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Day1 稚内~網走(後編)【メンタル病んだので最長片道きっぷの旅に出ました】
↓前回はこちら
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12時28分(定刻なら12時04分)、幌延から2駅目の雄信内駅に停車。
こちらも木造駅舎が残っていることで人気の駅だったが、前回紹介した抜海駅や隣の南幌延駅などと同様に今年3月15日のダイヤ改正での廃止が予定されている。いずれの駅も近年は沿線自治体が観光資源として維持管理する形で存続してきたが、それも限界を迎えつつある厳しい現状が伺える。
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雄信内〜糠南間の前面展望。この辺りから暫く天塩川の蛇行に沿って走る。前方の見える普通列車に乗ると、山と川に挟まれた狭隘な場所を走る区間も多いことに気付く。
トンネルも少なく景色はとても良いのだが、一方でスピードアップや防災上の障害ではありそうだな……などと余計なことを考えてしまった。
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12時34分(定刻なら12時11分)、糠南駅に到着。板張りのプラットホームに物置を改造した待合室……という簡素な姿で有名な駅である。
近年では愛好家や町により当駅で開催されるクリスマスパーティーが話題にもなっている。いつか参加してみたい気もするが、この糠南駅も厳しい状況に置かれていることに違いはない。いつかと言わず今年にでも参加するべきだろうか?
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音威子府駅の手前辺りだったろうか、線路に侵入するシカに遭遇。厄介なことになかなか線路外に逃げてくれないため、列車は追いかける形で徐行を余儀なくされる。前日の特急列車でも徐行運転が続く場面があったが、前方で同じ光景が繰り広げられていたのだろう。
動物の侵入で列車が数十分も遅延するだなんて、伝聞しても俄かには信じられなかったが、実際に見ると納得である。終点の名寄に着くまでこんな場面が2, 3回あった。
この後13時30分頃(定刻なら13時08分着)、難読駅名としても有名な音威子府駅に到着。当初はここで途中下車する予定であった。
同駅は、黒い蕎麦が特徴の「音威子府そば」を提供する駅蕎麦店「常盤軒」で有名だったが、数年前にご主人の逝去により閉店してしまった。しかしながら、駅近くのゲストハウスで同様の音威子府そばが頂けるという情報を知り、そこでランチにする予定だったのだが、この日は休業日のようだったので諦めて進むことにした。先程の幌延駅の例といい何とも間が悪い。
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14時00分頃(定刻なら13時33分)、恩根内駅に停車。この旅の約1ヶ月半後、2024年3月のダイヤ改正で、次の初野駅などと共に廃止された駅だ。残念ではあるがしっかり写真に残していた当時の自分を褒めたい……
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14時40分頃、筆者を乗せた普通列車(4326D)は定刻より20分程度遅れて終着・名寄に到着。接続する旭川行きの快速なよろ8号は14時42分の発車で、乗り換え客を待ってすぐに発車していった。私はこれには乗らずここで途中下車した。
ここで、JRの乗車券の途中下車制度について説明しておきたい。
(鉄道・旅行マニアの方には「釈迦に説法」ではあるが、筆者の体感では知らない方もそれなりに多い印象を受けたので、文字数を割かせていただきたい。)
JRの乗車券は、条件を満たせば途中駅で乗車券を回収されることなく改札外に出る(出場する)ことができる。これを「途中下車」という。日常会話の文脈で、単に旅程の途中駅で(その駅までの運賃を都度支払って)下車することを「途中下車」と言ったりもするが、ここで言うのは乗車券の制度上の話である。
この制度を上手に利用すればより柔軟に、かつ安価に移動ができる場合がある。かつて準備編で、長距離で利用するほど1km当たりの運賃が安くなる「遠距離逓減制」について述べたが、途中駅までの運賃を都度払うよりも最終目的地までの乗車券を購入して途中下車をする方が、(例外もあるが)得てして安価になる。
この途中下車ができる条件は、
発駅~着駅までの距離(営業キロ)が101km以上
東京・大阪などの都市圏で定められた大都市近郊区間内で完結しない
特定都区市内(「東京都区内」「大阪市内」など)発着の場合、その特定都区市内以外
などがあるが、基本的に券面に「下車前途無効」と書かれていなければ、有効期間内でかつ後戻りをしない限り何回でも途中下車が可能だ。
自動改札に対応した乗車券であれば、上記の条件を満たしていれば途中駅で自動改札機に投入してもちゃんと返却してくれるし、有人改札利用時には途中下車したことを証明する途中下車印を券面に捺してもらう。この下車印集めは最長片道きっぷの旅においても醍醐味と言えるものだろう。
当然ながら最長片道きっぷはこれらの条件を満たしているから途中下車ができるのだが、そもそも日数をかけて行う最長片道きっぷの旅はこの制度がないと成立しないとも言える。さもなくば私の旅はここ名寄で乗車券を回収され終了していたであろう……
改札にて、私は最長片道きっぷの別紙(経路が記載されたA4用紙)の上部に途中下車印を捺してもらおうとお願いしたのだが、当駅の下車印は一般的な判子のようなタイプではなく日付印のように挟んで印字するタイプで、A4用紙の上部に文字が逆にならないよう捺印してもらうのに難儀した。上手く対応して下さった駅員氏に感謝である。
ついでに「このきっぷ(最長片道きっぷ)の利用者は多いですか」と尋ねると「この列車(4326D)でよく来られます」と教えてくれた。
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ここ名寄で遅めのランチを頂くつもりだったのだが、駅付近には当時営業している飲食店が殆どなかった。最寄りのコンビニ(セイコーマート)も徒歩で15分程度と少々遠い。
そんな中見つけた洋菓子店「なよろ菓子工房ブラジル」で、パンと焼きドーナツを購入。地元では有名なお店のようだ。看板にもある「なよろプリン」を買わなかったのを後悔している。
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16時20分頃、キハ54形2両によるサロベツ4号の代替臨時列車がやってきた。快速列車扱いのため特急料金は不要だ。これで一気に旭川を目指す。
定刻ならば15時48分発なので30分程度遅延していることになるが、無事到着してくれただけでも御の字である。しかし、私には懸念していることがあった。
この後は石北本線に乗り換えて網走に向かう予定だ。もしこの列車が定刻通りなら旭川到着は16時49分、よって17時07分発の網走行き特急大雪3号に乗り換えができる。だが、このままの遅れではそれに間に合いそうにない。接続を取ってくれる可能性もあるが、果たして……
発車後すぐ、旭川駅での接続についての案内放送が流れたが、無情にも大雪3号との接続は無しとのことだった。
後続の特急オホーツク3号でも網走までは行けるのだが、到着が2時間以上も後になってしまう。また特急大雪号は今年3月のダイヤ改正で特急列車としては廃止、快速列車化が予定されている。せっかくなら乗車しておきたかったのだが……
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名寄駅を出発してすぐ、左に「SLキマロキ編成」が見えてくる……のだが、冬季はカバーが掛けられている。
「キマロキ編成」とは豪雪地帯で見られた蒸気機関車による除雪車編成である。名寄市北国博物館の展示の一つで、廃線になった名寄本線の線路上に編成そのまま、現役さながらに展示されているようだが今はその姿を拝めない。例年4月末~10月末頃まで囲いが外されるようなので、その頃に再訪したい。
名寄から先は列車の速度も上がるが、旭川駅には遅れを引きずったまま17時20分頃に到着。大雪3号に乗り継げなかったのは少し痛いが、登場から40年近くが経ち引退も囁かれるキハ54形の快走を体験できたのは、それはそれで貴重だったかもしれない。
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名寄15:50→16:20頃発 ~ 旭川16:45→17:20頃着
キハ54 506 + キハ54 505
ところでこれから乗車する石北本線は、正確に言えば手前の新旭川駅で宗谷本線から分岐し、最長片道きっぷの経路もこの通りに表記されている。しかし特急列車は新旭川には停車せず、現実的にも区間外である旭川駅まで乗車して乗り換えるしかない。
よってこのような分岐駅を通過する列車を乗り継ぐ場合の便宜を図って、区間外である新旭川~旭川間の往復乗車が特例で認められている。この特例を「区間外乗車」といい、ここの他にも同様の区間で具体的に定められている。但しこの場合、旭川駅で改札を出ることは(乗り越し精算をしない限り)できない。
次のオホーツク3号の時間までは1時間以上ある。私は新旭川~旭川間の乗り越し精算(250円)をして外に出た。
ところで、上記のような場合で旭川駅で乗り越し精算をして出場すると「新旭川駅 下車代」という下車印が押印される。他の駅でなかなか見ないものだが、ここ以外には存在するのだろうか?
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大雪3号には乗り損なったが、一方で楽しみもあった。通常、特急オホーツク・大雪号はキハ283系車両で運転されるが、この日のオホーツク3号は観光列車にも用いられるキハ261系5000番代「ラベンダー編成」で運転される予定とのことだった。同編成にはラウンジ(フリースペース)も備えられ、終点網走までの4時間弱も快適に過ごせそうだ。
駅前イオンのスターバックスで小休止した後、再び駅へ。しかし、案内モニターに表示されるオホーツク3号の編成は3両。あれ?ラベンダー編成は5両では……?
そして、札幌から当の列車が到着。
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旭川19:08発 ~ 網走22:56着
キハ283系3両(キハ283-14 + キハ282-110 + キハ283-13)
自由席特急料金 ¥2,420
ラベンダー編成じゃない……だと……!?
オホーツク3号は通常のキハ283系でやってきた。もしかして運転日を見間違えたか……と思ったが、1月28日で間違いはない。おそらく石北本線も大雪で運休が続いた影響で、車両の運用が変わったのだろう。単に通常通りの車両になっただけなのではあるのだが、期待が大きかっただけに残念である。
ちなみに元々このキハ283系は主に札幌〜釧路間の特急おおぞら号で使用されていた車両だ。筆者も未だにそちらの印象の方が強く、オホーツク号として走る姿には慣れない。
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21時09分、遠軽駅に到着。列車の進行方向が変わる「スイッチバック」の駅だ。
停車時間中に外に出てみた。隣には、’24年3月のダイヤ改正で石北本線の定期列車から引退したキハ40が停車していた。先程はラベンダー編成に乗れず残念だ……と書いたが、このキハ283系も去就が注目される車両であり、その乗車が貴重な体験だったと言われる日がそう遠くないかもしれない(実際、特急大雪の快速列車化の一因はキハ283系の老朽化だという説もある)。
実はこの石北本線も初めて乗る路線であり、当初は1日かけて様々な列車を乗り継いで辿る予定だったが、予定が3日も押してしまったため諦めて特急で一気に通過することにしたのである。道東の人里離れた山岳地帯を行く車窓風景も今回はおあずけだが、背に腹はかえられない。
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オホーツク3号は概ね定刻通りに網走駅に到着。駅を出る頃には23時を回っていた。
駅前には東横インとルートインが並んで建っている。大浴場のあるルートインにも惹かれたが、もう夜も遅く滞在時間も短いので、今回は価格を取って東横インを選択した。シングル一泊で7,843円だった。ちなみに網走にはドーミーインもあるが、駅から少々離れているため今回は見送った。
私はここで「東横INNクラブカード」の会員登録をした。入会金1,500円で宿泊料金5%引きなどの特典が受けられるようになる。今後の道中でも東横インを利用する機会があれば役に立つだろう。
初日からなんとか予定を巻いて、稚内から網走まで489.7kmを移動。まるで地の果てから地の果てまで移動したような一日だった。
次回は、釧網本線で釧路を目指す。
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現在地 網走
稚内から 489.7km
新大村まで あと 10,365.9km(踏破率4.5%)