『こどもたちはまっている』『ちへいせんのみえるところ』②ー美しさはどこから?
今回は、「荒井良二さんが名画を模写している」という話から、どんなふうにこの美しい絵本ができあがるのか想像してみたり、『ちへいせんのみえるところ』と『こどもたちはまっている』を比べて、どのようにオマージュされているのかワイワイ考えたり…。何度もページを行ったり来たりしながら、楽しく読み込んでいきます。
…と、まずはここであらすじをご紹介。実は前回うっかり入れ忘れました…ごめんなさい。
【あらすじ】
『こどもたちはまっている』
子どもたちは待っている。海の見える窓辺で、湖畔で、海で、布団の中で、草原で。船が通るのを、雨上がりを、夏の訪れを、ラクダが来るのを、猫が出てくるのを待っている。繰り返される素朴な詞と、大胆かつ繊細な風景画が織りなす、どこかノスタルジックな美しい絵本です。
『ちへいせんのみえるところ』
どんよりと暗い青の空と、その下に広がる草原。真ん中に伸びるのは地平線。何もない草原の真ん中から、「でました。」の一言とともにいろんなものが唐突に登場する。人、ゾウ、飛行船、氷山、クジラ、船、ビル、太陽、そして…。たった一言の詞と、シンプルな絵の絶妙なバランスにより、果てしない想像の世界を紡ぎ出す。"絵と詞が互いに補完し合う"という、絵本の基本概念を見事に体現した1冊です。
さまざまな"名画"
ナナ:これはあれかな。梅雨が終わってこれから夏、みたいなことなのかなぁ。
テン:あ~、季節がめぐってるのかもねぇ。
ここ、モネの絵みたいだね。
ナナ:モネ、確かに。全体的に印象派っぽいね。
テン:それで言うと、第1画面も…。
ナナ:まさに印象派だし、あとあれだね、フォーヴィズム(野獣派)っぽさもあるね。
マヨ:Twitterでトークイベントのレポ※見たけど、荒井さんよく名画を模写してるって。
だから、そういうのもあるんかなって。
※前回の絵本トークvol.12『こどもたちはまっている』『ちへいせんのみえるところ』①参照
テン:そうなんや~!模写をルーティーンにしてる、みたいな?
マヨ:そうそうそうそう!
テン:(Twitterを見て)"寝る前に名画を模写してる"って書いてある、確かに。
ナナ:そういわれてみると、『あさまど』の第10画面とか、ゴッホの《アルルの寝室》を思わせるかも。ハッキリ似てる訳じゃないけど、どことなく。
マヨ:あ、その前の(『あさまど』の)第9画面。『こどもたちは〜』の第6画面の「なつをまっている」と似てる。
ナナ:『あさまど』の方が、ちょっと写実的な感じはするね。
『こどもたちは〜』の方がより印象派っぽいな。
テン:「なつをまっている」の次、詞のない画面。背景は色々描きこんであるけど、モチーフだけで見るとゴッホの《ひまわり》かなぁ。
ナナ:第9画面の雪景色もきれい。
マヨちゃん、何色が重ねてあるとかわかる?
マヨ:どこに?
ナナ:白の下に。
マヨ:荒井さんは色々重ねはるやろなぁ~。
ナナ:黄色と紫と青と…もっともっとあるのかな。
テン:黄色と青は見える。
マヨ:茶色っぽいのもベースに入ってそう。
ナナ:ざわざわっとした感じ?
テン:なんか白もさ、降ってるこの雪玉は真っ白やけど、他はいろんな白を何種類も使ってそう。
マヨ:2種類くらい使ってるんかな~。
でもわからんね、真似してみたらわかるかも。
テン:名画を模写してて、白にこだわってるって言ったら、ユトリロとかも描いてるんかな。
ナナ:してそうしてそう!すごい模写して、めっちゃ技術を自分のものに…。
世界と季節と時間
テン:第8画面のブランケットの月と星の模様、なんかトルコとかを思い浮かべた。
ナナ:あー、シルクロードっぽいね~。
マヨ:歩いてるラクダとかもそんな感じだよね。服装もなんかそんな感じがする。砂漠のキャラバン。
ナナ:ラクダの背中にモチーフがあるね、ペルシャ絨毯みたいな。
テン:この画面の"線"は、布団のしわの線かな?
ナナ:「ラクダがくるのをまっている」だからね。
テン:ヒトコブラクダばっかりやな。
マヨ:ほんまや、フタコブラクダがいない。…この子たち荷物運んでなくない?
テン:ほんまやな(笑)
ナナ:むしろ人が運んでるよね(笑)
マヨ:お散歩させてるのかな?(笑) 序盤に出てきたロバは本運んでたけど。
テン:いろんな世界を回ってるって感じやんな。それぞれの風景見てると、"世界中"って感じがするな~と思って。第5画面のモネっぽいページは、ヨーロッパな感じがする。
マヨ:画面ごとに人の肌の色も違うね。
テン:そうやんな。第4画面の貨物線のページは、左下にヤシの木とか茅葺屋根の家がある。
マヨ:そうやね~。
ナナ:東南アジアとか?
テン:かと思ったら、その前のロバのページは…。
ナナ:ペルーとか?南米かな?
テン:うん。とにかく全体が多国籍な感じ。
ナナ:それじゃあ、第6画面の海とかは、逆に日本っぽいのかな?
テン:ほんで、第9画面やって雪やもんな。
マヨ:結構これ田舎やんな。
テン:ロシアとかかな。
ナナ:ぽいね。こんな真っ白な雪景色。
マヨ:きれいやなー!
テン:次が「おいわいのひをまっている」。
マヨ:ここもかわいいね、素敵だね。
テン:第1画面が朝だと思うけど、時間も動いてるね~。
ナナ:絵本全体を通して丸1日が過ぎてるね。あと季節も巡ってるんかな。
テン:季節も時間もそれから国も、どんどん移ろってるな。
マヨ:第12画面の夕焼け、『ちへいせんのみえるところ』にもあったよね。似た構図で。
ナナ:『ちへいせん〜』の第13画面だね。でもこれ、「でました。」だから朝日じゃない??
マヨ:そうやな、朝日やな!でも表現は似てる。
地平線の真上に半分沈んだ太陽があって、そこから光がバーって放射状になってる。
ナナ:『こどもたちは〜』の方が、色彩がおどろおどろしいね…。美しさと恐ろしさが紙一重というか。
テン:長さんの色彩って、黄色から青にかけてのパターンもあるけど、ピンク・オレンジ・黄色っていうイメージもすごくあるよな。
ナナ:確か、画業後期になるにつれて、あの派手なピンク使うようになっていったって聞いたよ。
テン:へ~。それとはまたちょっと違う感じやけど、この『こどもたちは〜』の夕焼けにもさ…。
ナナ:ね!ピンク入ってるよね!…で、次の第13画面。すごいね、このなんかほのかに暗い感じが。
テン:そうそう。まだ完全なる夜じゃないよな。
ナナ:ね!これから夜ですって感じ。夜の訪れ。
長さんとネコさん
テン:第11画面「ねこがでてくるのをまっている」。
マヨ:これはなんか、長さんの『ちへいせん〜』の画面と似てる。
テン:いや、ほんまそうやな。
ナナ:これは確かに!地平線と草原って構図ね。
マヨ:"でました"やな。
『ちへいせん〜』には猫は出てこないんだけど。
ナナ:でも、"長さんといえば猫"ってイメージ、なんとなくあるもんね。
マヨ:長さんって猫の絵本多かったっけ?
テン:あれやん。『ごろごろ にゃーん』(福音館書店 1976年)。
マヨ:ああー!他には?
ナナ:『なにをたべたかわかる?』(絵本館 2003年)とかね。
マヨ:ああー!あれもかわいい!
ナナ:シュールだよね…。不条理というか、ブラックユーモアというか。
マヨ:あれ好きよ。
ナナ:わたしも好き。
マヨ:じゃあ、『こどもたちは〜』に出てくるこの猫は、長さん(へのオマージュ)っていうこと?
ナナ:ん~、どうだろうねぇ。。。
いろんな場面で、長新太さんの存在が見え隠れする絵本、『こどもたちはまっている』。『ちへいせんのみえるところ』と一緒に読むことで、あーかな、こーかな、と読み応え倍増!ちょっと切ないけど、長さんの絵本ってこんなだよなぁ…と、しみじみ味わう時間も与えてくれる、そんな絵本でもある気がします。
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