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エッセイ『銀座木村家のジャムパン・あんぱん』

 いつだったかジャムパンを買おうと銀座木村家に立ち寄ったとき、そこには当然いちごのジャムパンが売られているだろうと思い込んでいたのは、それまで自分にとってジャムパンに入っているジャムといえば、いちごのジャムが定番だったからである。

 しかし銀座木村家で売られていたのはいちごではなくあんずのジャムパンで、恥ずかしながらあとで知ったことには、このあんずジャム入りのジャムパンこそが、ジャムパンの元祖、ということだった(明治三十三年誕生)。

 というわけで遅まきながら元祖ジャムパンを食べてみたところ、あんずの甘酸っぱさがとてもよかった。木村家ならではのぎゅっとした弾力ある香り高い酒種生地と自家製あんずジャムとの相性もよく、その両方の風味が口のなかに広がり、素朴な甘さでとてもおいしい。

 以来、すっかり木村家のジャムパンのファンになってしまった。もちろん、いちごのジャムパンも変わらず好きではあるけれど、あんずのジャムパンに慣れ親しんでしまうと、時折、いちごのジャムパンが妙に甘ったるく感じてしまうことがある。あんずの甘酸っぱさはひょっとすると、癖になる味わいなのかもしれない。

 ちなみにこの木村家のジャムパンは、見た目そのままに柿種型というらしく、なるほど、本当に柿の種のかたちをしていて、愛嬌がある。ものによって微妙にかたちが違うのは、今も職人さんがひとつひとつ丁寧に手作りをしているからだそう。百年以上も続く味だと考えると、すごいなあと感嘆してしまうのと同時に、その昔このパンを発明してくれた人に思わず感謝を述べたくなってしまう。

 そして木村家といえばやはり、こちらも元祖であるあんぱんは外せない。 あんぱんについてはその歴史はさらに古く、明治七年の生まれだという。

 すこし小振りなサイズの酒種あんぱんは定番の五種(桜、小倉、けし、うぐいす、白)に加えて、チーズクリームやマロンや季節限定のものなど、その種類もさまざまある。どれもおいしいけれど、個人的にはけしのあんぱんをよく食べる。あたまにトッピングされたけしの実が香ばしく、ほどよい甘さの漉し餡がなめらかでおいしい。季節ごとに色んなあんぱんが登場するのもまた一興で、自分は芋栗南瓜が好きなので、そうした材料を使った限定ものと出会えたときには喜んでつい購入してしまう。

 昔ながらの風情漂う木製トレーに整然と並んでいる木村家のパンは、どれも手作り感があり、不思議と愛らしさがある。日本生まれのこれらのパンには懐かしさと素朴さと安心があり、時代が変わっていくなかにあってもこうしたパンの味わいを変わらず楽しめるのは、なんだか嬉しいことだなあと思うのだ。

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あんずジャムの入った柿種型のジャムパン
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画像3
酒種あんぱん けし(左)と小倉(右)

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