカルリサイクルの技術で回収、リサイクルを行う企業。ナイロン製エアバッグから異物を高度に分離・除去し、高品質なナイロン樹脂としてマテリアルリサイクルする量産技術も独自開発しています。

東レと協業して、回収したナイロン製廃漁網やエアバッグの工程端材から再生ナイロンペレットを製造し、自動車部品・建材部品・繊維製品等の原料化を行っています。これは、新品ナイロンと比較し、 CO2排出量を約82%削減効果があります。

豊田通商に技術提供して、2023年4月よりベトナムのエアバッグ製造工場にてリサイクル事業を開始する予定です。また、現地のトヨタグループ各社とも連携し、素材の回収および再生原料の用途開発を行い、自動車産業における繊維領域のサーキュラーエコノミー実現を目指します。技術開発が進めば、CO2排出を約8割削減する低炭素なエアバッグ製造が可能になります。

 

3.5.2 技術研究

NEDOにおいて繊維to繊維の研究が以下3点進められています。(予定含む)

・2022年度「植物由来繊維資源循環プロセスの研究開発」を実施

・2022年度「資源自律に向けた資源循環システム強靱化実証事業」を創設。 多種多様な繊維、混紡品のマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルの技術開発を行う

・今後は、使用済衣類の自動分別等の技術開発を行う予定です

 

PICTURE 38:Automatic Separators for used-clothes

次のChaper3 既存企業編はこちら

 




[1] "https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/fashion_future/pdf/002_08_00.pdf

[2] https://synflux.io/

[3] https://syngrid.goldwin.co.jp/

[4] https://sustainatech.co.jp/

[5] https://full-kaiten.com/

[6] https://www.ecommit.jp/

[7] http://renu-project.com/wear-to-fashion/

[8] https://www.air-closet.com/

[9] https://www.jeplan.co.jp/2020/09/10/8658/

[10] https://r-inverse.com/


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