2.ミレトス学派 1. タレス
※以上の"A Presocrated Reade"の 2.1.タレス の訳です。比較的自由に訳しています。
タレス、アナクシマンドロス、それにアナクシメネスはいずれもイオニア(現在のトルコ西海岸)のミレトス市出身である。彼らはミレトス「学派」哲学と称されるものを形成している。伝統的報告では、タレスはアナクシマンドロスの師であり、アナクシマンドロスは今度はアナクシメネスの師となった。アリストテレスはその哲学史の解説をこれら三人による原因と原理の探求から始めている。
2.1. タレス
タレスはギリシアの七賢人の筆頭に現れる。七賢人とは、賢者といえば伝統的に列挙される古代ギリシアにおける七人の著名人をいう。年代記作家のアポロドロスによれば、タレスは紀元前約625年頃生まれたそうである。もっとも、この誕生年代は用心して始めて受け取られるべきものである。というのも、アポロドロスはたいていは四十歳を盛りの歳、つまり最大の業績を残す歳と思い込んでいるからである。だから、アポロドロスがタレスの生まれをこの誕生年代だと結論づけたのは、タレスが実際に紀元前585年の日食を予言したからであり、その時にタレスは40歳だと想定したからである。プラトンとアリストテレスはタレスの話を伝えているが、それが示すのは、古代においてすら哲学者は現実の問題について相反する評価を得ていたということである。
1.言い伝えによると、かってタレスは天文学に没頭して夜空を見上げていると井戸に落ちたそうである。すると小賢しくて魅力的なトラキア人召使女がからかって言ったそうである、天について熱心に知りたがっていながらも、自分の陰になって見えない足元の穴に気づかないなんて、と。(プラトン『テアエテトス』)
2.話によると、人々が哲学は無意味だと思ってタレスの貧窮を問い詰めたことがあった。そこで、タレスは天文知識からオリーブの収穫高が増えるだろうと知っていたので、まだ冬であったけれども、わずかなお金を得ては頭金を払ってミレトスとキオスにあるすべてのオリーブ圧縮機を買い占めた。競り合う人もおらず、彼は安く借りることができた。その時が来ると、突如多くの人々が一斉に圧縮機を借りたいと言い出し、タレスは希望の言い値で貸し出したので、大金を稼いだ。このようにして、彼は望めば哲学者は容易に富裕層になれるが、しかし哲学者はこういったことには関心がないだけなのである、ということを証明したのだった。(アリストテレス『政治学』)
伝えられるところでは、タレスが研究したのは天文学であり(紀元前585年の日食についての発言があったかどうかは別としても、彼が日食に関心があったという証拠はある)、幾何学であり(彼はこの学問をエジプトからギリシアに導入したと言われている)、そして工学であった(ヘロドトスによれば、タレスはリディア軍を助けるためにハリス川の進路を変えたそうである)。その宇宙論では、タレスは言い伝えでは根本的物質を水とした。つまり、万物は発生源として水から生じるということであり、そして万物は何らかの形で水だということである。その報告者の一人であるアリストテレスは、この二つの命題のうちでタレスがどちらを採用したのかについては、確信を持っていないようである。このことからわかるのは、アリストテレスの時代ですでに、タレスを知る手掛かりとしてはタレス本人の認めた証拠はもはやなく、タレスに関する間接的証言があるのみであった、ということである。アリストテレスの準拠した伝統によると、タレスはまた大地は水の上に静まっているか、または漂っているとも考えたようであり、さらにはタレスは、魂は運動を生み出し、天然磁石は鉄を動かすので魂を持つ、とも考えたようである。
3.タレスの言うことには、太陽はその面前に月が来ると食を被るのであり、月が食を生み出す昼間は月が太陽を隠すことによって特徴づけられるのである。
4.原因は4つの点で語られる。その一つは物質である。我々の課題では、存在する事物について考え真理について哲学をした前任者たちを同学の士とみなすことにしよう。というのも、明らかに彼らもまた一定の原理と原因について語っており、だから彼らの発言を調べることは我々の現在の研究にとっては便利だからである。我々は何らかの他の種類の原因を見出すかもしれず、あるいは我々は現在論じられているような原因についてより自信を抱くことになるかもしれないのである。(アリストテレス『形而上学』)
5.最初に哲学を探究した人たちの中では、多数の人々が信じていたのは、万物の原理となる唯一のものといえば物質的原理である、ということである。というのも、あらゆる存在する物を構成するもの、あらゆる物を生み出したもの、あらゆる物が滅びゆくところのもの――これは存続しつつその属性を変えていくのであるが――このものについて彼らは述べており、それは存在する物の要素であり原理だからである。というのも、万物を生み出し、その一方でそれ自らが保たれるためには、少なくとも一つの性質が存在しなければならないからである。しかしながら、このような原理がいくつあり、またどういった種類のものであるのかについては、すべての哲学者が同意しているわけではない。しかしこの種の哲学の創始者たるタレスは、それが水であると述べたのである。(こういうわけでタレスは大地は水の上で安らっていると公言したのである)彼はまた万物の栄養分となるものには湿気があること、そして熱それ自体も湿気から生じてもいれば湿気に依存してもいること(万物の原理は万物を生み出すものである)、などを観察して、このようなことを考えたのかもしれない。このようなこと、そしてまた万物の種子たるものには湿気の性質があること、などからこの考えを得たのであろう。そして水こそが湿気のある物の性質の原理なのである。(アリストテレス『形而上学』)〔※訳注;アリストテレスの文は英訳されたものでも少々読みづらく、私の訳もいささか不正確であるかもしれぬ〕
6.大地は水の上に安らっている、と言う者がいる。これは私たちが受け継いだ最古の報告であり、このようなことを言う者は、ミレトスのタレスがそう言ったのだ、とするのである。大地が安らっているのは、大地は木材か何かのように水の上を漂うのである(というのも、何ものも本性上空中に安らうことはできないが、水の上に安らうことならばあり得るからである)。タレスは、大地それ自体については、大地を支えている水には同じ主張は当てはまらないかのように、このことを言うのである。(アリストテレス『天について』)
7.ある人々が言うには、魂は全宇宙に混合しており、そしておそらくはこういったわけでタレスもまた万物は神々に満ちている、と想定したのであろう。(アリストテレス『魂について』)
8.彼に関連することから判断するに、タレスも魂は何らかの意味で動きを生み出す者であると考えたようである、もし実際に彼が天然磁石は、鉄を動かすので、魂を持っていると言ったとすれば、であるが。(アリストテレス『魂について』)
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