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小説(8):革命

運動場へ着くと、サッカー部や野球部が練習をしていた。
野球部はベースを回って走塁の練習、サッカー部はドリブル練習をしているところだった。
それぞれの練習場所の横には制服の生徒が四~五人ほど見学しており、恐らく彼らも僕らと同じようにいい感じの部活が無いか探しているのだろう。
僕らはまず野球部の見学の集団に交じり雰囲気を確かめることにした。

ベースを駆け回る野球部員は揃いも揃って小麦色に焼けた肌をしており、勿論頭は皆丸坊主だ。
ベンチからは小太りの中年のいかにもと言うような顧問が
「もっと早く回らんかぁ!」
と檄を飛ばしており、檄を飛ばされた生徒はまるで軍隊のようにピシッと背筋を伸ばし、大きな声で
「すいません!」
と叫んでいる。
その光景を見た僕はチラッと横の和紀を見ると、同じタイミングで和紀もこちらを振り向き、
「あの顧問に俺らが入部するかもと思われないうちに早く抜けよう。」
と言うので、
「同じ事言おうと思ってた。」
と笑い返し、僕らはそそくさと列を抜け出してサッカー部の見学の列へと向かった。

驚くことにサッカー部は野球部とは正反対の雰囲気だった。
部員はそこそこ多いものの、上級生と思われる連中がだらだらとドリブルをし、声を出すどころかぺちゃくちゃと世間話をしている。
顧問の先生は怒らないのかと思いきや、顧問はベンチでコーラを飲みながら今日発売のスポーツ紙を凝視していた。
チラッと和紀を見ると、こりゃダメだという顔をしていたので、僕らはすぐに列を抜け、正門へと歩いた。

「いやぁ、これじゃあ本当に齋藤さんを見に行っただけじゃないか。」
と呟くと、
「まぁ俺の本来の目的はそれだけどな。」
と和紀が二ヒニヒ笑うのでつられて笑っていると、やっぱりこうやってのんびりと放課後を過ごすのもなんだか悪くない気がしてきた。
やはり僕らは部活に入らない星の下に生まれてきたのだ。

そう思った。

「でも・・・俺、陸上部いいかもって思ってる。」
いきなり和紀が真面目な顔でそう言い出したので僕は驚いてしまった。
「サッカー部とか野球部より全然まともな部活じゃん。俺、走るの嫌いじゃないし。」
おいおい、野球部に怒られるぞ。
それに長年お前と付き合ってるけど走るのが好きなんて聞いたこと無いし、まともじゃないやつが「まとも」と言うと一層まともじゃなく聞こえる。
「まじ?」
「割とまじ。」
「まじか・・・」
これは困った。
僕は陸上部にはほとんど興味がないのだ。
そうか・・・何かしら決めないとな・・・と思いながら、決心のついた表情で歩く和紀の横で僕は俯きながら正門を出た。

(9)へ続く・・・


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