7月9日【2】

夫と母には外へ出てもらい、手術の準備開始。ついてくださっていた助産師さんも帝王切開経験者らしく、雨の日は今でもちょっとしくしく痛むことがあります、とちょっと世間話をはさみつつ。分娩室でされたことは、下の毛の剃毛。カミソリでジョリジョリと剃られました。大きいおなかがあるのでどの程度剃られているのかは見えず。これから子を産むというのに、分娩台で毛を剃られている光景はなんだかマヌケな感じがして、少し緊張がほぐれました。剃った毛を、ガムテープみたいなものでペタペタと取っていきます。手術なのに、なんか結構原始的なんだなぁと思いながら、もし剃った毛がちょっと残っていて、手術のときに中に入ってそのまま閉じられてしまったら嫌だなぁなんて考えていると、自分が今から何をするのか忘れそうに。

処理が終わると車いすに乗って手術室へ。しばしばドラマで見るような光景が目の前に広がり、おのぼりさん気分でいると、手術台に上がるよう促されました。が、この手術台、想像していたよりもはるかに狭いのです。ちょっとふとましい人なら収まらずに落ちちゃうんじゃないかと思うくらい。それくらいギリギリな幅だから、横になるのが難しかった。しばらくして、詳しく優しく説明をしてくださったのが麻酔の先生。その女性の先生がとても柔らかく、そしてわかりやすく麻酔について話してくださったので、私にしてはめずらしく不安な気持ちを引きずることはありませんでした。麻酔の針は横向きになって背中を丸めた体勢で刺すのですが、大きいおなかを抱え、しかも狭い手術台で横向きになり背中を丸めるというのはなかなかに難しく、思うように丸まらない。そして落ちそうで怖い。看護師さんたちに手伝ってもらい、なんとか入れることができました。この背中に麻酔をするというのが結構怖かったのですが、散々陣痛に耐えてきた今、針を刺されるくらいまったくなんてことなく。

再び仰向けになり、点滴で麻酔を入れていきます。人生初麻酔。夫が麻酔の効きにくい体質らしく、すごく痛い思いをした話を聞いていたので、私はちゃんと効くのだろうかとゾワゾワしながらされるがまま。執刀してくださる先生は、男の先生と女の先生のお二人。麻酔の先生が脚の感覚やらおなかの感覚やらを段階を踏んで確認してくださいます。麻酔って、力が抜けていくみたいな感じで、自分の感覚が徐々に変わっていくものだと思っていたのですが、実際はそんなことはなく、感覚はいつもと変わらない。でも、明らかに違う。「今ペンチでつねってます」と言われても、誰の話?ってくらいに何も感じないのです。自分の下半身の存在は感じるけれど、下半身が感じていることを自分は感じられない、という感じ。そして、「今氷でおなかを触ってますがわかりますか?」と聞かれるも、まったく冷たくない。なんか触られているのはわかるけれど、冷たさをまったく感じないのです。麻酔ってすげぇ。「え、全然冷たくないです」と答えてわりとすぐ、「もう切ってますよー」の急展開。まじかー全然痛くないー麻酔ってすげぇ。

川上未映子の本でも他の本でも、部分麻酔の手術の描写を読むと、「痛くはないけど、触られているのがわかる」とわりと高確率で書かれていて、それってめっちゃ気持ち悪いやん、考えるだけでぞっとする、と思っていました。が、実際その状況になってみると、「痛くはないけど、触られているのがわかる」以上でも以下でもない。本当に「痛くはないけど、触られているのがわかる」だけ。気持ち悪さは微塵もありませんでした。今おなかを切っているのかー、他の内臓をかき分けて子宮をひっぱりだしているところだろうかーとか想像しながら様子を窺っていると、「旦那さん呼んできて」といよいよ立ち会いの許可が。帝王切開は想定の範囲外だったけれど、この病院が帝王切開でも立ち会いができる病院で良かった・・・と改めて自分の病院選びに拍手。と同時に、夫は赤ちゃんだけでなく、私の内臓まで見ることになるのかしら、ぶっ倒れたらどうしよう、と心配なような見てみたいようなちょっとイジワルな気持ちで、夫が来るのを待つのでした。

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