お別れとでんき屋
ちょっと感動した話。
前にも書いた通り、私の仕事はまちのでんき屋。
家電製品を売ったり、直したり、リフォーム工事したりしている。
45年もやってるから、付き合いの長いお客様も多いけど、問題はお客様の高齢化。新規の人を増やさないと、自ずと客は減る。
そんな業界です。
そんな中、この間うちで請け負ったお仕事の話。
社長である父が、私が生まれたころからのお付き合いのお客様が声をかけてきた。
話を聞いてみると、
「旦那が余命宣告を受けてもう長くないから、いろいろと頼みたいことがあるんよ」
お客様の年齢を考えても、早すぎる(社長と同い年位)のに、落ち着いて依頼をかけてこられた。
依頼は「亡くなる前にエアコン・キッチンの換気扇を入れ替えてほしい。地震で壊れた雨樋を直してほしい。玄関を明るくしてほしい」というもの。
俄かには信じられないことだったけれど、社長と私は依頼を受けた直後一週間ですべての仕事を終わらせた。
エアコンの工事も、ほかの工事も、臥せっている旦那さんがいるすぐ横の部屋でやった。なんともいたたまれない感じだった。
数か月前に会った姿とは、似ても似つかないほど痩せていたから。
ガンって怖いなぁと。
その数日後そのお客様から「旦那が昨日亡くなったので、テレビを引き取りに来てほしい」とのご依頼が。
余命宣告通り、と言えば言い方が悪いが、本当にその通り、旦那さんが亡くなった。
テレビを引き取りに行くと、生前ベッドで横たわっていた場所で、旦那さんが、きれいに飾られた枕飾りとともに布団で眠っていた。
何とも言えないやるせなさ。
線香のにおいに包まれながらテレビを運んだ。
この仕事に行ったとき、こちらは親子で仕事に行ってて、娘さんがいて、それだけでもなんか申し訳ない気持ちでいた……だってそこの娘さんは父親が亡くなる準備をしていたのだから。逆の立場だったら私は絶対親子で来てほしくないなって思ったもんな……
あとね、これは後で聞いた話だけど、
このお客様(奥さん)、葬儀会社の社長さんで、看取りから納棺まですべて自分で段取りしたそう。だからこんな手っ取り早くできたんか……と感心してしまった。
人の死をプロデュースする仕事も大変だなぁと思って見てた。
あと女社長ってめっちゃ身近にいた。
見習うべき人だと思った。
で、また数日後。この間。
そのお客様から「ラジオでお宅のお仕事の話をさせていただきます。感謝の気持ちをこめて」とLINEがきた
このお客様、インターネットラジオの配信をされていて、そこでうちの話をしてくれていた
本当にうちの仕事に感動したらしく、事細かにほめてくれていた。
お客様自身、人と寄り添う仕事をしているのに、うちの仕事に、その価値を見出してくれてるのは本当に嬉しかったな。
家電ってマジでネットや量販店で買えるものになったけど、こういう寄り添い方はこの仕事でしかできないなと心底誇らしくなった。
もし今の仕事に満足いっていない、充実していないとかあったら
こんな仕事があるんだってことを思い出してほしい。
実はまちのでんき屋さんって、絶滅危惧種です。
こんなにAIではできない仕事なのに、担い手がいない。
この間も近所の同業者が店を畳んで引退した。
私は結婚しても続けたいと思ってるけど、なぁ……限界があるのは確か。男手が欲しいと切実に思う。女の子でもそれなりに力あればできるし、なくても技術を身に着けさえすれば私みたいな仕事もできる。
就職に悩んでてやる気のある人がいたらマジで考えてほしいレベル。
……とこっそり思っている。