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創作怪談 『不思議な日記 後編』

前編はこちら↓

  玲奈はその夜も日記を書いた。
もちろん、新しい日記の方にだ。
不気味に感じて、夢のことや戻ってきた日記帳については何も書かなかった。

翌日の夜、仕事から帰宅すると、古い方のしまい込んだはずの日記帳が、机の上にあった。
まただ……そう思って近づき、日記帳を開く。
昨日見た、
「これを読んでいるあなたは誰?」
というメッセージの次のページを見てみれば、新しく自分が書いていないはずの記録が増えていた。

それは、今日の出来事についてだった。
代わり映えのない毎日とはいえ、部署の違う同期の誰かと久しぶりに話したとか、上司に少し注意されたとか、ランチに行った店やランチの内容、その店の店員の態度が悪かったなど、事細かに書かれている。
  それは確かに今日あったことだったし、玲奈自身の筆跡だった。
玲奈は急いで日記を閉じ、もう一度、収納の奥へとしまい込んだ。

  しかし、次の日も帰宅すると、机の上にはその日記帳があった。
玲奈はそのまま、日記をしまい込む。
だが無駄だった。
次の日も、また次の日も玲奈が帰宅すると、古い日記帳は机の上に置いてある。
それを繰り返し5日経った頃、玲奈は恐る恐る日記を開いた。

  日記には書いた覚えは無いが、確かにその日経験したことが書かれていた。
玲奈は怯え、新しい日記帳にも日記を書かなくなってしまった。
日記帳をしまい込み、翌日にはまた発見する。
それを何度も繰り返していた。

  ある夜、玲奈は真夜中に目が覚めた。
机の上を見ると、日記帳がまた机の上にあった。
どうやら今回は勝手に開いているようだった。
玲奈は怖くなり、いつものようにしまおうかと考えたが、夜中というのもあってか、触るのがなんだか怖い。
タオルを上に被せようと、手近にあったタオルを手に取り、日記帳の方へ向かう。
タオルをかける直前、その開いたページに何が書いてあるのかがわかった。
開いていたページには短く、
「逃げても無駄」
と書かれていた。
玲奈は混乱した。
日記を捨てようと決意し、急いで日記帳を掴んで、外のゴミ捨て場へと向かった。
良くないと分かってはいるものの、日記帳をゴミ捨て場へと投げつけ部屋に戻り、眠りについた。

翌朝、日記帳は再び机の上にあった。
どうして?混乱しながら、玲奈は小さく悲鳴をあげた。
その後も日記帳が机の上にあるのを確認しては、収納の奥にしまい込むというのを毎日繰り返した。

  ある日、ふと、焼いてしまうのはどうだろうか?
そんな考えが玲奈の頭をよぎった。

  休みの日、乾いたシンクに日記を置き、ライターで火をつける。表紙がハードカバーなので、中々火がつかない。
ページを開き中のページにライターの火を当てれば、すぐに燃えた。
数分程で中のページは全て燃えたのだが、ハードカバーは中々燃えずかなり長い時間がかかったが、全て燃えた。
火が完全に消えたことを確認して、残った燃えカスを水で濡らす。
シンクに流し、生ゴミと一緒にゴミ袋に入れて、ゴミ捨て場に持って行った。
せっかくの休みの大半を使ってしまったが、玲奈には達成感に溢れていた。
その日、久しぶりに新しい日記帳に日記を書いた。

  翌朝、焼き捨てたはずの日記帳は、再び玲奈の部屋の机の上に置いてあった。
玲奈は目の前が真っ暗になったような、そんな感覚になる。
日記帳を開こうかとも考えたが、開くことはしなかった。
ただ机の片隅に置いておくことに決めた。
どうやら、机の上に置いておけば、日記帳は満足なのか、特に動いたりはしなかった。

それ以来、玲奈の生活は今まで通りだ。
しかし、日記帳が目に入る度、玲奈の心の奥底で不安を掻き立てる。
常に日記帳から見られている、そんな気がしてならないのだ。
玲奈はそれ以来、日記を書くことをやめた。


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