りんごのつぶやき(シロクマ文芸部)【ショートショート】
今回はこちらのスピンオフ作品になります↓
りんご箱から鈍色の空を見上げて僕はみゃぁ~と鳴き、まだ柔らかい爪でカリカリと箱底をひっかきました。
箱が深くて小さな僕は外に出られないのです。
何度かこちらを覗く人の顔がちらりと見えたけど僕と目が合うと困った顔をして去っていきました。
ぽつりぽつりと冷たいものが顔を濡らし始めたころ、ある人が僕を拾いあげました。
「寒かったね、大丈夫かい」
彼はしていたマフラーで僕をくるむと
片手でスマホを操作して僕の写真とメッセージを誰かに送りました。
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猫を拾った
助けて
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これが彼との出会いでした。
彼の家についてしばらくすると血相を変えた大荷物の人がきました。
これが彼女との出会い。
彼女が持ってきたふわふわのドーム型のベッドがとても温かくて天国にいるように落ち着いたのを覚えています。
それから、彼女は時々彼の家に来て僕の相手をしてくれました。
正直、猫の扱い方は彼より彼女の方がずっと上手いので僕も彼女が来る時をいつの間にか心待ちにしていました。
もちろん彼も不器用なりに愛情をもって僕を大切にしてくれるのは十分感じています。そして、その愛情は僕だけではなく彼女にもあって、そして、彼女もきっと.…
そうやって彼女が行ったり来たりしながら数年が経ったころ僕は彼女についに言ったのです。
「そんなに好きならみんなで一緒に暮らしたらいいじゃん」
今まで「何となく通じたかな?」と思う事は何度かありましたがこの日ほどはっきり伝えられた日はありません。
それから彼女は彼の部屋で暮らすようになり
そして、僕たちは去年、本当に家族になりました。
そういえば!
実は、もうひと騒動ありました。
お人よしの彼は、「○○みかん」と書かれたみかん箱に入った小さな猫をまた拾ってきたのです。
「また簡単に命を拾ってくるなんて!」
と彼女は怒った口ぶりでしたがどこかご機嫌でした。
りんごの箱から拾われた僕は「りんご」なので、みかん箱の新入りは「みかん」と名付けられました。
やんちゃなかわいいヤツで、毎日おやつのちゅーるを取り合いながらわいわいしています。
そして、そして、
彼女のお腹の中にはもう一人家族がいます。
彼女の膝にのりお腹に耳を当てもう一人の家族の鼓動に合わせてごろごろと喉を鳴らし僕は今夜も交信しています。
大きくなったら一緒にちゅーるの取り合いをしよう(=^・^=)
#シロクマ文芸部 参加作品です。
最後までご覧いただきありがとうございます。
また、部長の小牧さん今週もありがとうございます。
冒頭でもありましたように、今回は別のお題で書いた作品のスピンオフ的な物語になりました。もしよろしければそちらもご覧いただければ幸いです(*^。^*) ↓
前回のシロクマ文芸部参加作品はこちら↓
ネコ繋がりということでこちらもよかったらご覧ください↓