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懺悔
これはフィクションである。
決して、己の犯した罪を洗いざらい吐いて楽になろうというものではない。
さて、日本の民法3条の1によれば、権利能力は通常、出生によってすべての人が取得する。
つまり、日本では生きて生まれなければ人権は発生しない。
生きて生まれてしまった者には、人権が与えられる。
まあつまり、ここから先の閲覧には注意が必要である。
精神的に落ち込んでいる者や、命を粗末にするような話が苦手な者は読まないことをオススメする。
感情なく、文字列を目を滑らせるだけで理解しない読み方がいいだろう。
ここに書くことについて、真に受けると傷つく可能性があると先に書いておく。
書いたのでクレームは受け付けない。
繰り返すが、これは雰囲気だけの痛々しいフィクションである。
書きたいことの方向性が定まっていないため、始終ふわふわしているが許してほしい。
なんかこういう雰囲気の話が突然書きたくなったのだ。
ゆあみまよるのお送りする、
懺悔。
あのときの自分は、きっと何かに取り憑かれていたのだと思う。
名前しか知らない相手に身を委ねて甘い声で囁く。
「大丈夫」
結果、何も大丈夫ではなかった。
一夜の過ちは、徐々に身体に不調をもたらす。
動きたくないのはいつものことだが、いつにも増して全身が気怠い。
嫌な予感がした。
そんなはずはないと自分に言い聞かせた。
言い聞かせるほどには、気づいていた。
簡易検査の結果は、望まない結果になった。
相手の名前はAと仮称しよう。
Aにすぐさま連絡を入れた。
Aからは一言。
「産みたい?」
というようなことが返ってきたと思う。
対する返答は早かった。
「産みたくない」
そこに迷いはなかった。
自分の身体が日に日に蝕まれていくような気さえしていた。
それくらいに絶えず下腹部に違和感があった。
苦しいのが嫌だった。
それだけが理由ではない。
きっと育てられないから。
よくニュースで、子どもの車内置き去りの痛ましい事故について流れるだろう。
あれを見るたび、自分も同じことをしてしまうのだろうと思っている。
楽になりたい。
責任から逃れたい。
病院で正式に検査を受け、選択したのは中絶だった。
過去に、婚約をした仮称Bのことを思い出していた。
あのまま結婚していたら、きっとこのタイミングだったのであろうと。
それは、望まれた結果だったのだろうと。
相手も、選択も、違う世界線で、この事実だけが重なってしまった。
人工妊娠中絶。
日本では、初期中絶と中期中絶とに分けられている。
4週から11週と6日目を初期、12週から21週と6日目を中期と呼ぶ。
早く手術を受けたかった。
授かったもの?
とんでもない。
ご飯がろくに喉を通らない。
採血されながら気を失いかけた。
ただひらすらの異物感。
胃が圧迫され、足元がふらつく。
4週目まで長かった。
その間に遠くへ旅行に出かけた。
案の定体調を崩し、旅行どころではなかった。
幼子とその母親の霊を斬った伝説を残す刀に、
その身にこの世に産み落とされない子を宿した人間が会いに行くとは。
こういう身勝手なところが、婚約破棄される結果に繋がっているのだろう。
手術当日。
誰にも知られずにひっそりと病院のベッドへ横になり、呼ばれるその時を待つ。
手術台に乗り、麻酔は弱いものにしてもらったが、これは失敗だった。
まどろみ、天上にいるような心地がし、目の前には神がいた。
意識が戻ると、周りに押さえつけられて嘔吐する自分がいた。
また、ベッドに横になり回復を待つ。
丸一日。
経った一日ですべてが終わった。
向かい側か、隣側か、産声が遠くで聞こえた。
涙が少しだけ出た。
辛うじて生じた母性だったのか、
惨めな自身に嫌気がさしたのか。
あれから変わったことといえば、花粉症が治った。
体質が変わるらしい。
確かに、細胞が書き換えられている感覚があった。
まあ、治ったといっても、一時的にだったが。
今ではすっかり元通りに涙と鼻水を垂れ流している。
花粉症ではないのか尋ねられて、
引っ越して環境が変わったから治ったと答えた。
身体の不調も、何もかも全て環境の変化のせいにした。
どこまでも身勝手で、
だから、恥ずかしい。
日本では、生きて生まれなければ人権は発生しない。
自分の行いは罪ではないと、いつまでも言い訳をしている。
これからもずっと。