気の抜ける絵本③―マヨの場合
今月のテーマは、今の鬱々とした状況を一瞬忘れさせてくれそうな「気の抜ける絵本」。
ラストは、絵本作家マヨの選んだ作品たちです。
有名作家の掘り出し物に、最新絵本も登場しますよー。わくわく。
『えものはどこだ』
(五味太郎作・絵 岩崎書店 1981年)
【あらすじ】
獲物を探して荒野をさまよう狩人。血眼で探しますが見つからない。…でもあれ?よく見ると…?モノクロの探し絵が楽しい1冊。
マヨ:これ。『えものはどこだ』。
テン:え、五味さん※…のモノクロ?
ナナ:へぇ~…ぽくないね。あぁ~、でも線の感じは五味さんだね、確かに。
※五味太郎さんは、とにかく多作で知られる人気絵本作家です。
赤ちゃん絵本の『きんぎょがにげた』(福音館書店 1981年)から、『きいろいのはちょうちょ』(偕成社 1983年)のようなしかけ絵本、科学絵本の『みんなうんち』(福音館書店 1977年)、自由に描き込めるワークショップ型の『らくがき絵本』(ブロンズ新社 1990年)、そして『絵本をよんでみる』(平凡社 1999年)のような評論エッセイ…とまぁ、多作で多彩。
でも、400冊を超える著作の中で、着彩されていないモノクロームの絵本はちょっと珍しい。なので、この作品は少しレアな1冊といえます。
〜マヨ音読中〜
ナナ:かわいい~!
テン:すご~い!はじめて見た。
ナナ:それどこの?
マヨ:岩崎書店の。
テン:『きんぎょがにげた』(福音館書店 1982年)と同じ発想やな。
ナナ:ああ~、『たべたのだあれ』(文化出版局 1977年)とか『かくしたのだあれ』(文化出版局 1977年)とかみたいな。
テン:うんうん
ナナ:何年出版ですか?
マヨ:1981年。
ナナ:へぇ、結構古い。
テン:古いなぁ。
ナナ:今でもあるのかな?再版未定?絶版?
マヨ:うーん…。モノクローム絵本の研究のときに、たまたま見つけて買ったんよ。
ナナ:五味さんでモノクロームかぁ。珍しい。
マヨ:いずれにしても、もう普通には出てないんちゃうんかなぁ。
古本かヤフオクかメルカリか…。
テン:アニメあるやん!
マヨ・ナナ:え、アニメあるの!
テン:DVD出てるよ。
マヨ・ナナ:えー!
マヨ:知らなんだ…。
選んだのは、これが今の状況(コロナ禍)にぴったりかなって。
テン:みんなが…あんまり状況が見えてない感じが?
マヨ:そうそうそう。
テン:うんうんうん
ナナ:なるほどね。
テン:なんかちょっと、風刺的な読み方も出来るかもね、そういう目で見たら。
ナナ:ただのユーモアじゃなく、皮肉と言うか…。
マヨ:うんうん
ゆるくておもしろいんだけどね。
ナナ:五味さんらしいね。
テン:ちょっと毒のある感じがね。
ナナ:ね。すごい、貴重だね。五味さんのモノクローム。
テン:欲しい(笑)
ナナ:普通に絵としてもきれいだしね。
テン:うん!きれいきれい!
ナナ:モノクロームのコントラストすごい。
テン:ほんまの真っ白じゃなくて、そのオフホワイトというか、生成りというか、その色合いもいいね。
マヨ:これ…焼けてる(日に焼けて色あせてる)んかもしらん(笑)
テン:でも真っ白ではないやん?ちょっと色つけてる気がする。
マヨ:あ、でも見返し見たら真っ白やから、やっぱり色付けてるかも。
ナナ:時代を全く感じないよね。
現代でも、新刊として普通に出てそう。
マヨ:ありそうありそう。
ところがまさかの古い絵本でした。
テン:そのだまし絵がいいなぁ。
マヨ:モノクロやからできる、だまし絵。
テン:ほんまほんま、色ついてたら成り立たへんもんな。
ナナ:素晴らしい。
『みつけてん』
(ジョンクラッセン作 長谷川義史訳
クレヨンハウス 2016年)
【あらすじ】
仲良しの2匹のカメが、すてきな帽子を見つけました。ところが帽子はひとつだけ。ほしいなぁ、こっそり取っちゃう…?シンプルでデザイン性の高い絵も魅力です。
テン:同じジョン・クラッセンでも、『どこいったん』(クレヨンハウス 2011年)とか『ちがうねん』(クレヨンハウス 2012年)じゃなくて?
マヨ:『どこいったん』もええけど、今のチクチクしてる状況やったらこれかなと思って。
ナナ:確かに、欲望と理性で揺れてる感じとか。同じブラックだけど、ラストもいい感じだしね。
〜マヨ音読中〜
テン:素晴らしい(笑)
ナナ:ネイティブ※はいいね(笑)
※前回の絵本トークvol.17でもふれましたが、マヨとテンは関西人です。
ジョン・クラッセンのこのシリーズの邦訳は、絵本作家 長谷川義史さんによるコテコテの関西弁がいい味を出しているので、関西人が読むとよりいっそうまろやかなコクが出るのです。
マヨ:シリーズの他の2冊は、テンからもらった。
『みつけてん』も可愛いやろ。
テン:いや~、めっちゃええわ~(笑)
この路線で3冊出すジョン・クラッセンがすごいわ。
マヨ:な。
テン:全然絵柄とかちゃうけど、ヨシタケシンスケ※みたいな。
※言わずと知れた、今大人気の絵本作家ですね。『りんごかもしれない』(ブロンズ新社 2013年)など、日常の物事を柔軟な発想で見つめる作風が人気です。
マヨ:ああ~!
ナナ:どっちも哲学的でユーモアがあって…近い路線よね。テーマが一貫してるのも通じるし。
ちょうど最近、ヨシタケさん、朝の生放送の番組のインタビュー出てたよね。
テン・マヨ:みたみた!(笑)
ナナ:めっちゃ生放送上手になってたな(笑)
マヨ:うちの母も「よ〜しゃべるようになって〜」ゆうて(笑)
テン:テレビ慣れしてるやん!って思った(笑)
テン:初期の『りんごかもしれない』で取材され始めた頃を知ってる人、みんな思ったやん。めっちゃ喋り上手なってる(笑)
ナナ:成長したんだねぇ。。。さすが売れっ子。
マヨ:やっぱ慣れんねやろなぁ(笑)
マヨ:次な、うちも福音館の0.1.2.シリーズでめっちゃ可愛いやつがあるねんけど。
ちょっと持ってくるな!
テン:さすがやな、0.1.2.シリーズ。このジャンル、得意やな(笑)
ナナ:今回、それぞれ選んだ気の抜ける絵本さ、共通点があるとすると…まず詞(ことば)だね。
短くて、口語調で…なんていうか…。単語だけとか柔らかい言い回しとか。
テン:分かるよ。
なんていうか、読み手が意味をすごく考えたり、なんか処理しなきゃって思わなくてもいい。
身体に直接響いてくるというか。
ナナ:そうそう。情報量も少なくて。
見るだけで、(視覚的に)パッて瞬時に分かったりとか。
…ゆるいね、なんかねむいね(笑)
テン:ほんまに眠たい(笑)
今日はほんまに、すぐ入眠に成功するわ(笑)
ナナ:あっはっは(笑)
テン:でもほんと、ふたりに教えてもらった絵本、何冊か手元に欲しいなって思う。
マヨ:おまたせしました!これです!
『でんしゃくるかな?』
(こどものとも0.1.2. 2018年8月号
きくちちき作 福音館書店)
【あらすじ】
男の子と動物たちが電車を待っています。電車来るかな?…来たー!!!ばいばーい。また電車来るかな?…来たー!!!ばいばーい。繰り返しが心地よい赤ちゃん絵本です。
マヨ:これが最近可愛かったんよ。
〜マヨ音読中〜
ナナ:マヨの音読、仕上がってるね(笑)
テン:(電車が来ても)乗らないんかい!(笑)
マヨ:待ってるだけやから(笑) むっちゃかわいくない?
ナナ:まんま、"0.1.2歳児"ってそうだよね(笑)
電車大好きで、来たら"きたー!"って急にハイテンション。で、"ばいばーい"ってお見送り。
マヨ:同じ きくちちきさん、これも可愛いよなぁ。
『もじもじこぶくん』
(こどものとも年中向き2016年4月号
小野寺悦子文 きくちちき絵 福音館書店)
【あらすじ】
こぶたのこぶくんは恥ずかしがり屋さん。アイスクリーム屋さんに行きますが、もじもじしてなかなか注文できません。そこへ現れたのは…?
こぶくんの気持ちと のびのびした絵が絶妙にマッチしたお話です。
ナナ:あ、わたしも持ってるー!
月刊誌で出たときに買ったから、ハードカバーじゃないんだけど。
ハードの表紙、真っ白シンプルで可愛いよね!
〜マヨ音読中〜
ナナ:きくちさんいいねぇ、幸せ。
テン:いるよな~、こういう子。
マヨ:ええやろー。癒されるよなぁ。
テン:いやー、今回は全部ほんま癒されたわ。ゆるい、ねむい(笑)
ナナ:ねぇ、最後に『でんしゃくるかな』もう一回読んで(笑)
この後は、アンコールで癒しをおかわりした3人。終始笑いが絶えず、最後はゆるゆるいい感じに眠くなって、座談会は終わりました。
今回3人が持ち寄った絵本たちを並べてみると、ちょっとだけ共通点が見えてきます。シンプルな詞や、のびのびとおおらかな絵、単純明快なストーリー、ちょっと皮肉まじりのユーモア…ここに、なにか癒しを生み出すヒントがあるのかも??
なにはともあれ、憂鬱な毎日がほんの少しリセットされた気がした今月の座談会。みなさんも今だからこそ、自分だけの「気の抜ける絵本」をぜひ探してみてください。気持ちをほぐしてくれる、絵本の不思議な力を実感できること、間違いなしですよ〜♪♪