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『転生しても憑いてきます』#54

「排除」
 すぐさま番兵が斬りかかろうと走った。
 斧を横に構えて、腹を引き裂くつもりだったらしいが、その前に蜘蛛みたいな長い腕にあたって吹っ飛んでしまった。
 その威力は凄まじく、壁を突き破って、外に飛び出てしまった。
「グオオオオオオオオ!!!!」
 怪物は速度を変えずに猛進していた。
 ようやく脚が動けるようになったので、死ぬ気で走った。
 しかし、相手は僕よりも多くの腕や脚がある。
 見えないが、ムカデみたいに追いかけて来ているのは容易に想像できる。
 一か八かキグルミの時と同様に、果実を投げてみようか――いや、避けられたらおしまいだ。
 足はもう破裂しそうなくらい痛いが、止まれば即死は確実。
「うおおおおお!!!」
 叫びながら脚を動かしていると、ドアを見つけた。
「ボラッ! ボラッ!」
 また校舎に施錠されないように着く前に魔法でドアを攻撃する。
 校舎は何も反応はしなかったが、勝手にドアが開いた。
 勢い良く飛び出すと、中庭に出た。
 もしかして教員棟がある所かなと一瞬疑ったが、道がぬかるんでいなかったので、安心して校舎に向かった。
 ドアは開いていたため、容易に入る事が出来た。
 背後から相変わらず二又の怪物の咆哮が聞こえてくる。
 生徒寮に入った瞬間、振り返ったら、無数の手脚を駆使して向かってくる怪物が見えたので、再び前をむいて走った。
 確か催し物が開かれるのは食堂だって、言っていたっけ。
 食堂への案内の看板がないか探す事にした。
 そういえば、前にこれと似たような事をしたな。
 なんだっけ?
 あぁ、そうだ。
 教室でジャーメラや同級生達の顔がグレイになって飛び出し、おかっぱ怨霊や魔女鼻の怨霊達に追いかけられた時だ。
 その時は出口を探していたけど……状況は何も変わっていないな。
 人がたくさん死んでいるだけで――って、こんな事を考えている時間はない!
 反省はここまでにして、一刻も早く食堂を探さないよ。
 怪物の咆哮は未だに続いているし。
 足音も聞こえるから、たぶん侵入して追ってきているのだろう。
 早く見つけないと、行き止まりにぶち当たったら最悪だ――あっ、食堂の看板を見つけた。
 角を曲がった先にあるらしい。
 どうやら一階は倉庫や調理場などが並んで、それ以上の階は生徒達の部屋となっているらしい。
 廊下にある看板を一つ一つ確かめながら角を曲がった。
 すると、二又の怪物は速度を緩められなかったのか、勢いそのままに通り過ぎてしまった。
 これはチャンスだ。
 僕はすぐさま『食堂』と書かれた看板を探した。
 えっと、『保健室』じゃない。
『倉庫』でもない。
 しょく――あった!
 『食堂』と書かれた看板を見つけ、すぐさまドアを開けて中に入った。
 間一髪、怪物の咆哮が迫っていた。
 しゃがんで、息を潜める。
 ドスドスと僕が来た方向から先まで通り過ぎて行くのが耳で分かった。
 僕は音を立てずにホッと息をつくと、慎重に立ち上がった。
 中は薄暗かった。
 わずかにテーブルや椅子が置かれているのが見えたので、ここがそういう所である事は分かった。
 が、とても催し物が開催されている雰囲気は感じられなかった。
 僕以外に誰もいなかったからだ。
 近くにランタンがないか探したが、見つからなかったので、仕方なく自分の眼を頼りに進む事にした。
 音を出さないよう、り足で壁伝いに歩く。
――カーン、カーン、カーン
 すると、いきなり静寂の空間に反響するぐらいの鐘の音が鳴った。
 悲鳴を上げそうになるくらい驚いたが、万が一何かが潜んでいても気づかれないよう、声を押し殺した。
「まもなく開演のお時間です。招待客の皆様は食堂でお集まりいただけますよう、よろしくお願い致します」
 何だか読まされているような堅苦しい言い方で放送は終わった。
 ケーナの事については一切触れていなかった。
(早く探さないと)
 そう思った時、微かに呻き声が聞こえてきた。
 僕は瞬時にケーナだと思い、声のボリュームを落として「姉さん?」と言った。
 すると、聞こえたのか、また「ンー! ンー!」と声がした。
 ケーナはこの食堂のどこかに監禁されているのだろうか。
 呻き声に耳をすませながら進んでいくと、『貯蔵庫』という看板がぶら下がっているのを見つけた。
 個室らしく、ドアが付いていて、耳をピッタリくっつけると、微かにあの声が聞こえた。
 ドアノブに手をかける。
 ガチャリと開いた。
 やった――と一瞬思ったが、人質が監禁してある部屋の施錠が疎かになっている事に疑問が浮かんだ。
 もしかしたら罠かもしれない。
 万が一に備えて、ポケットにしまってある果実を潰さないように掴んで、いつでも投げれる準備をした。
 片手でドアを開け、恐る恐る中に入る。
 貯蔵庫は少し寒かった。
 目に見える限りでは、棚が置かれていて、瓶や木箱が並んでいた。
 呻き声は奥の方だった。
 背後にも警戒しつつぶつからないように、歩いた。
 幅は狭いが、奥行きは広かった。
 進んでいくにつれて、段々声も大きくなっていった。
 走りたい衝動を抑えて慎重に歩いた。
 そして、椅子に縛られているケーナを発見した。
 明かりはついていないので、ちゃんと見えないが、おしゃぶりが見えたので彼女だと思った。
「姉さん!」
 僕は大股で近寄って、目元を覆っているハチマキをほどいた。
 なぜ手脚ではなく眼なのか――もし顔を見て別人だった場合、万が一襲われても身動きが取れないように、先に目元を外したのだ。
 顔を見てみた。
 完全にケーナだった。
 ケーナはおしゃぶりをチュパチュパしながら僕を見ていた。
「姉さん、助けにきたよ」
 僕はそう言うと、縄に縛られている手をほどいた。
「チュパッ!」
 ケーナは手脚の自由がきいた途端、僕に抱きついてきた。
 僕は姉を救えた喜びで、胸がいっぱいになった。
 よほど嬉しかったのだろう、ケーナはいつにも増して力が強かった。
「姉さん、痛いよ……いた、いたたた!!」
 段々背骨が折れるかと思うくらい強くなっていき、僕は抜け出そうとした。
 が、両手が通り抜けてしまった。
「……あ」
 僕が気づいたのと同時に、僕を抱きしめた奴が奇怪な笑い声を上げていた。

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