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ないものねだり

「あぁ、おっぱいがなくていいなぁ・・・」

最近の私の口癖である。
かつての武器は、今やただの重荷となってしまった。

ーーー
10ヶ月になる息子は、夜泣きとまではいかないものの、平均して3,4回、多い時には5,6回目を覚ます。
細切れ睡眠は、ここ最近になって発症し、これが地味につらい。
とはいえ、その都度、数分間の添い乳をすれば、すぐにコロンと寝てくれるので、大変なうちに入らないのかもしれないが、よその事情を知らないのでわからない。

添い乳。
なんて便利な代物だろうと、その技を習得した瞬間は、無敵になったような気がした。わざわざ体を起こさなくても、簡単に授乳でき、そのまま入眠してくれる。まさに神業、なんて楽ちんなんだろうと、以来、添い乳でしか、寝かしつけたことがない。
もちろんリスクもあって、中耳炎や虫歯になりやすと言われていて、例にもれず、わが子も生後2ヶ月にして、耳鼻科のお世話になったのだが(3ヶ月ほど耳の洗浄に通い続けた。しんどかった…)。しかし、それをふまえても、やめられない添い乳である。

夫も私も、寝かしつけの仕上げはおっぱいと、疑いもせず、ここまでやってきた。夫が絵本の読み聞かせを終える頃にバトンタッチし、有無を言わさず添い乳で寝落ちさせる。

しかし、いよいよこのものぐさな態度に、ツケが回ってきたようだ。
1歳の誕生日を目前に控え、そろそろ卒乳の時期を見計らいはじめた。
添い乳で寝かしつけ、夜の細切れ睡眠も同じような状況だったという、頼れる2児に母に相談すると、二人とも、1歳の誕生日に卒乳できたという。
聞けば、なんと、お茶で代用できたから、という。
「私も、卒乳するまで、添い乳なしでどうやって寝かしつければいいのか、想像もつかなったよ〜。」

さっそく、夫がお正月休みで、仕事に支障が出ないうちにと、夜間断乳に挑戦することになった。
どんなに泣いても、最初の1週間は、授乳なしでがんばる(ネットに書いてあった)。
そう心に誓ってみたものの、ひきつけでも起こしてしまうんじゃないかというほど激しく泣く息子に耐えかねて、まずは段階的に、入眠の時だけおっぱいをやめてみるのはどうだろうと、夫が提案する(枕元に携えたお茶は頑なに拒否)。

私の姿を見ると、もう、「おっぱい〜おっぱい〜」と泣きはじめるので、別の部屋で待機することにする。
すると、挑戦3日のうち、2日は、読み聞かせだけで眠ってくれた。
成功した日は、誇らしげに寝室から出てきた夫に、思わず駆け寄る。

どうやって成し遂げたのか、すぐさまインタビューする。

・絵本の読み聞かせの後、絵本なしで、桃太郎や浦島太郎のような、ソラで語れる物語をゆっくりゆっくり、息子の目をみて話す。
・その際、ディティールを詳しく説明し、なかなか物語が前に進まないようにすると良い。
・そうこうしているうちに、息子の目の焦点が合わなくなり、自らベッドに横になる。背中をトントンしたり、息子の手や足を動かしジェスチャーをくわえながら物語を語り聞かせるとなお良い、とのこと。

ふむふむ…羨望の眼差しで夫を見つつも、どこか自分には無理だろうと、あきらめている私がいた。
だって、私にはおっぱいがあるもの。

このお正月休み、家族三人ずっと一緒に過ごしたことで、明らかになった事実がある。おっぱいがない、という強みである。
平日、基本ワンオペでお風呂から寝かしつけまでをこなしているのだが、お風呂に入れば、すきあらばおっぱいを飲もうと、なかなかスムーズに体を洗わせてくれれず、四苦八苦している。
そんな私に比べ、休暇中に入浴を担ってくれた夫は、なんと楽に、スムーズに息子の体を洗い上げていることだろう!
湯船に浸かっても、おとなしく向き合って遊んでいる。
おっぱいを飲もうと、にじり寄ってくる息子から、なんとか逃れようと必死になっている私に遊んでいる余裕なんてないのに。
「ちゃんと、人と人との繋がりが生まれている気がする…」
恨めしさをにじませながらつぶやいた。
私と息子の間には、おっぱいがある。
冷静に考えてみると、生きる上で欠くことのできない要素が先で、私の人格を気に入って、よってきてくれるわけではない。
しかし、この長い休暇で、四六時中、息子と過ごしてきた夫との間には、確かに“俺とお前の仲”と呼べる、お互いへの好意が見てとれた。
いいなぁ…
息子との関係性において、人間同士の絆という観点からみれば、私は夫より、確実に後手である。
やがておっぱいが不要なものになった時、息子とそんな仲を築けたらうれしい。

さて、長い長いお正月休みが明けてしまった。
随分と楽させてもらったこの期間、ワンオペの日々に無事復帰することができるだろうか。
そんな時間はないけれど、少しリハビリが必要そうだ。

麻佑子

#育児 #子育て #夜間断乳  #添い乳

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