下りエスカレーターの思い出
下りエスカレーターが苦手だ。
特に都会の駅のホームと地下通路をつなぐ、とても長くて急勾配で一定のスピードでゆっくりと奈落の底に落ちていくようなヤツ
「荷物」と「自分」を奈落へとうっかり落とさないようにとカラダにぐっと力がはいる。
最近は空けない方向性のようだけど、急ぐ人のために一応空けた片側を歩く人と肩がぶつかってヒヤッとしたこともあった。
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上京したばかりのころは
駅には今ほどエスカレーターは設置されてなかったし(若かったのでそもそも必要としてなかった)育った田舎街はエスカレーターがある施設は一つか二つしかないような時代だった。
子供の頃、母とその施設に出かけた時、
下りのエスカレーターで「最初の一歩」のタイミングが計れず、ぐずぐずする私を、母は大きな声で叱咤して、手を引いて無理に乗せようとした。
でも、すくんでいた足では上手く踏み出せずに
膝が折れたまま、少し引きずられるように乗ることになってしまい、それが、さらに、母の機嫌を損ねることになってしまった。
下りのエスカレーターも母も怖かった。
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大人になって
老いた母と再び暮らすようになって
致し方なく下りエスカレーターに乗らなければならない状況が一度あった。
「大丈夫?」と声をかけたら
「おっかない(怖い」と言う。
(なんだよ。それ。)
でも、乗らないわけにはいかないので
人通りがなくなったタイミングをみて、ゆっくりと手を引いて「いっせいのーでっ♪」と声を合わせて一緒に踏み出す。
なんとか無事に乗れた母は意外にもとても楽しそうで、遊園地のジェットコースターに乗った後の高揚感のようなものも見えた。
「はぁ〜
おっかなかった〜(怖かった)」
(本当に なんだよ それ)
なんともシャクに触るとてもいい笑顔だった。