創作怪談 『洗面台』
古いアパートの洗面台の蛇口はどうやら壊れているらしい。
見た目からして古いそれは、蛇口を捻れば変な音を立て、その後に水が出ていた。
そのうち、常にポタリ、ポタリと水が滴るようになった。
さすがに、業者に頼まなきゃなと思いつつ、金銭の問題と、忙しさとで未だに修理できずにいた。
いつものように、洗面台で顔を洗っていると、水が少し濁っているように見えて手を止める。
サビが出てきたのか?
最悪だなそんなことを考えながら、顔を拭く。
古いアパートの中でもこの蛇口は特に古びている。だからだろうな、そんなことを思いながら、台所のシンクで顔を洗うことに決め、その場を離れる。
相変わらず、ポタリ、ポタリと水が滴り落ちている。
次の日、仕事から帰って手を洗うついでに一応確認しようと、洗面台の蛇口を捻ってみる。
やはり少し濁って見える。
なんなら昨日より濁っているような気がする。
サビの色とは少し違う、薄い灰色の水だった。
手で掬ってみると、その冷たさにぞわりとして、手を引っこめる。
井戸水のような冷たさだ。
もちろん井戸水では無いし、井戸水のようなとは言ったが、それとは違う何処か不安感を覚えるような冷たさだった。
急いで蛇口を閉める。
相変わらず、ポタリ、ポタリと水が滴り落ちている。
滴っている水もなんだか少し濁ったように見えた。
その日、夢を見た。
洗面台を覗き込んでいる夢だった。
蛇口からは濁った水が流れている。
手を洗った時よりも黒く濁っているように見える。
そこで目が覚める。
スマホを見れば、まだまだ夜中だ。
水関係の夢を見たからか、尿意を催しトイレに向かった。
きっと、洗面台の事を考えていたから夢に出たんだろう。
何となく気になって、洗面台に向かう。
相変わらず、ポタリ、ポタリと水が滴り落ちる音がしているのだが、その滴っている水も先程よりも、黒く濁っているように見えた。
少しの気味悪さを覚えつつ、近づいてみる。
やはり黒い水が滴っている。
その水は夢の中で見た水の色に似ている気がした。
洗面台の前に立つ。
少しの間、その黒い水滴を見つめていると、突然、蛇口から勢いよく黒い水ではじめた。
焦りながら、蛇口を閉めようとするが、元々蛇口は元々開いてはいないから、閉められない。
水の勢いは増すばかりで、止まらずに流れ続けている。
洗面台の排水栓は閉めていないはずなのに、何故か黒い水が溜まり続けている。
墨汁のような黒い水だ。
あまりの勢いに、顔に黒い水がかかった。
水の匂いはどこか生臭く、異様に冷たく、焦って手の甲で拭う。
頑張つて、どうにか止めようとするのだが、どうにもできない。
黒い水は溜まり続け、溢れた。
そこで、目が覚めた。
目が覚めるとベッドの上で、夢だったのだとほっとする。
台所で顔を洗い、歯を磨きをしながら、一応確認しようと、洗面台に向かう。
相変わらず、ポタリ、ポタリと水が滴り落ちている。
良かった、水は出ていないと思ったのだが、
床に水溜りができていた。
水漏れでもしたのか?にしては妙な位置、洗面台から少し離れた位置に水溜りはできていた。
適当にタオルを取って、その水溜りを覆うように被せて拭き取ろうとする。
白いタオルは水を吸い、ジワッと黒いシミができていた。