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スターフィッシュを追いかける、真夜中の甲州街道で

セックス中じゃないと本音を言えない私たちだった。

「好きって言って」

「ずっと会いたかった」

「さいご、名前呼んで」

「  」「愛してる」

その最後の瞬間は、静止画のように今でも目の奥に焼き付いてる。毎回これで終わりにしようと思ってたから、まだその画が鮮やかで安心した。しかしゆっくり思い返してみると、さほど会話は成立していない。くるくると場面が変わる、あまり思い出せない夢のよう。でも私たちは、セックスでもしなけりゃ本音も言えない可哀想な動物だったのだから仕方がない。

19時渋谷TSUTAYAの前か、19時半新宿ビックロの前か、安っぽいホテルの一室か、それくらいしか君の背景の記憶はない。レーザービームみたいなネオンや、そのネオンが反射してピンクに光る都会の雲は君の横顔によく似合ってる。出会った瞬間から多分好きだった。多分君もそうだと思う。ただ最初から普通のどこにでもいる恋人同士になれないって分かってただけで、こんなにも拗れてしまうものなのか。好きだと伝えたいだけなのに、私の口から出るのは相手を軽んじる粗末な言葉だった。都合のいい日だけ連絡して、2時間半で解散。2,3ヶ月に一度の150分が何より大切だったのに。君もまた同じだった。割り切っていて、諦めていて、でも断ち切る勇気はなくて。腹の探り合いは疲れるよね。ま、それが幸せという名前だったのかもしれないと今になって思うけれど。少なくとも連絡すれば会えるというのは、君の名前を口にする勇気もない今の私に比べればよっぽど幸せなのだろう。

あれ、もう真夜中だ。しっかり定時で上がった金曜日、Netflixを見ながらバニラアイスを食べて、石榴のお酒をちょびっと舐めて、ソファに転がっていた。涙は乾いて、ちょっと酔ってる。君がずっと前に残した留守電を何度も聞いているうちに今すぐ会わなくてはいけない衝動に駆られた。

 “もう終わったことだよ。”

2%の素面が少し私を引き止めたけどもう止まれない。気づいたら甲州街道でタクシーをつかまえていた。慌てて家を飛び出したから、結構汚れたスニーカー。いつも会うときは、背の高い君に遠慮せず7cmのパンプスを履いてたのにね。変なプライドとか、駆け引きとか、どうせ…っていう諦めとか、そんなものはたった今捨てる覚悟ができた。ほどけかけたスニーカーの紐をタクシーの中で結び直して、電話をかけて、眠そうな君の声が久しぶりで、初めてセックス無しで私の本音を言えそうな気がした。

「ね、名前呼んで」



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十月 咲
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