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エッセイ『船橋屋のくず餅』

 はじめてくず餅を食べたとき、不思議な食べ物だなあと思った。
 乳白色のこんにゃくみたいな見た目で、食べるともっちりと弾力があり、そのままだとあまり味がしない(そして甘さもない)。けれど、黒蜜と黄な粉をかけると、とてもおいしい。くず餅の特有の風味が引き立つというのか、味がしないなんて思っていたお餅が生き生きと存在感を発揮してくる。なんというのだろう、癖になるおいしさなのだ。くず餅を知ったのはまだ小学生の頃だったと思うけれど、そのころからすっかりくず餅が好きになってしまった。

 なので、自分のなかでくず餅といえば、ずっとこの船橋屋のくず餅だったのだけれど、あるとき葛餅の存在を知り、あれ?名前は一緒なのに全然違うなあ…と不思議に思って調べてみると、くず餅は乳酸発酵した小麦澱粉を蒸しあげてつくる関東のもので、一方、葛餅は葛粉に砂糖と水を加えたものを火にかけて練ってつくる関西のもので、原材料・製法からして全くの別物だった。(ちなみに葛餅もぷるんとおいしくて大好きだ)

 そういえば振り返ってみると、くず餅が一体何なのかも分からないままずっと食べていた。ただおいしいという理由だけで、それが何かなんてことは特に気にもしていなかった。けれどその実体を知ると、それはとても体に良さそうな発酵食品だということで、大人になった今、改めてその情報はとてもうれしい。材料も、きな粉(大豆)・黒蜜(黒糖)・くず餅(自然発酵の小麦澱粉)と体に優しそうなものばかりで、それはつまり罪悪感なく食べられるおやつということになる。

 そして時が流れ、子供のころ箱入りしかなかったものが今ではカップ入りの食べきりサイズが登場したこともうれしい。くず餅は日持ちが二日間と短いので、気軽く食べようにも箱入りの場合だと人数がいないと食べきれない可能性が高く、ひとりだと断念せざるをえない。けれどカップ入りなら、仮に自分ひとりだけが欲したときであっても、気軽く手に取ることができる。

 というわけで、大人になった今でもたまにくず餅を食べることがあるけれど、やっぱり変わらずおいしいなあと思う。もちっとした弾力と、くずの風味と、黒蜜と黄な粉がもたらすコクのある甘さと香ばしさ。子供の頃、家族みんなで食べた記憶もふんわりよみがえり、心もお腹も満たされるのだ。

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