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創作怪談 『引き出しの奥』

  小学生に入学するという少し前、近所に住んでいる従兄から、勉強机を貰った。
木製で、引き出しがひとつだけ付いているようなシンプルなものだった。
新しい勉強机を買って貰えないことに多少なりとも不満を持ってはいたが、我が家は少し貧乏で、幼いながらも、それを理解していたため、仕方ないと思いながら、その机に祖父母に買ってもらった文房具などを置いた。
入学して、勉強机を頻繁に使うようになってから、少々気になることがあった。
 
 最初は、机で宿題をしていた日のことだった。

コツコツ……コツコツ……

何か音がする。
本当に微かな音なため、最初は気が付かなかったが、1度気がつくと、気になってしまう異音だった。
まるで誰かが、木製の何かを爪で叩いているような、そんな音。
今、同じ状況になれば、あれは家鳴りとか、そういう類なのかもしれない。
そんな風に考えたかもしれない。
しかし、当時はそんなことを思いつきもしなかった。
どこからだろう。
その時勉強していた算数のドリルから目を離して、周りを見る。
   勉強部屋という名目で、物置部屋を軽く片付けただけの部屋を自室として貰っていたので、何か音のするものが置いてあるのかな?と当たりを見てみる。
ほとんどの荷物は時期外れで着ない洋服を収納したボックスやら、上着がかけてあるラックのみで、特にコツコツと音のするようなものは無い。
首を傾げつつ、算数ドリルに目を戻す。

コツコツ……コツコツ……

音は相変わらず続いている。
気になるので、父のお下がりで貰っていたラジカセで、地方のラジオ番組を流す。
ラジオの音で異音はかき消され、気にならなくなった。

  そんな日が二、三日続き、休みの日に本格的に音の元を探そう。
そう思いながら、音をよく聞く。

 コツコツ……コツコツ……

机から音がしている。
そんな気がする。
机に耳を当ててみたりするもののよく分からない。
でも、音の方向的には机のある方だ。
そこには机と椅子しかない。
椅子が古いから、椅子の音かな?
座ってみて、足をぶらぶらさせたりしてみるが音はならない。

   机の引き出しを開けて、中にはいっている物を机の上に出してみる。
裏紙や、自由帳に書いた自作の漫画(今思うと落書きだ)と、当時流行ったカードゲームのカード等が入っているのみで、他には何も入っていない。
そんなことをしている間も

 コツコツ……コツコツ……

音はつづいていた。

机の上に出した物を引き出し中に戻し、引き出しを閉めると、どうやら入れ方が悪かったらしく、クシャリ、と紙の折れる音がした。
急いで引き出しを開けると、1番上に置いたはずの裏紙が見当たらない、引き出しの中に手を突っ込む。奥に、くしゃくしゃになった紙に触れる。
少し引っ張ってみると、抵抗があって破れてしまった。
残念に思いつつ、切れ端はどこだともう1度手を突っ込んで見ると引き出しが、紙を噛んでしまったらしいことがわかった。

引き出しごと取り出してみる。
思っていたより重くて、バランスを崩しそうになりながらも机の上に置いて、空いた所に手を入れて探ってみると、紙とは別のものに触れる。取り出してみると、それは御守りだった。
神社で売ってあるような御守りで、机の前の持ち主である従兄のものだろうなと、両親に渡した。
  従兄に会った時に話を聞けば、従兄が受験の時に友人達とお宮参りに行って、買った物だと言っていた。
いつの間にか無くなっていて探していた物だと言われた。
ガサツな人だったから適当にしまって、いつの間にか奥に行ってしまっていたのだろう。

  御守りを見つけてからは、あの異音は無くなった。
その時は、良かったなぁ、としか思っていなかったのだが、今になって思う。
  あの異音を出していたのは、あの御守りだったのではないだろうか?
あの御守りはよく見る布製の御守り袋の中に、開けたことがないので、何なのかは分からないが、固さのある何かが入っているタイプのもので、振ったりしても、あのコツコツと爪で叩くような音が出るのかは疑問なのだ。

「見つけてくれ」
御守りがそう言っていたのかもしれない。
今は、そんな気がしている。

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