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創作怪談 『閉めないで』

  「しまった……」
気がついたのは、部活動も終わり、駐輪場にたどり着いた時だった。
自転車の鍵がない。
普段はスクールバッグの内ポケットに入れているのだが、今日は遅刻ギリギリになってしまって、急いで鍵をかけた後、弁当、水筒を一緒に入れた保冷バッグに突っ込んだはずだ。
それごと忘れてしまっている。
部室に戻り探してみるが、ない。教室に置いてきてしまったのだろう。
面倒だが、仕方ない。

  この時間帯の教室は既に鍵がかけられているはずなので、職員室で教室の鍵を借りに行く。
数学の先生がいた、苦手な先生だ。
鍵を貸してくれたのはいいのだが

「お前は集中力がないもんな、だから忘れ物をするし、ミスも多い。今日は歩いて帰ったらどうだ?」

こういう所が、生徒から嫌われてるんだよなと思いつつ、教室へ急ぐ。

  校舎の1部は所々、改装はされているが、ほとんどが古いままで、教室のあるエリアは特に古い。
シン……と静まり返った学校の木造の廊下は暗く、流石にこの時間は不気味に感じてしまう。

  鍵を開け、扉を引けば少し軋むような音がしながら開く。
ざっと教室を見渡せば、普段座っている席の机上にポツンと保冷バッグが置いてあった。
やっぱり、部活に行く時に準備だけして、そのまま置いて行ってしまったんだと納得した。
手に取り、教室を出て後ろ手に扉を閉めようとする。

「閉めないで……」

  教室の中から、か細い女の子の声が聞こえた。
振り返り教室の中を見回す。
「誰かいる?」
返事は無い。
気のせいか、そう思ってもう一度、扉を閉めようとする。

「閉めないで……」

また、か細い声が聞こえる。
「ねぇ……誰かいんの?」
やはり返事は無い。
気のせいだと思いたいが、確かに聞こえた。
  とはいえ、誰もいないし返事もない。
気のせい……だと思うことにして、扉を勢いよく閉めて、急いで鍵をかける。

「閉めないでって言ったのに……」

耳元に生ぬるい息がかかり、声が聞こえた。
焦って振り返るが、誰もいない。
明らかに耳元で囁かれた感じがしたのに……

その場を急いで鍵を閉め、離れようとすると、また

「どうして閉めちゃうの……?」

  また、囁くような声がする。
走ってその場を離れる。
急いで職員室の前まで来ると、職員室から例の嫌味な教師が出てきた。
やばい、怒られる。そう思って身構えた。
「だから歩いて帰れって言ったろ?」
「あの、なんか……声……」
「……忘れろ」
「でも……」
「大丈夫だから」
そう言われ鍵をサッと取られて、玄関へと追いやられた。

  次の日、授業終わりに先生の所に向かい、話を聞こうと、廊下で先生を捕まえる。色々聞くが、

先生は一瞬クラスの中を見て、視線をこちらに戻し
「どうせ質問するなら、授業の内容を質問しろ」
そう言うだけだった。

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