はばたけ、出版企画書!!~第一弾~
『Thirty Minutes Over Oregon』
この本との出会いは2022年、いたばし絵本翻訳大賞の課題本の著者を検索していて見つけた本です。
元日本軍人による平和活動を題材にしたノンフィクション絵本。
まずこのような日本人が存在していたことすら驚きでしたが、この方が日本よりアメリカで有名らしいということは衝撃的でした。
読んでいくうちに、「なぜこの本が日本人に読まれていないのだろう?」と純粋に不思議に思ったのです。そして「この本を世に出さなければ!」という使命感のようなものも同時に生まれてきました。
しかし持ち込みを始めてすぐ、「出版社はこういう題材を好むだろう」という私が当初抱いていた楽観的観測は、見事にはずれることになりました。
ええ、みなさん確かに興味は持ってくれました。しかし、「切腹の考え方など日本の市場には受け入れられにくい」「アメリカではリスペクトされていても、日本では共感を得にくいだろう」といった感想を次々といただくことになったのです。
それでも私がこの本をみなさんに読んでいただきたいという思いは少しも変わりません。なぜならこの本には「人生はやり直せる」、「異文化を知ることで戦争をなくそう」といった普遍的なメッセージが込められているからです。
アタックすること11社、いまだに色よい返事はもらえていませんが、私はこの本が出版される日まであきらめることはないでしょう。
というわけで、以下、Thirty Minutes Over Oregon の出版企画書です!
「Thirty Minutes Over Oregon」 企画書
【原書情報】
原書名:Thirty Minutes Over Oregon -A Japanese Pilot’s World War II Story
(オレゴン上空三十分 -日本人パイロットの第二次世界大戦物語 )
出版社:Clarion Books
刊行日:2018年11月1日
ページ数:40ぺージ
ISBN-10: 054443076X ISBN-13: 978-0544430761
【タイトル案】
オレゴンの空を飛んだサムライ
~アメリカ本土を爆撃した日本人パイロットのねがい~
【書籍概要】
(あらすじ) 第二次世界大戦中、アメリカによる東京空襲の報復として、アメリカ本土空爆の任務を負うことになった日本人パイロット、藤田信雄。秘密裏に2度にわたって行われたアメリカ空爆からちょうど20年後、空爆地近くのブルッキングス市では町おこしのために、戦時中に空襲をおこなった日本人パイロットを探し出し、戦没者追悼祭に主賓として招こうという案が出ていた。藤田氏は家宝の日本刀を手に渡米することを決心する。いざ到着してみると、あたたかく地元民から迎え入れられ、感激した藤田氏は持参した日本刀を市に寄贈した。それ以後ブルッキングスの女子高校生を自費で招致したり、自身も3度渡米し、植樹や寄付を行うなど市との交流を続けていく。1997年に逝去する直前にブルッキングス市の名誉市民となった。
この物語はオーソドックスな偉人伝ではありません。まず主人公はアメリカ本土を爆撃した加害者であるというところから始まり、自分が空爆した市から招かれるという稀有なできごとののち、少しずつ自分のしたおこないの償いを始めるという贖罪の物語です。結果的に日米間の和平活動への道のりを歩んでいったのですから、藤田氏は偉人に間違いないでしょう。しかし藤田氏の真の功績は、彼が描いた革新的な平和理念にあるといえます。藤田氏は「自分たちが子供のころ異文化について学ぶ機会があったら、戦争は起こっていなかっただろうか」と自身に問いかけ、被爆地ブルッキングス市の図書館に多額の寄付をしました。子供たちが本を通して異文化に興味を持ち、理解を深めることで未来に起こり得る戦争を未然に防ぐことができるかもしれない、と考えたからです。読書がひいては世界平和を生む――これこそが藤田氏がおこなった長期的かつサステイナブルな平和活動ではないでしょうか。
さらに本書がユニークなのは、日本人の物語でありながらアメリカ側の視点が多く含まれているという点です。元敵国軍人の招致を計画した青年会議所、それを支持したブルッキングス市民やアメリカ国民、退役軍人たちといったアメリカ側の影の主人公が登場するのです。彼らの言い分は「戦争中はだれもが任務を遂行していただけ。そろそろ憎しみを忘れて許しあおう」ということでした。決して戦争中の行為を美化しているわけでも、戦争の風化を促しているわけでもなく「罪を憎んで人を憎まず」という言葉がぴったりと当てはまります。このように著者のマーク・タイラー・ノーブルマンは中立の立場を取り事実を客観的に伝えつつも、空爆に対する藤田氏の戦後の葛藤や、招待を受けた際のとまどいなどの心理描写を繊細に描くことに成功しています。切腹を覚悟で渡米した藤田氏の心情や、敵国の元軍人を追悼祭の主賓に招こうという米国側の意図は、現在を生きる読者には到底理解しがたいかもしれません。しかしそのような概念が当時存在していたことを事実としてありのまま受け入れたとき、はじめて登場人物それぞれが抱えていた反戦への想いを理解できるのではないでしょうか。また同時に、人生で過ちを犯してもその過ちを正して新しい人生を送ることが可能であるという、多くの偉人伝にはないメッセージを読み取ることができると考えます。
原書は2019年、子供向けの優れたノンフィクションに与えられるオービス・ピクタス賞を受賞しました。藤田氏のアメリカ本土攻撃は日本人の間でさえ、広く知られていません。1995年12月29日放送の『たけし・さんま世紀末特別番組!! 世界超偉人5000人伝説』(日本テレビ)、2018年8月9日放送の『奇跡体験!アンビリバボー』(フジテレビ)で取り上げられ、知名度があがりましたが、まだまだ世間に知られているとはいい難い状況です。2022年には藤田氏のアメリカ本土空爆からちょうど80年が経ちました。そして来年2025年には終戦から80年を迎えます。より多くの人に藤田氏の平和への願いを知ってもらい、戦争や世界平和について考える機会になればと存じます。メッセージ性の高い作品ですので、学校や図書館に収蔵するに適した絵本だといえます。
【対象読者】
児童。対象年齢は小学校中学年以降を想定。
【仕様】
横286mm x 縦260mm、予価1600円。ハードカバー。
【著者プロフィール】
Marc Tyler Nobleman(マーク・タイラー・ノーブルマン) 作
アメリカ、コネティカット州出身。主に児童書ノンフィクション作家として名を知られており、代表作はバットマンシリーズの影の共作者、ビル・フィンガーについて書かれたBill the Boy Wonder: The Secret Co-Creator of Batmanやスーパーマンの作者について書かれたBoys of Steel: The Creators of Superman。そして本書の他に、コティングリー妖精事件を題材にした絵本Fairy Spell: How Two Girls Convinced the World That Fairies Are Realがある。フィクションの児童書は、第二次世界大戦中の兄弟の絆を描いたBrave Like My Brother と、南米のUMA、チュパカブラを題材にした絵本、The Chupacabra Ate the Candelabra の2冊。
Melissa Iwai (メリッサ・イワイ) 絵
ニューヨーク在住、絵本作家・イラストレーター。イラストを手がけた絵本は30冊を超える。水彩画を得意とし、本によって色彩豊かにテイストの異なるイラストを描く。本書のイラストを担当するにあたって、物語の舞台であるオレゴン州、ブルッキングス市を訪れた。趣味は料理とミニチュアフードの作成。
【訳者プロフィール】
梁池真世(やなちまよ)
東京都出身。アイルランド在住。大学在学中に舞台女優をめざし、演劇養成所に入所。養成所卒業後、1999年に演劇の本場イギリスへ。ロンドンの演劇大学サーカス学科へ進学し、学士号取得。在学中の怪我によりサーカスの道を断念し、帰国。アイリッシュ音楽に興味を抱き、都内でアイリッシュフィドル(バイオリン)のレッスンを受け始める。2007年に渡愛。2009年、リムリック大学大学院伝統音楽演奏科に進学し、首席で卒業。以後、市内のパブでセッションリーダーを務めるかたわら、伝統音楽バンドを主宰。韓国在住の知人よりYouTubeチャンネル内の日本語字幕の翻訳を依頼されたのきっかけに翻訳に興味をもつ。以来クラウドソーシング等を介してフリーランス翻訳家として働く。2人の子供をバイリンガルにするべく、絵本の読み聞かせを日々の生きがいにしていたこともあり、2021年より朝日カルチャーセンターの絵本翻訳入門講座を受講し、三辺律子氏に師事する。第28回いたばし国際絵本翻訳大賞にて最終選考まで残る。
【類書】
「アメリカ本土を爆撃した男」(倉田耕一 著 / 毎日ワンズ / 定価990円)
「杉原千畝と命のビザー自由への道」
(ケン・モチヅキ 作 / ドム・リー 絵 / 中家多恵子 訳 / 汐文社 / 定価1600円)
「松岡朝物語」(角山祥道 著 / 松岡裕子 監修 / アスパラ / 定価2200円)
「アメリカ本土を爆撃した男」は藤田信雄氏の生涯を描いたルポルタージュ作品。題材は同じですが、こちらは藤田氏の日記を基にして書かれています。本書は子供を対象とした絵本ですので、わかりやすく、より物語風にまとめてあります。また、読者層がまったく異なるという点で差別化ができ、学齢期の読者獲得が期待できます。「杉原千畝と命のビザー自由への道」は、ノンフィクション絵本という本書と同様の形態をとっており、またどちらも戦争に関連して偉業を成し遂げた人物の物語です。二人の決定的な相違点は杉原氏が政府の命令に背いて人命救助にあたった一方で、藤田氏は政府の命令のもと、爆撃をおこなったことです。しかし結果的に藤田氏が平和のために尽くすことになったという事実は、他に類を見ない興味深い点だと考えられます。「松岡朝物語」は日米・日中友好のために生涯をささげた女性の物語です。日米友好に尽くしたという観点から、類書の一冊としてあげました。しかし、本書の特異な点は、藤田氏が戦時中は海軍軍人として爆撃をおこなった加害者の立場であり、そのため戦後、日米友好のため、ひいては平和のためにつくすことを選んだ葛藤・苦悩の人物だというところです。一貫してヒーローではない点では、どの類書とも一線を画す作品だということができます。