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『転生しても憑いてきます』#21

 その叫びが聞こえたかと思った瞬間、ケーナが勢い良く僕を抱きかかえるように体当たりしてきた。
 と、同時にガラスが散乱するような音が聞こえた。
 訳が分からぬまま、テーブルの上に料理と酒のグチャグチャした感覚を背中で感じた。
「ケーナ姉さん、大丈夫?」
「う、うん……」
 ケーナはすぐに僕を解放すると、身体に怪我がないか見ていた。
 服が汚れただけだと分かると、ホッと安堵していた。
 が、今度は腕を引っ張られてしまった。
 すると、さっきまでいた場所にテーブルが落ちてきて、バラバラになっていた。
 これにさっきまで陽気だった飲ん兵衛やウェイターはパニックになっていた。
「なんだ、なんだ?!」
「《《勝手に動いているぞ》》?!」
「に、逃げろおおおお!!!」
 悲鳴と共に、一人でに浮かぶジョッキや樽が僕らの方に向かっていた。
「ハァ!!!」
 すると、一瞬で砂のようにサラサラになってしまった。
「カース、大丈夫か?!」
 声のした方を見ると、カローナが剣を構えていた。
 もしかして、砂のようにしたのは彼女なのか?
 だとしたら、凄い剣技だ。
 が、今はカローナの卓越した剣術に感心している場合ではない。
 さっき酔っ払いは『一人でに動いていた』と言っていた。
 これが出来るのは、僕が思いつく限りアイツしかいない。
「シシシ!」
 そう思った時、ゾクッとする笑い声が聞こえてきた。
 天井を見ると、おかっぱ頭の怨霊が僕を見下ろしていた。
 やっぱり、お前か。
 僕はキッと睨むと、ソイツはあのキツネっぽいハンドサインをすると、壊れてバラバラになったテーブルの木材を浮かび上がらせた。
「う、浮いている?!」
 キャーラが素っ頓狂な声を出して驚いていた。
 変わらず、怨霊は見えないみたいだ。
「シシシ!」
 ソイツは腕を振ると、木材が僕の方へ飛んできた。
「危ない! ノラノローラ!」
 キャーラの詠唱が聞こえた直後、とんでもない水量が僕の目の前をを通り過ぎ、木材があっという間に奥の壁に激突した。
「シシ……」
 おかっぱ怨霊は悔しそうな顔をすると、両手をキツネっぽい形にした。
 すると、木材や割れた皿、樽などのガラクタがどんどんくっついていき、天井まで届くほどの怪物が現れた。
 なんて事だ。
 まさかここまで作れるとは。
 さすがの姉達も突然の登場に呆気に取られていた。
「グオオオオオオオ!!!!」
 怪物は雄叫びを上げると、木材の腕を振り上げた。
「ハァ!」
 カローナがすぐに剣でそれを受け止めた。
 怪物の力は強いらしく、拮抗していた。
「は、早く外に出ろ!」
 カローナに叫ぶように言われて、我に返ったキャーラ達は僕をヒョイと抱きかかえると、一目散に外に出た。
 外には野次馬や騎士達がわんさか立っていた。
 誰も彼も困惑しているようだった。
「団長は?」
 騎士の一人がカローナを探していたので、キャーラが事情を全て話すと、リーダー格の騎士が他の騎士に突撃の号令をした。
 その直後、酒場の屋根から何かが飛び出してきた。
 鼓膜が壊れそうな衝撃と音が辺りを襲い、たちまち野次馬は叫びながら逃げ出してしまった。
 逆に騎士達は一斉に構えて警戒しながら近づいていくと、そこにはガラクタの山が出来ていた。
「なんだこれ……木や皿ばっかだ!」
 騎士の一人がガラクタの中から細長い木材を取り出して匂いを嗅いだ。
「酒の匂いがする……酒場のか?」
「そうだ」
 突然凛々しい声が聞こえたかと思い、その方を向くと、カローナが歩いていた。
 無事で良かった 
「団長!」
 騎士達が彼女を見るや、一斉に敬礼した。
「恐らく何者かの襲撃だと考えられる。探せ!」
「ハッ!」
 カローナに言われた兵士達は散り散りに走っていった。
 僕はこの光景に見覚えがあった。
 あの時、母の裁判をして僕がトイレで襲撃された時と似ていた。
 何だか胸騒ぎがした。
 とても嫌な予感がする。
「カース」
 僕の不安が顔に出ていたのか、カローナが心配そうな顔をしていた。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
 僕は無理やり笑って元気なフリをした。
 が、カローナはお見通しで、「大丈夫だ。私が付いている」と僕の頭を撫でた。
 すると、いきなり口の中に何か突っ込まれた。
 チュパチュパという音がするので、たぶんケーナのおしゃぶりだろう。
 チラッと見ると、ケーナはムッとした顔をしていた。
「ケーナ、自分で咥えたものを人の口に勝手に突っ込むんじゃない」
 カローナがケーナにそう注意して、僕の口から外そうとした。
 が、僕はチュパチュパしながら首を振った。
 僕はもう慣れているし、もし外して嫌われたら嫌だからだ。
 カローナは何かを察したのか、手を引っ込めて、キャーラと話していた。
 僕は一悶着が起きずにホッとした。
 ふとムーナがいない事に気づいた。
「そういえば、ムーナは?」
 ケーナはこれに気づいたのか、カローナ達に聞こえる声でそう聞くと、二人の姉も彼女を探していた。
 すると、どこからか怒声が聞こえてきた。

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