ショートショート 改「月が綺麗ですね」
月にいる時には月が綺麗ですねとは言えないが、地球が綺麗ですね、なんて言うのだろう
「ねぇねぇ、月めっちゃ綺麗〜!見て〜!」ひまりがベランダから少し身を乗り出して言った。「えぇードア開けないでよ。寒いんだけど。」と言ったのは、この家の持ち主、りん。りんは上京学生で大学の近くのアパートに住んでいる。なのでひまりは都合よく「1限出るために!お願い!」とかなんとか言って入り浸っている。まぁ結局は一緒にいるのが楽しくて、そしてかわいいなぁなんて思ったりしていつも泊めてあげている。
ひまりの月が綺麗!!!とか言う声とカシャカシャとスマホのシャッター音が鳴り止まないので、「しょうがないなぁ」とりんは立ち上がった。「月って写真で撮っても良さ伝わんないよねぇ」「あと花火って動画撮っても絶対見返さないよね」とかずっと言ってるひまり。「あんたさぁもうちょい上着着るとかしてから外出なさいよね」とりんが言うとひまりは意外と大人しく「はぁい」と部屋に戻る。やっぱり騒がしい子だなぁなんて思いながらりんがしみじみと月を見ていると「月が綺麗ですね」。耳元で囁かれた。「何急に〜」「なんか、すごい浸ってたから。言ってみた。」「ほんとそういうの好きな人にしなさいよね。」りんが一瞬ドキッとしてしまったのは彼氏が一度も出来たことのないうぶな女の子だからなのだろうか。
改「月が綺麗ですね」
「あ、」「もしさ」りんが言う。「もしも月に住んでたとしたら『月が綺麗ですね』じゃなくてなんて言うんだろうね?」ちょっと恥ずかしかったのを紛らわすために質問をしてみる。案外ひまりは真剣に考え始めてしばらく黙っていた。そろそろ答えてよーと言いかけた時、唇を突き出して上を向きながら一文字ずつ口から出すみたいに答えた。「んー地球の青さが綺麗ですね、とか?、」「うーん」ひまりはどこか不満気に手すりに手をかけて伸びをした。「それちょっと安直すぎないー?」「えぇーいいと思ったんだけどなぁ」「私はこう思う」りんは初めから答えが決まってたみたいに話し始めた。
「私思うんだ、きっと月に住んでたら地球を羨むって。海も緑も豊かで。だから綺麗ですねなんて感情抱けないよ」「だからきっとなんにもない星のこと見て、『星が綺麗ですね』って言うと思うんだ。」