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創作怪談 『日常の歪み』

  明は普通の会社員だ。毎日同じ時間に出勤して、同じ時間に帰宅していた。駅から自宅までの道のりにはコンビニがあって、彼の生活に欠かせない存在だった。朝にはコーヒーと菓子パンを買って通勤し、疲れて帰った仕事帰りには夕飯を買って、週末には散歩がてら雑誌やお菓子やお酒を買いに行くのが楽しみだった。

   ある金曜日の夜、明はいつものようにコンビニで夕飯と、その日は発泡酒を買って帰った。二日の休みを挟み、いつもの時間に通勤をする。この日もコーヒーと菓子パンを買った。いつものように仕事をこなして、いつものようにコンビニに立ち寄るつもりで歩いていた。だが、少し疲れていた彼はいつの間にかコンビニを通り過ぎていた。「ああ、今日は買いだめしていたカップ麺か……冷凍のチャーハン残ってたかな」そんなことを考えながら家に帰った。

   翌日、明はその場所を訪れた。だが、そこにはコンビニはない。代わりに古びた建物が立っていた。長い間放置されていたかのように、窓は割れて、壁には苔が生えていた。明は驚いて、周りを見渡す。確かにコンビニがあったはずの場所だ。散歩中のおばさんが向かいから歩いてくる。いつもこの時間に歩いていて、よく見かける顔だった。声を掛けると、向こうも何となく覚えていてくれたのだろう。にこやかに返事をしてくれた。コンビニについて尋ねると、首をひねり、「ここには、ずっとこの古い建物があったよ」と言った。明は混乱し、自分だけ違う世界に放り込まれたかのような感覚に襲われた。

  会社に到着し、別のコンビニで買った菓子パンを食べ、コーヒーを飲みながら考える。ふと思いつき、スマホのナビアプリで調べてみる。毎日通るルートは保存されていた。そのルートにはコンビニの「コ」の字もない。不思議というよりは不気味に感じ、すぐにアプリを消す。
  その日の帰り、明は再びそのコンビニの前を通る。正確にはコンビニがあったはずの場所。その場所には相変わらず古びた建物が立っている。「きつねに化かされる」とはこういうことなのだろうか?そんなことを考えながら、明は歩いて帰宅した。

  何となく、その晩はなかなか眠れず、コンビニのことが頭から離れなかった。そのうち、眠りについた。
  奇妙な夢を見た。夢の中で彼は、あの古びた建物の前に立っていた。夢の中の明はその建物の扉を開けた。扉を開けた先は外観からは想像できない位、明るく清潔だった。明はそこに見覚えがある。それはコンビニだった。いつも通っていた、あのコンビニだが、客も店員もいないようだ。明はいつものように雑誌コーナーからドリンクコーナーを通り、弁当やおにぎり、サンドイッチを見た後に、パンのコーナーに向かい、レジの前に立つ。すると明の後ろから声が掛けられる。「いらっしゃいませ、お久しぶりですね」そんな言葉に、明が振り返ると、そこにはコンビニでよく見かけていた店員が立っていた。明がコンビニを利用する時は、必ず居たので覚えていた。特に店員と客以上の会話があったわけではなかったのだが、明は彼に違和感を感じた。どこか目が虚ろで、口元が不自然に歪んでいた。笑っているようにも、怒っているようにも見える。明は怖くなり、そのコンビニのような何かから急いで飛び出す。その瞬間、目が覚める。明は汗だくだった。
「ただの夢だ」、そう思いながら、明はもう一度ベッドに横になった。

何度通っても、コンビニがあったはずの場所には古びた建物がある。明はそこを通るたび、その建物の扉を開けたいという衝動に駆られている。

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