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エッセイ『豊島屋の鳩サブレ―』

 鎌倉市民でも神奈川県民でもない自分だけれど、鳩サブレ―にはなぜだか子どものころから親しみがある。なんかいい、と思えるような親しみがある。
 
 それは、鳩サブレ―の愛らしさのせいかもしれない。
 
 あのまんまるふっくらとした、曲線を描いたような鳩のフォルム。小さなつぶらな瞳もかわいい。デザインのシンプルさもいい。そして、言わずもがなのあのおいしさ。

 バターと卵の風味ゆたかな生地は、食感サックサクで、けれど硬くはなくて、歯を軽く当てるだけで中身はほろほろっと崩れていく。そして口のなかに広がる優しい甘さ。くちどけも良くて、わりあい大きさのある一枚だけれど、簡単にぺろりと食べられてしまう。

 材料は、小麦粉、砂糖、バター、鶏卵、膨張剤、と、いたってシンプル。ゆえに味わいは素朴で(けれどその素朴なおいしさの裏には試行錯誤の末に生まれたワリ=原材料の配合比があるのだという)、子どもであっても食べやすく、だから初めてそれを食べたときから、鳩サブレ―を気に入って、ずっと親しみを持ち続けているのだろうと思う。

 そんな鳩サブレ―は、120年以上の歴史を持つお菓子で鎌倉を代表する銘菓でもある。

 以前、職場で退職する人が挨拶まわりに鳩サブレ―を配っていて、その際、「神奈川県民なので…」と付け加えていたのがとても印象的だった(鎌倉市民だけではなく、神奈川県民にとっても銘菓なのね、と。その方は鎌倉市民ではなかったので)。と同時に、いいな、とも思った。東京生まれの基本東京育ちの自分としては、鳩サブレ―を名刺変わりとして差し出せるのがほんのすこしうらやましくもあった。もちろん、東京にだって代表できるお菓子は多々あるだろう。けれども、鳩サブレ―には特別、なんかいい、と思わせる何かがあるような気がする。そしてやっぱり、かわいい、のである。シンプルでありながら温かみがある。

 だからなのか、不思議と鳩サブレ―には良い意味で渋さがない。歴史あれども、ずっと「今」を継続しているお菓子のように思える。だからこそ、鎌倉市および神奈川県を代表する銘菓であり、県外の人にも親しまれる存在のお菓子なのかもしれない。そして、繰り返しになるけれども、その見た目のかわいらしさに加えて、当然、鳩サブレ―だからこそ味わえるあの優しい甘さの素朴なおいしさこそが、飽きずにずっと愛される所以なのだろうと思う。

🕊余談🕊
今回、小説とエッセイを書くにあたり豊島屋さんのホームページを改めてたくさん見たんですが、右下にあらわれる小さな鳩サブレー。これまで全然気がつかなかったのですが、あそこをクリックすると、鳩さんが案内役となって豊島屋や鎌倉に関するいろんな情報や豆知識等を教えてくれるんですね。バク転を披露してくれることもあったり!と遊び心満載で、気づけばクリックしまくりでした、笑。試したことがない人いましたらぜひ。おもしろいです。

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